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算多きは勝ち、算少なきは勝たず――「絶対に負けない体制を整える」 ⼤家業としての「戦略」を忘れるな

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取材・⽂/財部 寛⼦

今後、賃貸業界では今まで以上に空室率が⾼まるといわれ、その対策に躍起になっている⼤家も多いかもしれない。しかし、空室を埋めることが最終⽬標でいいのだろうか。事業家であるなら、その先の未来、つまり「戦略」を考えたうえで、空室対策をするべきなのではないだろうか。29歳で不動産投資をスタートした⽊村厚夫さんは、常に「戦略」を重視して事業を展開する。サラリーマンの顔も持つ⽊村さんの不動産投資への考え⽅、⼤家としての⼼得などを聞く。


⽊村 厚夫(きむら あつお)
「軍師⼤家の会」代表。1981年⼤阪⽣まれ。東京都在住。⼤学卒業後、アパートメーカーに就職。あまりにブラックな職場のため3カ⽉でうつ病を患い退職。計2回の転職を経て、現在は⼈材紹介業を⾏う会社のサラリーマン。本業では、「年収をあげるプロ」として活躍。2009年、200万円の資⾦を元⼿に不動産投資をスタートするも、⾼⾦利&低利回りの問題だらけの失敗物件を購⼊してしまう。その後、物件の⼊居率、家賃をあげて利益を出して売却。同様のことを3棟⾏い、数年で1億円超の利益をあげる。現在は都⼼から地⽅まで、新築から再⽣不可のボロ物件まで幅広く⼿掛けている。孫⼦⼤家という著書名で、『サラリーマンが副業で最短で年収を超える不動産投資法』(ぱる出版 刊定価1500円+税)を上梓。

不動産投資 1棟⽬の⼤失敗

――⽊村さんは、サラリーマンとして結果も出しながら、⻑く⼤家としての仕事もされています。そもそも、なぜ会社員を続けながら不動産投資を始めたのですか。

私は、中国の武将・孫⼦の兵法にある「絶対に負けない体制を整える」という⽣き⽅を意識しています。

サラリーマンとしては、⼀⽇の仕事を1〜2時間で終わらせ、短時間の業務でも会社の⽬標の100%以上を達成できる仕組みを作ることができていたので続けてきました。

しかし、もともと物事をネガティブに考えるタイプで、学⽣時代から⾃分にまったく⾃信がありませんでした。仕事で営業の成績を残すことができても、「もし声が出なくなったら、もし⼿⾜が不⾃由になったら、営業の仕事はできなくなる」と考えるんですね。そういう状況になってもできる仕事、収⼊を得られる仕事は何かと考えたとき、不動産投資だったんです。

そこで、不動産投資に関する本を200冊くらい読んで勉強しました。しかし、1棟⽬の購⼊は⼤失敗でした。

——どのような物件でしたか。

駅から徒歩17分、ファミリー向けの部屋が10戸程度ある物件です。ただ、隣に⼯場があって昼間はうるさい。購⼊するとき、退去する⼊居者が2、3件決まっていました。さらに、謄本には鉄⾻鉄筋造と書かれていたのですが、実際は地下だけが鉄⾻鉄筋造で地上の建物は鉄⾻造という物件でした。

——そういったことは購⼊する前に分からなかったのでしょうか。

1棟⽬の購⼊ということもあり、そもそもどうやって融資をつけたらいいかが分かりませんでした。年収が700万〜800万円あったとはいえ、キャッシュは500万円程度しかありませんでした。そのため、現地に買い付けに⾏っても融資がつかずに買えない、という状況を繰り返していたんです。そんなとき、夜中の2時ごろにメールをチェックしていて気になった案件がありました。そんな時間に業者さんに電話をしても出ないだろうなと思いつつ、電話をしたら出てくれたんですよね。しかも、すぐに⾒に⾏けるということでした。本を読んで得た知識のなかに、「スピード感が⼤事だ」ということもありましたので、「これだ!」と思ってすぐに買い付けを⼊れました。

——1棟⽬をなかなか購⼊できないという焦りもあったのかもしれませんね。

いま考えると、その業者さんもかなりやり⼿でしたね。当時の私は簡単に融資が下りる属性ではなかったはずですし、また、鉄⾻造の件も銀⾏に契約に⾏く当⽇に、まさに銀⾏の前で聞かされました。買いたい気持ちの⽅が強すぎて、もう断ることができませんでした。隣の⼯場の件も、物件を⾒に⾏った⽇は⼯場がちょうど休みの⽇。だから、そのときは静かな場所だなと思っていたのですが……。

——管理はどうしていましたか。

⾃宅から近かったこと、⼾数が多くなかったこと、また管理会社に⽀払う費⽤がもったいなかったことなどから、⾃主管理をしていました。管理の部分では⼤きな問題はありませんでしたが、リフォームに頭を抱えました。購⼊後、すぐの退去があってリフォームの必要があり、⼯務店に費⽤を払うために働いているような感じになってしまいました。半年くらい経っても通帳におカネが全然残っていない。だから、さらに本を読んで勉強をしましたが、⼤きく改善する⽅法を⾒つけられませんでした。

——その結果、どうなったのでしょうか。

半ばあきらめて、戦略ゲームばかりやっていました(笑)。そのとき気付いたのは、不動産投資に孫⼦の考え⽅を取り⼊れていないということでした。私は、孫⼦の兵法をもとにした戦略ゲームが好きで、サラリーマンの仕事にもその考え⽅を活⽤していたんです。

魅力のない物件も戦略でカバーする

——そこから⽊村さんの不動産投資が変わっていくんですね。

私の⼈⽣では、孫⼦の「勝てない敵とは戦わない」「戦略を⽴てる」「戦わずして勝つ」という考えを重視しています。

1棟⽬の物件は、駅から遠くて、築古で、隣にうるさい⼯場がある。つまり魅⼒がなく、普通の物件と戦っても勝つことはできません。8割の⼈がいいと思う物件ではなく、1割がいいと思ってくれるトガった物件を作ることにしました。さらに、転売を出⼝にすることにしました。

——家賃を⾼くして、物件そのものを⾼く売るということですね。 

収益に対する不動産の評価額を計算するキャップレートを意識します。たとえば、キャップレート6%で家賃が1万円上がると、1万円×12カ⽉÷0.06という計算になり、200万円の価値を⽣むことになります。こう考えれば、100万円を投資してトガったリフォームをしても利益になりますよね。そのため、家賃を上げることに全⼒を注ぎました。そして、個⼈で不動産を購⼊した場合に売却の税率が20%に下がる6年後、転売して⼀気に利益を出しました。

——キャッシュ・フローを求める⼤家さんがほとんどだと思います。1棟⽬の購⼊から半年でその発想になる⼤家さんはなかなかいないでしょうね。

私も最初はキャッシュ・フローだと思っていました。読んできた本にも、私がやってきたような⽅法は書かれていませんでしたから。しかし、購⼊から半年経過した時点では、どの物件も⾼かったんですね。

融資が出ているから⾼いということ、その後は下がっていくだろうということは感覚的に分かりました。

そこで、融資が出ている間に安い物件を購⼊・即転売してキャッシュを残し、融資が締まり出してからが勝負だと考えました。

1棟⽬を購⼊したのが2009年、売却したのが15年です。そして、16年に3棟購⼊して、17年度中に全部売却。約1億円の現⾦を作ることに成功しました。

ポイントは「得してもらう」「楽しんでもらう」

——ひとつひとつの出来事にとらわれていては、賃貸経営はうまくいかないですよね。

私は「戦略> 戦術> 戦闘」が⼤事だと思っています。

空室を埋めるためにDIYをしたり、⼊居者さんのクレームに⾃ら対応したりといった⼈もいますよね。しかし、私にとってこれらは「戦闘」でしかない。もちろん、DIYに明確な戦略があるならいいのですが、例えば規模が⼤きい物件でDIYばかりしていてもあまり意味がありません。

⼤家は事業家です。「空室を埋めた先に何をしたいのか」といった戦略を⽴てることが重要なんです。

——管理に関しても、管理会社に任せきりという⼤家さんもよく⾒受けられます。

私もほとんどの物件に管理会社を⼊れていますが、“パートナー”として仕事をしてくれる管理会社を選んでいます。たとえば、管理会社からいろいろアドバイスや意⾒をもらうことがありますよね。しかし、それが正しいとは限りません。その意⾒の根拠をきちんと答えられる⼈だけを私は信⽤するようにしています。これは管理会社に限ったことではなく、銀⾏も⼤⼯さんもそのほか関わる会社すべてに共通していえること。いかに彼らと⻑期的に仕事をしていけるかどうかが⼤切です。そして、お互いビジネスですから、「私とつき合った⽅が得するよ」といった感じでパートナーを組んでいます。みなさんにちょっとずつ得してもらう、楽しんでもらうことで、最終的には⾃分⾃⾝が得をすることになりますから。

——「得してもらう、楽しんでもらう」とは具体的にどのような⽅法ですか。たとえば、⼤⼯さんを例にとって教えてください。

以前、天井の⾼さが2メートルくらいで、窓がほとんどない部屋が2つある物件がありました。⽴地はいいのですが、とても住みたいと思えるような部屋ではありません。そこで、壁を壊して1部屋にして、⾞庫を作ることにしました。ここに住みたいと思うのは、ちょっとやんちゃな⾞を持つ若いカップルだと想定しました。⼤⼯さんもちょっとやんちゃなタイプだったので、「予算の範囲内で、あなたが住みたいと思うような部屋にしてください」とお願いしました。出来上がった部屋は基本的に⿊、シャンデリアをつけてくれていました。いかにも、という仕上がりです。⼤⼯さんは作業をするうちに楽しくなったようで、おそらくコストに合わない仕事をしてくれたと思います(笑)。予想を超えて、かなり⾼い賃料で⼊居はすぐに決まりました。

——仕事をお願いする相⼿が楽しくできるかどうかもポイントだということですね。

ただ「安くしろ」と⾔われても、誰だって嫌じゃないですか。相⼿のセンスをほめてアイデアを出してもらったり、感謝の気持ちを伝えたりすることはとても⼤切だと思います。


「相手のセンスをほめたり、感謝の気持ちを伝えたりすることが⼤切」と話す木村オーナー

——物件を新たに購⼊するときに⼼掛けていることはありますか。

さきほどの⼤⼯さんに⼿を⼊れてもらった物件もそうですが、ペルソナ設定をきちんと⾏います。

埼⽟県の⼤宮駅から電⾞で4つ⽬に⽩岡駅があります。通勤などを考える⼊居者は、⼤宮駅から3つ⽬くらいの駅までで物件を探すことが多いそうです。しかし、私は、その1駅に⼤きな差はないと考えました。⽩岡は2DKのアパートで家賃4万円くらいが相場です。私はその⽩岡で1K、5万円の物件を作りました。

——もともとどのような物件だったんですか。

駅から商店街を歩いて3分、三⽅⾓地です。この物件に住む⼈について、「夜遅くまで働いている⼥性、ペット好き」というイメージが湧きました。駅から近くて商店街であれば、遅く帰ってきても怖い思いをすることはあまりないでしょう。また、飼い猫は家の中から窓の外を⾒ることでリラックスできるということも調べて分かりました。つまり、三⽅⾓地の⼟地は猫にぴったりです。

こういった⼊居者をターゲットにしたことで、私の予想通り、⼀度満室になった後は、ほぼ空室にはなっていません。

——管理会社に相談すれば出てこないアイデアかもしれませんね。

このペルソナ設定を管理会社に話しましたが、けっこう⽌められましたよ。やはり、管理会社は、どこの駅で駅から何分、何㎡といったデータで判断することが多いと思います。⼤家は、反対する理由をきちんと聞くというヒアリング⼒も必要だと思います。


木村オーナーがペルソナ設定を行い、リフォームをした物件の事例 左:Before 右:After 

私が世の中に貢献できること それは不動産投資で安定利益を作り、⼤きな挑戦を起こす⼈を増やすこと

——最後に、将来描いている⽊村さん像をお聞かせください。

いまがかなり楽しくて、⾃分⾃⾝の⽬標はあまりないんですよね。しかし、不動産で収⼊が⼊る仕組みを作ったうえで、なにかに挑戦したいと思っている⼈を応援したいと考えています。私⾃⾝も、その仕組みができたので、サラリーマンは辞めて全く異業種での起業を考えています。

今秋、『勝ち抜くための不動産投資戦略』(とりい書房刊)という本も出版しました。本に書いてあることを2割くらい実⾏していただければ利益は出るはずです。

このようにして、不動産投資で安定利益を作り、⼤きな挑戦を起こす⼈を増やすこと、これが私が世の中に貢献できることだと思います。

『勝ち抜くための不動産投資戦略』 木村厚夫 著/とりい書房 刊 定価1500円+税

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この記事を書いた人

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