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数値が示す若年層賃貸住まいの高い自殺率 賃貸住宅オーナーとしてできることは何か

朝倉 継道朝倉 継道

2021/09/04

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イメージ/©︎sutichak・123RF

入居者の自殺は賃貸経営の大きなリスク

賃貸住宅オーナーが抱える大きなリスクのひとつに入居者の自殺がある。これが起こると物件はいわゆる事故物件となる。

ショックを感じたほかの入居者の一斉退去、物件に毀損が生じた場合の原状回復、その後の入居者募集の難航、賃料減額を余儀なくされることも多いなど、さまざまな難題がオーナーには降りかかりやすい。

にもかかわらず、オーナーも、さらにはそれをサポートする管理会社もリスク管理としての自殺予防に何らかの力を注いでいるといった例はほとんど耳にすることがない。

賃貸経営の安定以前に社会的意義も大きい自殺予防のためのアクションをオーナーはぜひ進めていくべきではないか。

賃貸に住む若者は自殺しやすいのか

日本少額短期保険協会が興味深い数字を公表している。賃貸住宅内で自殺により孤独死した一人暮らしの人における年齢階級別の占有割合だ(対象期間2015年4月~2021年3月)。厚生労働省および警察庁の公表による、令和2年中の自殺者における年齢階級別の構成比と併せて並べてみたい。


出典/一般社団法人日本少額短期保険協会「第6回孤独死現状レポート」および厚労省・警察庁「令和2年中における自殺の状況」を基に作成

30代以下の若年層と70代以上の高齢者層での両データの差がよく目立つ。推測として賃貸一人暮らしをする若者はそうでない若者に比べ、自殺をしてしまう可能性が高い。

すなわち、上記のデータでは賃貸住宅で自殺による孤独死が発生した場合、死亡者が20代以下の若者である確率は約1/4、30代も合わせるとほぼ半分(49.3%)となる。一方、自殺者全体での数値を見ると、20代、30代の合計は3割(28.1%)に満たない。なお、この関係が高齢者層では逆転しているのも特徴的といっていい。

ちなみに、このうち日本少額短期保険協会によるデータをさらに男女別に見ると、特に女性では20代だけで“シェア”がほぼ4割(39.2%)に達してしまう。30代も合わせると6割を超える(64.6%)。このことについて同協会は、「若い世代の女性の自殺は、賃貸住宅入居者特有の問題である可能性がある」とコメントを添えている。さらに深掘りした調査が必要なテーマかもしれない。

日本の若者は自殺しやすい

一方、こちらはよく挙げられる数字となる。日本は残念なことにそもそも若者が自殺しやすい国として知られている。厚労省の「令和2年版自殺対策白書」ら数字を抜粋する。

年齢階級別死因1位「自殺」の構成割合

出典/厚労省「令和2年版自殺対策白書」
平成30年における死因順位別にみた年齢階級・性別死亡数・死亡率・構成割合を基に作成

このとおり、20~24歳の死亡においては、自殺が死因全体の実に5割を超えている。なお、実数は1045件で、2位の「不慮の事故」314件の3倍を大きく上回る規模となっている。さらに、25~29歳でも割合は5割に迫り、なおかつ実数は1059件。こちらは2位の不慮の事故257件の4倍超となっている。同白書はこれらについて、「我が国における若い世代の自殺は深刻な状況にある」との言及を添えているが、おそらくそのとおりで間違いない。

なお、15~34歳における死因の1位が自殺となっているのは、先進国(G7)中、日本のみとなっている。ほかは、フランス・ドイツ・カナダ・アメリカ・イギリスで2位、イタリアで3位となっている。日本における自殺の1位は、アメリカのデータにおいて、「殺人」が3位に飛び込んできているのに次ぐ、特異な数字といっていい。

季報を配るオーナー

このように、日本社会においては、そもそも若者が自殺しやすいという残念な傾向が見られるうえに、彼ら・彼女らが「賃貸一人暮らし」の環境におかれた場合、それがエスカレートする可能性もデータからは垣間見えている。

すなわち逆にいえば、賃貸住宅での自殺を少しでも抑えることは国や社会の未来を担う若者を無為なままに失う機会を減らす意味で、間違いなく意義深いものといっていい。

では、これら若者をはじめとする入居者の賃貸住宅内での自殺を抑えるにはどうすればよいだろうか。

それを考えるとき、多くオーナーは無力感を得るにちがいない。一部の例を除いてオーナーは入居者の自殺がもたらす影響を著しく被りやすい立場にありながら、一方で、彼ら・彼女らとの交流機会といえば非常に貧しく、乏しいものとなっている。要は気軽に声をかけられる関係性を持ちえていない。

そこでいえば、かつての下宿の家主など、いわゆる昔の「大家さん」のなかには日頃入居者と密接にかかわる中でまさにゲートキーパー(自殺を思いとどまらせるきっかけやカギとなりうる人)のような立場にいた人も多かった。しかしながら、いまや時代は変わり、それらは世の中から消えた存在といってもいいだろう。

だが、それでもオーナーにはできることがある。それはきわめて単純なことだ。悩み、行き詰った人が頼れる相談相手の存在を入居者に積極的に知らせてやればよい。

例えば、あるオーナーは、A4の紙1枚表裏・自作の「季報」を入居者ひとりひとりに配っている。そこには毎号、災害時の避難先や、粗大ゴミの回収受付先といった生活情報に並んで、さりげなく自治体の悩み相談窓口の連絡先や、厚労省が紹介している各オンライン相談窓口のQRコードなどが掲げられている。

すなわち、それらがたまたま悩んでいる入居者の目に入り相談のきっかけとなれば、それは大変素晴らしいことであるとの趣旨だ。

ひとりの命がこれによって救われ、かつ、オーナーにとってのリスクも消し去れるかもしれないとすれば、実に“効率的”で“楽”なひと手間であり行動といえるだろう。

行動は起こせば可能性が多岐に無限に広がっていく。だが、起こさなければ結果はつねにゼロだ。目の前にある行動の扉をぜひわれわれもひとつずつ開いていきたいものだ。

 

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この記事を書いた人

コミュニティみらい研究所 代表

小樽商業高校卒。国土交通省(旧運輸省)を経て、株式会社リクルート住宅情報事業部(現SUUMO)へ。在社中より執筆活動を開始。独立後、リクルート住宅総合研究所客員研究員など。2017年まで自ら宅建業も経営。戦前築のアパートの住み込み管理人の息子として育った。「賃貸住宅に暮らす人の幸せを増やすことは、国全体の幸福につながる」と信じている。令和改元を期に、憧れの街だった埼玉県川越市に転居。

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