テレワークを経験すると…住まいを変えたくなる可能性が2倍、3倍に
ウチコミ!タイムズ編集部
2021/04/28
文/朝倉継道 イメージ/©goodluz・123RF
2020年、テレワークという言葉が、誰しもに知られるものとなった。
理由は、もちろん新型コロナウイルスの世界的な感染拡大である。多くの方が、他人との接触をなるべく避けるため、出勤をせず、自宅など会社から離れた場所で仕事をする“テレワーク環境”を経験することとなっただろう。
とはいえ実は、このテレワークという言葉、コロナ以前から国は国民みんなに知ってもらおうと、一生懸命にPRを繰り返していたのだ。ご存知だろうか?
その主な目的のひとつが、東京オリンピック・パラリンピック開催時の交通混雑の緩和だ。加えて「働き方改革」の推進である。
そのために、国が設けた「テレワーク推進フォーラム」によって、15年からは「テレワーク月間」が定められ、毎年イベントなどが行われていた。なお、同フォーラムは、総務省、厚生労働省、経済産業省、国土交通省、産業界、さらに学識者で構成された組織である。
また、17年には、テレワークの普及と促進をよびかける「テレワーク・デイズ」もスタート。総務省、厚生労働省、経済産業省、国土交通省が連携して、企業に対しテレワーク導入を呼びかけるなどしていた。
政府のテレワークの普及活動 ほとんどの人は「知らなかった」
これらについては……
「まったく知らなかった」
「そういえば、そんなことがあったような気も……」
というのが大半の答えだった。国によるこうしたテレワークの普及・促進活動は、いま記したとおり、東京オリンピック・パラリンピックのスムースな開催が、ひとつの大きな理由となって進められていたもの。
ところが、皮肉にも、その東京オリンピック・パラリンピックを吹き飛ばしてしまったコロナが、逆に、テレワークを世の中に知らしめ、一部に定着させる結果となった。これは、面白いといっては不謹慎だが、たしかに面白く、不思議な歴史の流れである。
「テレワーク人口実態調査」の結果
そこで、この記事ではある資料をご紹介したいと思う。
上記、「テレワーク月間」や「テレワーク・デイズ」に併せて毎年行われている(実際にはそれらに先駆けて行われている)国による「テレワーク人口実態調査」の結果を記したレポートだ。
最新版となる令和2(20)年度分が、下記リンク先にて公開されている(21年3月19日公表)。
「国土交通省 テレワークの推進」
https://www.mlit.go.jp/toshi/daisei/telework_index.htm
調査規模の大きさを反映した、100ページ以上にも及ぶ詳細な報告書だが、内容はそれだけに緻密で堅牢だ。かといって、専門的で理解しにくいといった風でもない。
賃貸住宅を含む不動産市場にも大小のインパクトを与えているテレワークの広がりについて、現状を把握するため、基礎となる資料といってよいだろう。ぜひ目を通してみてほしい。
内容の一部をご紹介しよう。多数にわたる項目の中に、「新型コロナウイルス感染拡大に伴う働き方、住まい方への影響」というものがある。
そのなかで、「テレワーク」「コロナ」さらに「転居」の3つを絡めたデータが紹介されている。ここでの調査対象は、「雇用型就業者」の皆さん3万5727人だ。
なお、このなかには、要は勤め人である「雇用型テレワーカー」8205人が含まれている。企業などに属しながら、通勤せずに自宅などでテレワークしている方、または、その経験を持つ方である。すなわち、今回のコロナ禍でドッと世の中に増えた方々だ。
そこで、まずは上記、雇用型就業者の皆さん全体から、テレワーカーを除いた皆さんに(2万7522人)、コロナの影響を受けての「転居への意向」を尋ねると、答えはこうなる。
a「既に転居済み」…1.5%
b「転居に向けて具体的に検討中」…1.6%
c「実現可能性を含めて情報収集を始めたところ」…1.1%
d「転居の希望は漠然とあるが、特に何もしていない」…3.9%
e「転居の希望はあるが、都合により転居できない」…2.4%
f「転居の希望はない」…89.6%
ご覧のとおり、コロナ禍を受け、
・転居に向けて具体的な行動をとっているか、すでにとった方
…4.2%(a+b+c)
・行動の有無にかかわらず、転居の希望を抱いている(いた)方
…10.5%(a+b+c+d+e)
との結果になっている。次いで、今度は対象を雇用型テレワーカーとし、数字を拾ってみよう(8205人)。すると、様子はかなり違ってくる。
a「既に転居済み」…3.6%
b「転居に向けて具体的に検討中」…5.3%
c「実現可能性を含めて情報収集を始めたところ」…4.0%
d「転居の希望は漠然とあるが、特に何もしていない」…8.5%
e「転居の希望はあるが、都合により転居できない」…3.3%
f「転居の希望はない」…75.4%
・転居に向けて具体的な行動をとっているか、すでにとった方
…12.9%(a+b+c)
・行動の有無にかかわらず、転居の希望を抱いている(いた)方
…24.7%(a+b+c+d+e)
このとおり、「転居に向けて具体的な行動をとっているか、すでにとった方」では、後者(雇用型テレワーカー)の割合は、前者(非テレワーカー)の約3.07倍だ。
「行動の有無にかかわらず、転居の希望を抱いている(いた)方」では、後者が前者の約2.35倍となる。すなわち、同じ「コロナ下」という環境にありつつも、そこでのテレワーク経験の有無は、ある程度の違いで人々の考え方を分けている。
端的には、テレワーカーになったり、テレワークを経験したりすると、住まいを見直したくなる確率が上がる。一方、そうした経験がないと、人々はそこまで“焚き付け”られないようだ。テレワークの今後の広がりと定着の度合いが、やはり気になってくるところである。
この記事を書いた人
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