契約書をどう読み取るか――敷金・保証金を巡るトラブル(2/2ページ)
大谷 昭二
2020/05/08
契約金の振り込みとカギ渡し――家主と借主の公平性
家主は、借主が契約金のすべてを振り込んだ後は、手付金の倍返しでは契約解除ができず、借主は、家主からカギを受け取った後は、手付金の放棄での契約解除はできないということです。
しかし、これらだけが、「契約の履行に着手」として考えると、家主に非常に不利になる可能性があります。つまり、借主が契約金をすべて支払えば、家主は手付金での解約はできないのに対して、家主からカギを受け取る直前まで、借主は手付金の放棄だけで契約を解除することができるからです。
こうしたかたちで契約の解消が行われたとすると、家主は1年間、空室のまま残しておくというようなリスクを抱え込むことになり、法的な公平性があるとは言えません。そこで、家主・借主の双方とも、もはや後戻りができない状態になったときには、「契約の履行に着手」したと考えるほうが妥当です。
具体的に言えば、借主が契約金の残金をすべて支払った後は、家主も借主も、手付金での解約はできず、自己都合で解約する場合には、相手に対する損害賠償の責任が生じると考えるのです。家主については、判例などから、手付け解約できないのは明らかですが、借主の場合にも、「契約の相手方」ではなく、「当事者の一方」が契約の履行に着手したということで、手付け解約ができないと判断し、万が一、借主が契約を解除する場合には、敷金などは別として、礼金などは違約金として没収されても仕方ないと考えるべきでしょう。なお、いずれにしても、この点については、判例などで明確な判断がなされていないため、現場レベルで、どのような解釈を行うのが合理的で公平性を持つものなのかを考えて判断することになります。
この記事を書いた人
NPO法人日本住宅性能検査協会理事長、一般社団法人空き家流通促進機構会長 元仲裁ADR法学会理事
1948年広島県生まれ。住宅をめぐるトラブル解決を図るNPO法人日本住宅性能検査協会を2004年に設立。サブリース契約、敷金・保証金など契約問題や被害者団体からの相談を受け、関係官庁や関連企業との交渉、話し合いなどを行っている。