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牧野知弘の「どうなる!? おらが日本」#6 相続対策が招く一族崩壊

牧野 知弘牧野 知弘

2018/10/15

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宴には必ず終わりがある


市場に大量のマネーを供給することに成功したアベノミクス 写真/123RF

地価が上がり続けている。すでに東京中央区銀座の地価は平成バブル時の価格を上回っている。都心部では既存建物の建て替えやあらたな再開発の槌音が鳴り響き、日本は「大発展期」を迎えたかのような騒ぎである。アベノミクスが掲げた低金利政策は、平成バブルの時代と同様に市場に大量のマネーを供給することに成功し、結果として不動産に国内外の投資マネーが集まり都市部を中心に地価上昇を招き寄せた。

だが宴には必ず終わりがある。米国では今後も数回にわたる利上げが予定されている。先進各国が利上げに踏み切ろうとしている中で日本だけが惰眠を貪ることはできない。日本の金利、株式、そして不動産が「反転」する時期は近そうだ。

今回のバブルが崩壊すると、膨らみきった不動産マーケットにおいて甚大な被害が予想されるのが、この機に乗じて多額の負債を負って不動産投資を行ってきた不動産会社や機関投資家などだ。そしてこの中には節税対策を施した(つもりだった)湾岸タワマンオーナーや郊外部のアパートオーナーも大量に含まれることになる。

いつの時代でも、無理な借入金を行うと最後は身ぐるみ剥がされるというのは、真鍋昌平の漫画「闇金ウシジマくん」でも繰り返し描かれている世界だ。借入金は予定通りに返済できているときには、自分の生活基盤が一段上がったかのような気持ちになる。

だが、借入金はどんなに金利が低くとも、元本を返済しない限りは、返済の呪縛から逃れることはできない。ウルフルズが「借金大王」という歌でうたう「貸した金 返せよ」(作詞/トータス松本)というリフレインが聞こえてくるのだ。

元本を返済するだけの「稼ぎ」を確保するには、自らの事業が順調に稼げているかを常にチェックする必要があるということだ。事業を行うにあたってはきわめてあたりまえのことだ。そして借入金を得るにあたってこの事業には果たしてどんなリスクが存在するのかよく精査することが求められるのだ。

不動産業界は、魑魅魍魎が跋扈する世界

私は長らく不動産の仕事に係わってきて、相続を中心とした所謂「節税対策」の不動産投資の実態をつぶさに見てきたが、どうも多くの不動産オーナーが、節税対策を行うことばかりに考えが集中して、借入金の返済について、つまり自分がこれから行おうとしている「事業」の性能について「深く考えていない」のではないかと思われるケースが多いことに驚いている。

いっぽうでメディアを中心にこうした節税対策をセールスする側が、リスクに対する説明を十分に行わず、高齢者などの不動産オーナーが「騙される」ことを社会問題として大きく取り上げる傾向にある。

もちろん、世の中には悪い業者も存在することは事実だ。特に不動産業界は、業に携わる自分が言うのもなんであるが、魑魅魍魎が跋扈する世界でもある。

しかし、被害者のほうにももう少しちゃんとした判断能力を持ち合わせていただきたいとも思うのだ。たまたま訪ねてきたセールスマンの感じが良かったとか、とても人をだますようには見えなかったというだけの理由で、何千万あるいは何億もするようなアパート投資やマンション投資を行うのは、不動産オーナー側にも「事業」を行う上であまりに見識がなく、そして無防備すぎるようにもみえる。高齢者で判断能力に欠ける場合は仕方がないが、少なくとも子供や孫がそばについて事業内容をよく吟味する姿勢も必要なのではないだろうか。

あなたの幸せをどこまで考えているかは怪しい

アパート建設は、たくさんの土地を所有するオーナーであれば、ほぼ必ず業者や銀行がやってきて有利な節税対策になるとのセールスを受けることが一度や二度ならずあるはずだ。実際に更地で所有したままで相続が発生するよりもアパート等の賃貸建物を、借入金を活用して建設し、運用を行ったうえで相続を迎えるほうが、相続税ははるかに安くなるというのはそのとおりである。

しかしそのストーリーはあたりまえだが、アパート事業というビジネスが順調であることが大前提だ。日本は少子高齢化が進行していることくらいは誰でもが知っているはずだ。そして、自分が所有する土地の周辺に、アパートニーズがどの程度ありそうか、そのくらいはセールスマンの口上を聞くだけではなく、自分でよく考えて判断したいものである。

自分のアパートを建設してから周りに同じようなアパートが建って驚いたなどという感想もよく聞くが、業者が自分だけに耳寄りなアパート投資の話をしているはずがない。エリア内の需給バランスと将来的なリスクくらいには目を配っておきたいところだ。

トラブルになりやすいのが、サブリースだ。サブリースはアパート業者が一定期間アパートを借り上げて、賃料を保証してくれる仕組みである。だからアパート事業など何も知らなくとも安心と考えがちだ。たとえ空室が多くとも業者が保証してくれるからだ。

しかしアパート業者とて、商売である。こうした契約にはいろいろな条件を付して、大きなリスクを会社としてもとらないように工夫をしている。多くの場合は建物賃貸借契約期間とサブリース契約期間が異なることだ。賃貸借期間は30年であってもサブリースによる保証は10年間だけだったり、保証金額も5年で変更できるといったものもある。また、サブリース期間満了時には、指定された業者によるリニューアル工事を行わなければサブリース契約を継続しない、といった条項も多くの契約内容に見ることができる。サブリースは業者にとっても大きなリスクなのだ。当然そのリスクをどこかで穴埋めしなくては彼らだって商売にはならないのである。

金融機関もあまり信じてはいけない。彼らは融資を行うことで「自分のノルマを果たしたい」と願っているだけで、あなたの未来の幸せをどこまで考えているかは怪しいものだ。たとえ、十数年後にあなたの借入金が焦げ付いたとしても、もうそのお店からは異動していなくなっているので責任を目の当たりにする心配もないのだ。

このように調子のよい担当者や銀行員の弁に乗せられて契約内容をよく理解せずに、金融機関から言われるままに多額の借入金を調達し、アパート経営を始めたつもり、になっている不動産オーナーが数多く存在する。

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この記事を書いた人

株式会社オフィス・牧野、オラガ総研株式会社 代表取締役

1983年東京大学経済学部卒業。第一勧業銀行(現みずほ銀行)、ボストンコンサルティンググループを経て1989年三井不動産入社。数多くの不動産買収、開発、証券化業務を手がけたのち、三井不動産ホテルマネジメントに出向し経営企画、新規開発業務に従事する。2006年日本コマーシャル投資法人執行役員に就任しJ-REIT市場に上場。2009年オフィス・牧野設立、2015年オラガ総研設立、代表取締役に就任。著書に『なぜ、町の不動産屋はつぶれないのか』『空き家問題 ――1000万戸の衝撃』『インバウンドの衝撃』『民泊ビジネス』(いずれも祥伝社新書)、『実家の「空き家問題」をズバリ解決する本』(PHP研究所)、『2040年全ビジネスモデル消滅』(文春新書)、『マイホーム価値革命』(NHK出版新書)『街間格差』(中公新書ラクレ)等がある。テレビ、新聞等メディアに多数出演。

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