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築56年の鉄骨造マンションで入居率&家賃UP 入居者の希望を叶える「自分好み賃貸」

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築古の物件で高齢者の入居が多いとはいえ(別記事を参照)、神吉さんは若い世代に向け、賃貸住宅での新しい暮らし方も提案する。それが、入居者の好みに応じて内装をプランニングできる「自分好み賃貸」だ。築56年の「神吉マンション」での試みで、入居率や家賃のアップにもつながったという。「自分好み賃貸」を始めたきっかけや概要、メリット・デメリットなどを聞く。(取材・文/財部 寛子)

自分好みにリノベ 費用は大家が支給

───「自分好み賃貸」を思いついたきっかけから教えてください。

2018年に大家業を引き継いだとき、高齢の入居者が多いことよりも入居率の低さが気になっていました。私が引き継ぐ数年前に、3住戸でフルリノベーションをしていましたが、そ
れでも空室は埋まりませんでした。他にもあるような普通の間取りや内装でリノベーションしてもダメなんだと痛感しました。

そこで、知り合いの『人と不動産』という不動産屋さんに相談したところ、「入居者を決めてから、その人の要望に添ったプランニングでリノベーションしたらどうか」と提案されたんです。その提案をもとに、なかなか理想の部屋を見つけられない、自分のライフスタイルに合った暮らしをしたい、そんな思いを持つ若い世代をターゲットにした「自分好み賃貸」を始めました。

───入居まで、どのような流れになるのですか。

入居希望者とわれわれのチーム(神吉さん・コンサルタント・建築士・当社の大工夫婦)で集まり、間取りや内装について検討します。設計が完了したら、賃貸借契約を結び、解体・工事に入ります。

リノベーションの費用については、こちらで支給しています。また、退去のときの原状回復も不要としています。

───これまでに、どのようなリノベーションがありましたか。

浴室の位置だけは固定なのですが、それ以外は自由に間取りを考えてもらっています。部屋の中心近くにアイランドキッチンを設置してゆったりとしたワンルームとするパターンが多いですね。それ以外だと、壁に沿ってI型のキッチンを配置したり、住戸の半分を土間にしたり、海岸のバーをイメージして、キッチンカウンターの足元に砂を敷き詰めたものもありました。入居後にお部屋にお邪魔すると、どの部屋も雰囲気がガラッと違っていて、入居者さんのセンスの良さにいつも驚かされます。



「自分好み賃貸」の施工事例

入居待ち状態で家賃アップを実現

───「自分好み賃貸」で、入居率はアップしましたか。

退去が決まればすぐに次の入居者が決まる、あるいは入居の順番待ちという状態になることもあり、入居率はアップしました。

しかし、入居者好みにリノベーションしたにもかかわらず、長く住んでいただけるというわけではないことが想定外でした。やはり若い世代は、ライフステージが変化します。就職
や転勤、結婚、出産などで住む家も替えていく必要がありますからね。こういった意味では、文化住宅の高齢者の方が長く入居していただけますね。

───家賃のアップにもつながりましたか。

神吉マンションは、最寄りの駅から徒歩約10分の場所にあります。もともと40㎡3Kだった部屋を原状回復し、家賃5万円で募集しても入居が決まらない物件でした。ところが、「自分好み賃貸」で5万9,000円の家賃からスタートしたところ、すぐに入居が決定。その後、6万2,000円、6万6,000円と家賃は上がり、現在は7万2,000円になっています。

───入居者好みにリノベーションすることで、トラブルなどはありませんでしたか。

設計が完了したのに、賃貸借契約の初期費用が準備できないから工事を後に回してほしいと頼まれたことがあり、急遽次に申し込まれていた方に連絡し、設計・工事をしました。その後に連絡すると、さらに後回しにしてほしいと頼まれて、結局こちらからお断りしました。設計は完了していたので、建築士への設計料は当社が負担しました。そのため、設計が完了した段階で設計料として費用をいただき、入居の際に礼金などの初期費用から設計料分を差し引くといった仕組みに変更しました。

また、“自分好み”とはいえ、なにをやってもいいというわけではありません。たとえば、入居者さんが自分でトイレットペーパーホルダーを設置し、退去するときにそのホルダーを外して持っていくということがありました。このままでは壁に穴が空いている状態になります。いくら自分好みで原状回復不要とはいえ、壁に穴を空けたまま退去されるのは困ります。壁画を描いているカップルもいましたね。そういった細かいトラブルをいくつか経験したので、現在では「自分好み賃貸」のルールをまとめた覚書を作成し、入居前に入居者さんと交わしています。

若い世代ともつながっていきたい

───高齢者が暮らす文化住宅、若い世代をターゲットにした「自分好み賃貸」と幅広い賃貸経営で、自主管理はやはり大変ではありませんか。

大工さんを自社で抱えています。父の代から勤務してくれている信頼をおける人です。入居者さんの居室で設備のトラブルなどが起きてもその大工さんがすぐに対応してくれます。今では大工さんの妻もスタッフとして働いていて、入居者さんとのやりとりもしてくれています。だから自主管理を可能にしているともいえますね。

弊社の大工さん夫婦が「自分好み賃貸」を1部屋ずつ順番に工事していくことになるので入居待ち状態になってしまうのですが、いまは、23軒目の「自分好み賃貸」を工事中です。

───今後、「自分好み賃貸」で目指していることはありますか。

「自分好み賃貸」の若い入居者さんとももっとコミュニケーションを図っていきたいと考えています。高齢の入居者さんや「学びの船」の子どもたちとのイベントに参加してもらえるよう、若い入居者さんにも声をかけるのですが、参加してくれる人は少ないんです。若い世代は、やはりライフスタイル的になかなか参加が難しいのかもしれません。それでも、高齢者も子どもも若者もみんながつながれる地域のコミュニティを確立していければいいなと思っています。

▶高齢者や地域とのコミュニティづくりに尽力 神吉さんの“原点”となる取り組みとは?


神吉 優美(カンキ ユミ)さん
神吉不動産株式会社代表取締役。大阪府出身。大学で建築学科を卒業後、民間企業に約4年半勤務。その後、大学院に進学し、修了後は大学教員に就任。2018年に大家業を父親から引き継ぎ、大学教員との兼業に。23年に不動産等を相続し、23年度末に教員を辞職。現在は大学非常勤講師として勤務。所有物件は、大阪府豊中市、茨木市、大阪市、兵庫県尼崎市に327戸のほか、駐車場。自社で大工を抱え、家族で自主管理での大家業を継続している。

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この記事を書いた人

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