牧野知弘の「どうなる!? おらが日本」#11 マンションに住むなら高層階と中層階、どちらを選ぶべきか
牧野 知弘
2019/08/21
イメージ/123RF
タワーマンション 高層階のデメリット
タワーマンションの高層階は、眺望の良さや相続税対策としての節税にも利用できるということで、大変な人気を呼んでいる。また高層階は価格も高く、資産性もあるのではないかとの思惑も高層階の選択に拍車をかけている。だが高層階に実際に住むとなると、意外とデメリットがあることに多くの人は気づいていない。
駅から徒歩5分の立地であっても、高層マンションの場合、敷地が広く、敷地入口からマンション棟にアプローチするまでに数分かかる。さらにエレベーターで高層階に到達するまでにも時間がかかる。駅徒歩5分が、プラス5分程度は平気でかかってしまうのだ。
特に朝方の通勤通学の時間帯になると、各住戸から住民が吐き出されてくるのでエレベーターは大混雑。高層階から各階停車の状態ともなると、いつもの倍くらいの時間がかかることもある。高層階は決して「便利」ではないのだ。
最近の東京の湾岸エリアのマンションになると、建設当初にこれだけ多くのタワーマンションが建設され、住民が増えることを予想していなかったために、たとえば湾岸エリアにあるタワーマンション街の足、都営大江戸線では、出入口の階段が細く、また駅が非常に深いために、結局、高層階の住戸から駅のホームにたどり着くのに15分以上かかるという笑えない話になってしまっている。
また、高層階は基本的に洗濯物を外に干すことはできない。風が強いために窓を大きく開口することができないからだ。さらに風の強い日などには少し「揺れ」を感じる。実は高層オフィスなどでも日中は常時わずかに揺れているのだが、勤務中にこれに気づく人は少ない。だが、マンションは就寝するのでこのことに気づく人は格段に増えるのだ。人間にとって、地面から高く離れて住むという行為は、あまり自然な状態とは言えないようだ。住んだ当初は、この小さな「揺れ」で悩む人も多いと聞く。もちろん大地震などの時の揺れはその比ではないだろう。
高層階は意外と居心地が悪い
タワーマンションは、高層建築物であるために柱が多く、部屋のレイアウトに制約がでてしまうことも悩みだ。また住戸間の仕切り壁については通常のマンションとは異なり、重量の軽い素材を使うケースが多いために意外と音漏れもする。このように高層階は毎日の生活をおくるにはあまり居心地のよい建物とはいえないのだ。
それでもどうしてもマンションの高層階に住みたいということであれば、最上階を避けて住むことをおすすめする。マンションの最上階は意外と居心地の悪いものだからだ。
マンションが快適なのは、上下左右に住戸があるため、暖かいという利点がある。いっぽうで騒音などの問題もあり、特に上階が存在しない最上階は好まれがちなのだが、音の問題は上下階だけのものではない。鉄骨や床面などをつたって、さまざまなところから音は襲い掛かってくるので、最上階だから静かというわけではない。
また最上階は天井から上は屋根となるので、いくつか欠点が出てくる。
一つには、暑い、寒いということだ。上階はなく、外気に触れているので、当然、下階ほどの防熱、防寒効果は期待できない。また、ゲリラ豪雨のような大雨が降ると、屋上面を叩く雨音が意外と響くマンションも多い。さらに、屋上部分の防水工事を怠っていると、屋上から水漏れが生じる。その時に真っ先に被害に遭うのが最上階だ。
また屋上には給水ポンプやエレベーターの巻き上げ機などもあり、施工の悪いマンションだと、そうした設備音や、屋上を点検のために歩き回る足音などが響くケースもある。
眺望については、最上階もその直下の階も、そう大きく変わらない。最上階を避けて、そのひとつ、またはふたつ下の階を選択することが、高層階住戸を買うコツだ。
給水塔の近くはモーター音に注意
私自身は、マンションに住むのなら、3階または4階がベストだと思っている。
大きな理由の一つが、地震などの災害時でも、階段で上って大丈夫な高さであることだ。普段であれば、10階くらいまで階段で上り下りはできるかもしれないが、災害時に、給水車からもらった水を入れたバケツなどを運ぶことを考えると、5階以上はNGだろう。
また、1階や2階では、マンションの良さである眺望や空を見晴らす解放感が得られない。防犯上も2階までだと、空き巣や暴漢などの侵入も心配だ。マンションは玄関扉さえ施錠すれば、あとは窓も開け放って自由に過ごすことに楽しさがある。せっかくマンションに住むのなら、このメリットを享受しない手はない。
1階は、専用庭がついているので、小さい子供のいる家庭などでは1階を選択する人も多いが、これもよく気を付けたほうがよい。
私のお客様で、マンションの1階住戸の購入を検討していた人がいた。子供には庭があったほうがよい、との理由だ。私にアドバイスが欲しいということだったので、当該マンションの図面を取り寄せてみた。すると、検討していた住戸の専用庭の隣に給水塔がある。
このマンションは給水塔を屋上に設置せずに1階の空地スペースを利用していたのだ。
「お庭があるのはよいけれど、給水塔はモーター音などがうるさいかもしれませんよ」
とアドバイスしたのだが、そんな音は気にならないよ、ということでそのお客様は希望の住戸を購入された。
それから1年。件のお客様から電話をもらった。
「いやあ、牧野さんの言うとおりだった。夜中になるとモーター音がうるさくてたまらん。夏なんて窓開けて寝ることもできないよ。言うとおりにしておけばよかった」
ちなみにお子さんは小さなお庭には、いっさい降りてこず、日当たりがよくないせいか、せっかく植えた草花もすぐ枯れてしまい、結局物置になっているとのことだった。
最近のマンションは敷地内の緑化計画も充実していて、大きな樹木を最初から植樹して環境づくりに気配りをしているので、3、4階だと、この樹木の緑が借景となり気持ちの良いものだ。
虫がくるのでは?という人もいるが、高層マンションの場合は、意外と3、4階には蚊やハエなどの虫は入ってこない。なぜなら高層マンションになると、壁面に沿って常に上昇気流が流れているので、蚊などの軽い虫たちはこの上昇気流に乗って上階に運ばれてしまうことが多いからだ。むしろ上層階のほうで蚊の侵入が多いといったクレームが起こるのはこのためだ。
板状マンション 3、4階がベスト
理想はタワーマンションではなく、板状の普通のマンションの3、4階がベストだ。住戸の南北なり、東西なり両側に窓面がとれ、両側の窓が解放できれば、夏などの暑い時期でも風が通り快適だ。「二戸一エレベーター」と呼ばれるフロア二戸に対して一基のエレベーターが付設されている建物ならば、エレベーター側にも廊下がなく、部屋の窓を開け放つことで思い切り風通しを良くできる。
こうしたマンションは、実は平成のはじめ頃からたくさん作られている。間取りが上手にとれない高層マンションよりも快適な生活ができると思う。中古マンションなどを選ぶ際には参考にしていただければよいだろう。
マンションの住み心地は意外と低層階がよい。また価格も高層階に比べて低くなる。お買い得は結局低層階、これが結論だ。
この記事を書いた人
株式会社オフィス・牧野、オラガ総研株式会社 代表取締役
1983年東京大学経済学部卒業。第一勧業銀行(現みずほ銀行)、ボストンコンサルティンググループを経て1989年三井不動産入社。数多くの不動産買収、開発、証券化業務を手がけたのち、三井不動産ホテルマネジメントに出向し経営企画、新規開発業務に従事する。2006年日本コマーシャル投資法人執行役員に就任しJ-REIT市場に上場。2009年オフィス・牧野設立、2015年オラガ総研設立、代表取締役に就任。著書に『なぜ、町の不動産屋はつぶれないのか』『空き家問題 ――1000万戸の衝撃』『インバウンドの衝撃』『民泊ビジネス』(いずれも祥伝社新書)、『実家の「空き家問題」をズバリ解決する本』(PHP研究所)、『2040年全ビジネスモデル消滅』(文春新書)、『マイホーム価値革命』(NHK出版新書)『街間格差』(中公新書ラクレ)等がある。テレビ、新聞等メディアに多数出演。