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コロナ禍での隠れたヒット「防音室」

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文/朝倉 継道 イメージ/©︎Axel Bueckert・123RF

山野楽器が昨年9月、「おうち時間が増えて『売れた商品』ランキングTOP10」を発表した。

「『コロナ禍』による外出自粛の中、家でできる新しい趣味を始める方が増えている」「料理やおうちフィットネスなどと並び、楽器演奏も人気を伸ばしている」とし、このような環境下で売り上げを伸ばした楽器、カテゴリーのTOP10が示されている。

これが興味深い。

1位がウクレレ、2位がアコースティックギターと、それらしいものが続いているのだが、いきなり3位に、楽器ではないある「大型アイテム」が挙がっている。

「防音室」である。

伸び率はなんと198%。「前年(2019)同期に比べ約2倍の売り上げ伸長」(対象期間6~8月)だという。

おうち時間が増えて『売れた商品』ランキングTOP10

出典/山野楽器 おうち時間が増えて『売れた商品』ランキングTOP10

「外出自粛によって自宅で楽器の練習をされるお客様からの防音に関する問合せが増えている。…0.8畳の小ぶりなものから4.3畳といった複数人が利用できるサイズまで、種類はさまざま。…リモート会議用として使いたいといったニーズもあるようだ」と、レポートに記されている。

なお、山野楽器のような楽器会社が商品として扱う防音室は、主に2種類ある。

ひとつは、形がほぼ決まっている、組み立て式ユニットタイプ。もうひとつは、防音室を内部に包み込む周りの部屋・スペースなどのかたちに合わせ、オーダーメイドしていくタイプだ。

ちなみに、ユニットタイプの場合、一度組み立てても解体すればもとの部材や部品に戻り、引っ越し荷物として運搬することもできる。

これらは、主に音楽愛好家向けの商品として知られていたものだが、今回、期せずして、コロナにより市場を広げた格好となる。

そこで、この防音室への注目度を「Google Trends(グーグルトレンド)」でリサーチ。グーグルトレンドは、グーグル社が提供しているインターネット・ツールだ。任意の検索ワードについて、それを人々がどれだけ検索しているかを相対的な「人気度」で示してくれる。

早速、検索ワード「防音室」における、2019年2月から2021年1月までの人気度を見ると、まさに2020年4月の1度目の緊急事態宣言と同時にグラフが急上昇。ゴールデンウィーク後半頃には一気にピークへ駆けのぼっていた。

次いで、その後少し様子は落ち着くものの、前年2019年のレベルとはフェーズが変わった状態で、一定の人気を保ち続けている。

さらに、年が明け(2021)、先般2度目のコロナ緊急事態が宣言されると、グラフはこれを追ってまた上昇するかたちとなっている(設定する期間によってグラフのかたちは若干変わる)。

そうしたわけで、防音室はまさに、山野楽器の発表のとおり、コロナの追い風をうけて羽ばたき、マーケットを音楽関係以外にも広げた、隠れたトレンドアイテムといっていいだろう。

そこで、「この防音室を賃貸住宅に導入し、経営の目玉にできないか?」  
と考える賃貸住宅オーナーもいるかもしれない。

実は、メーカーサイドでは地味ではあるが、そんな売り込みを以前からしている。たとえば、防音室といえば音楽関係者の間ではすぐに名前が挙がるメーカーにヤマハがある。

ヤマハでは、「空室対策にヤマハの防音室」などと、思い切りベタに銘打って、導入事例や商品ラインナップなどをサイトで紹介している。

・賃貸住宅の各居室には …ユニットタイプ
・共用部分には …自由設計(オーダーメイド)タイプ

と、いったアピールのほか、投資リスクを抑えられるレンタルプランなども案内されているのだ。

 さらに、

・不人気になりがちな1階への導入
・共用部分に防音室を設置してコミュニティ形成のコアに

と、いった「なるほど」と思うような提案もある。興味があれば確認してほしい。

もっとも、筆者の見解では、ヤマハの展開する多くの事業の中において、住宅向け防音室は現在あまり力の入ったものには見えない。だが、今後は変わるかもしれない。

なぜならコロナ禍は、外出自粛や臨時休校、テレワーク(在宅勤務・リモートワーク)の普及といった社会の変容を通じて、住環境においての「音」の問題に多くの人々を目覚めさせたからだ。

そのため、2020年は、たとえば多くの賃貸住宅管理会社においては、過去最大の量におよぶ騒音苦情への対応を強いられた年となっていたはずだ。

住宅内設置型の防音室をはじめとする住宅向け防音市場は、従来の主なマーケットであった音楽演奏家向けのみならず、「テレワーク」「副業」「自宅就業」「子育て」「さまざまな音を出す(あるいは静けさを求める)趣味の分野」などで、今後広がることはあっても、おそらく狭まることはないといえるだろう。

とはいえ、「防音室ではいかにも窮屈」と、いう人もいるだろう。

住宅における防音・遮音については、家自体がまるごとそれにくるまれたかたちが理想であることに間違いはない(火災など、外での緊急事態を察知しにくいといったデメリットはある)。

それでも、自宅内に、高い防音・遮音性能を備えた空間があったとして、これを喜ぶ人はいても、厄介に思う人はいないだろう。

物件のリノベーションプランを練る際に、考えておきたいオプションのひとつだ。

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