建築基準法の一部改正で、空き家対策が進む?
川久保文佳
2019/07/12
イメージ/123RF
用途変更の緩和で広がる空き家の活用
空き家がこの20年で1.8倍に増加しているなど、空き家は益々増加傾向にあります。そんなかで2019年6月に建築基準法の一部が改定され、施行されました。この改正で注目したい点は、用途変更の緩和です。
これは空き家の対策には用途変更による利活用が重要との観点から、戸建て住宅等の(延べ面積200㎡未満かつ3階建て以下)を他の用途とする場合において、耐火建築物等とすることが不要となりました。ただし、在館者が迅速に避難できる措置を講じることを前提としていることは特筆されています。
これによって、時代とともに変化した生活様式や家族構成によって、使われなくなってしまった住宅が再生され、利用できる可能性が高まってきました。
例えば、大家族で使われてきた100㎡以上の住宅で、子どもたちが独立してしまい今は高齢の親世代だけが住んでいるような住宅では、これまで部屋数が多くて使いづらいものになっていました。しかし、別の用途への転用が容易になったため、活用の幅が広がりました。具体的には、家を民泊などに転用し、家自体が収益を上げるようにすれば、住みづらい大きな家で生活することなく、コンパクトでかつ、高齢者に利用しやすい住宅に引っ越すことかできるようになります。
さらに家族構造の変化によって利用しにくくなっていた住宅や長屋などは、この緩和によって賃貸や別の用途に変更することで、住み替えを促し、暮らしやすい住宅へ移動しやすくなります。
日本においては、家の価値は新築住宅を購入してから下がる一方なため、中古住宅の市場はなかなか活性化されていません。しかし、今回の改定によって、100㎡以上、200㎡未満の住宅の市場が動きはじめています。
中古住宅の需要を増やすためにはその住宅の価値を保つためのメンテナンス、また中古住宅市場が活性化されていくことが必要です。
その第一歩が今回の改定で、利用変更が難しかった空き家や集合住宅、長屋などの用途変更が容易になったことで、再利用される可能性が高くなってきたというわけです。
緩和される建築確認申請と検査済証で
また、木造建築物の整備基準の対象見直しも行われ、今まで木造建築物の耐火構造物とすべき木造建築物が高さ13メートルで軒高9メートル超えだったものが、高さ16メートル超・階数4階以上とされました。加えて、木材をそのまま見せる「あらわし」等も耐火構造以外の構造を可能とする見直しも行われています。
この見直しによっても中古住宅の取り引きが容易になると見られています。また、住宅を宿泊事業に転用する場合、建築確認申請と検査済証を求められました。この要件も用途変更に伴って建築確認が必要となる規模の見直しということで、緩和されています。
古い住宅では相続や転売によって持ち主が変更していた場合や古い住宅では、図面など書類が残っていない場合もあります。そのため転用にあたっては、第三者機関での検査と書類作成を行ってくださいという指導がありました。そこで第三者機関に依頼すると高額な費用が掛かっていました。そのため検査書類がなため転用を断念していた住宅も多くありました。
さらに、従来日本家屋において、木造建築物の多くは木造をそのまま見せる(あらわし)で建てられている部分も多く、これも転用の壁となっていました。
しかし、今回の緩和によって、こうしたハードルが低くなり、利活用できる範囲が広がってきました。この時期をみて、このような既存ストック住宅での宿泊利用への申請が増えてきているようです。
これまでホテルや旅館、簡易宿泊所、民泊などを開始しようとした場合、小さな住宅の転用は収益面で多くを見込めませんでした。
しかし、200㎡未満まで住宅では規制が緩和され、規定されているトイレやシャワーの設置部分も確保できるようになったことで、既存ストック住宅からの転用は宿泊人数を確保できるようになりました。
結果、空き家の転用が活発になり、不動産物件の中古市場も動いています。しかし、大きな住宅が緩和によって、転用可能になっている一方で、昭和30年代に建てられた極小住宅や文化住宅などは、まだまだ宿泊転用が難しい状況があります。
取り残される文化住宅の空き家
客室にトイレを付設すれば共同トイレが不要になり、1室のマンションでの旅館・ホテル業が可能になりましたが、極小住宅においては、まだまだ居室付設のトイレが必要とされているため、2階建ての物件などでは各階でのトイレの整備などの課題が残されています。
例えば、1階にダイニングやキッチン、リビングのある住宅で2階には部屋が1つしかないといような住宅でも、2階にもトイレを設置しなくてはなりません。こうした水回りの工事は古い住宅ではかなりの大改造になります。
空き家の利活用では、宿泊業や民泊への転用はひとつの選択肢になります。しかし、実際にはまだまだ課題が多くあり、そういう場合は下宿やシェアハウスへの転用になります。
日本での労働を目的で来日する外国人も増えていますが、賃貸住宅を契約するまでの期間にビザ取得のために、居住地としての契約が必要です。また、海外での大学での単位として、日本企業での研修が要件で認められている場合もあり、インターシップのために海外から来る学生も多くいるようです。
その滞在先として、一時滞在型の民泊のような住宅は求められています。今後ますます国際化が進むことが予想され、さらなる規制緩和が進めばよりよくなると考えています。
この記事を書いた人
一般社団法人空家空室対策推進協会代表理事/株式会社エアロスペース CEO/ビーモア株式会社代表取締役タナメラジャパン(マレーシアスパコスメ)代表/jasmin(全国民泊同業組合連合会)理事
一般社団法人空家空室対策推進協会代表理事/株式会社エアロスペース CEO/ビーモア株式会社代表取締役タナメラジャパン(マレーシアスパコスメ)代表/jasmin(全国民泊同業組合連合会)理事 北海道函館市生まれ。現在の札幌国際大学 卒業後、リクルート住宅情報事業部にてライターを務めた後、IT企業を経て不動産関連事業へ転身。その一方で、化粧品とサプリメントのコンサルティングや専門家としてのアドバイザー務める。海外派遣先では、フィリピン・タイ・カンボジア・マレーシアなどで日本への輸出入をテーマにセミナーを行うなどマルチに活動している。