国交省が業界へ「お願い」を通知しています
ウチコミ!タイムズ編集部
2019/12/19
イメージ/123RF
もう少しで町が水浸しに!
今年2019年は、首都圏に暮らす多くの人が、身に迫る水害のリスクをひしひしと感じた年となりました。
多摩川の氾濫や川崎市のマンションでの浸水など、各地に被害をもたらした10月の台風19号が去ったあと、埼玉県のある不動産会社のスタッフが、近くを流れる川の様子を見に行ったそうです。川は一級河川です。他の川と合流後、末は荒川に注いでいます。
堤防の内側は、普段とは一変していました。ベッタリと横倒しになった草、枝のちぎれた木々、河川施設にひっかかったままの大量のゴミなど、増水の跡がまざまざと刻まれていたそうです。
しかも、怖いことに、あと数十センチも水かさが増せば流れが堤防を越えていたのではないかと思われる箇所が、いくつもあったそうです。堤防の外に目をやると、そこにはぎっしりと家々が建ち並んでいます。一戸建てもあればマンションもあります。アパートもあります。
そこで川と家並み、あらためて両方を見比べると、一目瞭然です。堤防の内側に残る増水の跡よりも、家々の建つ地面の方が明らかに低いのです。もしも、堤防がどこかで崩れ、川の水が溢れ出していたとしたら、見渡す限り並んでいるそれら住宅の多くが泥水に飲み込まれるのは確実でした。
今後、この地域の物件を扱う機会があったならば、売買だろうが、賃貸だろうが、「リスクをはっきりと告げないわけにはいかない」と、スタッフは感じたそうです。
知事会はハザードマップの重説化を提言
この台風19号による各地の被害に先立つこと3ヶ月近く前(7月23、24日)、富山県富山市で開かれた全国知事会議で、ある提言が行われていました。
・宅地建物取引業法を改正し
・市町村が作成したハザードマップについての説明を
・同法上の重要事項に位置付けること
との内容です。いわゆる「重説」に、ハザードマップを入れなさいということです。なお、この提言は、広島県や岡山県などで多くの死者を出した「平成30年7月豪雨(西日本豪雨)」での被害を念頭に行われています。
そのため、報道においては、水害が特にクローズアップされる雰囲気となっていますが、実際には提言の範囲はそれのみに留まっていません。地震、火山、土砂災害等含め、すべてのハザードマップです。
とはいえ、この話の中心が水害対策であることは十分に明らかで、国交省もこれと連動してなのか、知事会終了2日後の7月26日には、不動産業界団体に向けて依頼文を通知しています。
内容はこうなっています(要約)
・宅建業者は
・取引の相手方が水害リスクを把握できるよう
・契約が成立するまでに
・水害(洪水・内水・高潮)ハザードマップを提示し
・取引の対象である宅地や建物の位置等の情報提供をするようお願いする
さらに、この通知には、事業者に向けて具体的な説明の方法を記したQ&Aも付属しています。これにより、水害ハザードマップを示してのリスク情報の提供は、
「完全な義務ではないが、かなり重説に近いもの」
として、動き出したかたちです。なお、水害に限らず、一戸建てを中心に、一般向けの売買物件では、自然災害リスクに関する情報提供はすでにある程度浸透しています。上記によって、その度合いは今後一層高まっていくことになるでしょう。
賃貸では貸す時以上に売る時に影響?
では、賃貸ではどうでしょうか? ひとついえることは、ユーザーから水害リスクの有無を尋ねられた場合、仲介会社等は、今回の通知に従う限り、いい加減な回答ができなくなるということです。
「この物件、洪水の心配はないですか?」と、入居希望者に問われ、「さあ、僕は聞いたことないですけど」。そんなあいまいな返事はもう出来ません。
なぜなら、国の通知が出され、業界団体がそれを加盟事業者に周知した以上は、実際に被害が生じた際、補償の矛先が彼らに向けられる可能性が今後は大きく増すことになるからです。
また、それ以上に、賃貸オーナーにとっては、物件を売る際の気がかりが増えたことも事実でしょう。いま現在はご承知のとおり、収益物件を購入しようとする皆さんは、ハザードマップよりもほかのことをより多く気にします。
壊れかけている設備はないか、
不良入居者が住んでいないか、
レントロールに水増しはないか、
まともなパートナー(管理会社、ガス会社など)と契約しているか…
しかしながら、今後もそのままかはわかりません。
仲介会社が示す水害ハザードマップの中で、自らが買おうとする物件が危険を表す目立つ色に塗られた範囲の中にある場合、その物件に資金を傾けてしまっていいのか、逡巡する人はおそらく少なくないはずです。
ともあれ、繰り返しますが、首都圏という国の中枢地域も襲った今回の台風による水害は、われわれに大きなインパクトを与えています。賃貸オーナーという立場においても、その影響は今後意外なところに及んでくる可能性があることをわれわれはしっかりと胸に刻んでおく必要がありそうです。
なお、ハザードマップについては、全国各自治体による各種のマップを1箇所から検索できる便利なサイトがあります。下記をぜひご覧になってみてください。
(文/朝倉継道 画像/123RF)
この記事を書いた人
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