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家とお墓の関係性

人は「家」と「墓」に何を求めるのか?(1/2ページ)

正木 晃正木 晃

2019/06/18

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イメージ/123RF

いつからお墓がつくられるようになったのか。この問いを考えるときに、重要なヒントがあります。それは、定住世活が始まらないと、お墓もつくられない可能性が高いという事実です。

現在でも、アフリカやアマゾンの奥地で、狩猟採集に従事して、移動生活をいとなんでいる人々は、立派なお墓をつくったりはしません。たとえば、ボツワナ共和国に居住している狩猟採集民の「サン族」は、人が死ぬと、その人が生前に着ていた皮製のブランケットで遺体を包み、生前に寝ていた姿勢で埋葬し、お墓の目印として、お皿を置くだけでした。

そもそも、移動生活をいとなむ理由の一つは、集団の構成員が病死したときの対処法でもあります。もし、その病気が感染症だったら、他の人々も感染する危険性があります。そこで、死者を埋葬すると、別の場所にさっさと移動してしまったほうが、安全なのです。その際はもちろん、死者が出た家は燃やされてしまいます。燃やされても、ごく簡素な家ですから、特に問題にはなりません。これは衛生面の管理原則から考えても、正しい選択と言えます。

この点に関連して、とても興味深い事実が報告されています。近年、ボツワナ共和国では、政府が主導して、サン族の定住化が進められてきました。すると、サン族たちも葬儀をいとなむようになり、いかにもお墓らしいお墓をつくるようになったのです。そして、それにともなって、立派な葬儀や立派なお墓が、その一家の社会的かつ経済的なステイタスをしめす指標になったのです。

死してなお、自らのステイタスを示すために
お墓がステイタスをしめす典型例は、古代エジプトのピラミッド、日本の巨大古墳、中国の皇帝陵など、いくらでも挙げられます。妙な表現で恐縮ですが、住居に比べると、お墓は長持ちします。仁徳天皇の宮殿も、秦の始皇帝の阿房宮も、今は影も形もありませんが、お墓は立派に残っています。ですから、少なくとも自分の得たステイタスを後の時代まで伝えるには、住居よりもお墓のほうがはるかに効果的なのです。

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この記事を書いた人

宗教学者

1953年、神奈川県生まれ。筑波大学大学院博士課程修了。専門は宗教学(日本・チベット密教)。特に修行における心身変容や図像表現を研究。主著に『お坊さんのための「仏教入門」』『あなたの知らない「仏教」入門』『現代日本語訳 法華経』『現代日本語訳 日蓮の立正安国論』『再興! 日本仏教』『カラーリング・マンダラ』『現代日本語訳空海の秘蔵宝鑰』(いずれも春秋社)、『密教』(講談社)、『マンダラとは何か』(NHK出版)など多数。

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