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「売る」ためだけでなく「貸す」ことにも——「選ばれる」ためのホームステージング

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取材・文/浦邊 真理子

不動産業界において、「ホームステージング」という言葉を目にするようになり久しい。日本の唯一の専門機関である、一般社団法人日本ホームステージング協会(以下、ホームステージング協会)が設立されたのは2013年8月。それまで日本では、ホームステージングという概念もなかったと考えてもよいだろう。今回「2019ホームステージング協会コンテスト」のリフォーム部門でグランプリの受賞経験がある、リレストの千葉裕美さんに、ホームステージングの仕事内容や事例を伺い、実際にどのような効果があるのか迫った。

ホームステージングとは

ホームステージングの認知度は増えてきたが、まだこの言葉を知らない読者もいるだろう。ホームステージング協会によると、ホームステージングとは、1972年アメリカの不動産仲介業である、バーブ・シュワルツ氏が、売却物件に家具小物を設置し、早期売却に成功した経験をもとに、ホームステージングとして体系化したことが始まりとなっている。

日本でも近年、中古物件の流通促進に伴って、専門業社の増加や大手不動産会社が参入している。空室物件に家具や小物類を入れて、在宅物件内では片付けなどをしながら居住空間を演出する。しつらえた家具や片付けによって、内覧時に部屋に住むイメージを湧かすことができる。物件をより魅力的に見せることで、空室期間を短く、より高く売却することを目的とした手法として、日本でも普及してきた。

日本では、ホームステージング協会がホームステージングを行うホームステージャーの資格認定を行っている。また、ビフォーアフターのステージング効果を実例で比べるホームステージングコンテストを16年より現在までに5回開催している。


リレストが「2019ホームステージング協会コンテスト」リフォーム部門でグランプリを獲得した物件 BEFORE(左)AFTER(右) 画像提供/リレスト

インターネットで家を選ぶ時代 売買物件だけでなく、需要が伸びるホームステージング

ホームステージングの普及は、中古不動産流通が多いアメリカで売買物件を主力としてきたが、日本では売買物件だけでなく、賃貸物件でも広がりつつあるようだ。

賃貸物件は、今やインターネットで探す時代。殺風景な“がらん”とした部屋よりも、写真映えし、ユーザーの目に留まる物件にすることで視覚的インパクトを与える。今や、賃貸業界で勝ち抜く大切な集客法の一つと言える。

もちろん、画像だけの利点ではない。実際に内見に来て案内されたときの印象は格段によくなる。ステージングされた部屋から、自身の生活イメージを思い描くことで成約に至るケースも少なくないだろう。

コロナ禍により下火になってしまった、民泊やシェアハウス運営もステージングの力を必要とした。外国人の多くが顧客となる民泊では、「外国人が求める日本らしさ」を内装のデザインに落とし込み、おしゃれな若者を意識したシェアハウスでは、「今風」のインテリア空間に。そういった需要があったのだ。

今回お話を伺った千葉さんが代表を務めるリレストでは、インテリアコーディネートやインテリアデザインとホームステージングを組み合わせることによって、ホームステージングの「そのまま」の状態を、家具小物でいかによく魅せるかというスタイリング的効果だけに留まらず、住まいそのものの価値の向上を叶える。

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ステージングという言葉も知らなかった

千葉さんが今まで手掛けた部屋数は600件以上に及ぶ。

元々、インテリアコーディネーター、2級建築士、宅地建物取引士として不動産会社で勤務し、業務内で売買用モデルハウスのインテリアコーディネートを数多く手掛けていたという。建売やモデルルームに、家具や小物を設えて演出する仕事は、今でいうホームステージングだった。お客さんの内覧時の反応を見ているうちに、「これは賃貸の空室にも絶対にニーズがある」と考えていたという。

その後、リレストにて自社物件の空室対策にステージングを施していったところ、管理会社や仲介会社、オーナーから、「うちの物件もやってほしい」と予想外に反響が多く、口コミで評判が広がり、インテリア事業部をスタートしたのだという。

「当時はホームステージングという言葉も知りませんでしたが、今でいうホームステージングをずっと行ってきました」(千葉さん)

そして古民家再生、空室に悩むオーナーからの依頼で、賃貸物件のデザインリフォーム・リノベーションからステージングまでフルサポートを行うようになり、『もでるーむⓇ』というサービスを提供するに至ったのだ。

「もでるーむⓇは『売りたい・貸したい』というお部屋を、インテリアのプロが家具や小物でコーディネートをすることでモデルルームのように変身させ、“決め物件”に変身させるサービスです」(千葉さん)


リレストでの築100年超の古民家再生事例 BEFORE(左)AFTER(右) 画像提供/リレスト

もでるーむⓇでは、ステージング業務だけでなく、物件の立地、客層を分析のもと、リフォーム・リノベーションを含む効果的な提案を行う。そして物件の魅力を引き出し、結果、早期成約や家賃アップにまでつなげるサービスだと言う。ステージングだけでなく、リフォームデザインを行い、施工業者への指示やアドバイスを行う。

賃貸物件では、一室のみをステージングし、モデルルームとして早期入居付けや家賃アップを叶えてきた実績がある。さらに、次の入居付けがスムーズに進むよう、退去後のリフォーム、原状回復の際のクロスや床の色決めなどのアドバイスも行っている。

もでるーむⓇでは、価値のある結果となるように、費用対効果と回収できる適正な価格設定も人気の理由だ。


1K賃貸物件の原状回復色決め+ステージング事例 BEFORE(左)AFTER(右) 画像提供/リレスト

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賃貸経営とステージング

今や自ら100円ショップや、家具や生活雑貨を販売する店舗などで装飾小物を購入し、ステージングを施すケースも増えている。

そして、ステージングも多様である。入居希望者を選り好まないように、最低限の机と椅子、照明だけを設置したステージングもあれば、オーナーの好みが生かされたステージングや、時には「え?」と驚くような色や柄の壁紙が貼ってある物件もある。「こういう方に入居してもらいたい」というオーナーの希望で、「少女風」「ロック風」「カントリー風」などさまざまだ。

ステージングの正解は一つではないようだ。多くの人が好むような物件を作ることは、確率から計算すると正当だが、賃貸物件の場合は「オンリーワン」の物件を作って、その“ワン”に提供できればよい、とも言えよう。

今回の取材で、とても記憶に残る物件があった。

古民家—築50年以上経った築古物件のもでるーむⓇを見せてもらった。千葉さんが紹介してくれたのは、ぴかぴかに直した場面だけでなく、色を塗り直しただだけの天井部だった。


色を塗りなおしただだけの天井部

「この柄がとてもかわいくて」(千葉さん)

黄色に塗られたジプトーン素材の天井は、元のポテンシャル以上の輝きを放っていた。

千葉さんは、色彩感覚やコーディネート力が突出しているが、元からある建物の個性を生かし、魅力を引き出す“審美眼”と“職人技”がある。実施例を見ても、ターゲット層にあった家づくりのための“引き出しの多さ”を感じずにいられない。


民泊を意識した和室。元あった部材を生かし、ペンキの塗り替え、畳や障子の貼り替えでモダンに仕立てている

「リフォームのデザインは満点を目指さないことが大事です。あれも、これもと欲を出すと、いくら予算があっても足りません。借主の心を掴む『ちょうどいい加減』を操るのがミソです。一日でも早く成約をして、オーナー様にも入居者様にも喜ばれることがゴールです」(千葉さん)

完璧なリフォームをすることは、大家さんのコストパフォーマンスと合わないと言う。お金をかけるところ、かけないところを明確にすることが重要だ。

「心が喜ぶ部屋づくり」をコンセプトに掲げ、全身からそのオーラを発している千葉さんだが、経営目線も忘れてはいない。

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この記事を書いた人

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