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自主管理は大家業の醍醐味 高齢者や地域とのコミュニティづくりに尽力

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撮影/吉田 達史(Photo Current 66)

黄色いエプロンがトレードマークの神吉優美さんは、大阪府豊中市を中心に327戸の物件を家族で自主管理している大家だ。物件は父親から相続したもので、一番新しい物件で築56年だという。高齢の入居者が多いが、入居者や地域の子どもたちとのコミュニティを作り、高齢者でも安心して暮らせる住まいの提供に尽力している。その一方で、若い入居者が自分好みにリノベーションできるプランも提供(別記事を参照)。そこに暮らす人々の笑顔を引き出していくのが神吉さんの大家業だ。(取材・文/財部 寛子)

高齢者が暮らす築古の文化住宅

───神吉さんの所有する物件に、高齢の入居者はどのくらい暮らしていますか。

約150戸に高齢者が暮らしています。しかし、高齢者をターゲットにしているわけではなく、“結果として高齢者が多い”だけなんです。

───どういうことでしょうか。

私は、2018年に父から大家業を引き継ぎました。父は文化住宅(※)の貸家を中心に、多くの方に安く住宅を提供することを使命としていました。当時、この文化住宅で、結婚生活を始め、子どもを生み育てる入居者さんが多くいました。子どもが独立した後もそのまま入居を続け、現在に至るという方も少なくありません。

そのため、私が父から大家業を引き継いだとき、すでに70代以上の入居者さんが多かったんです。そのまま年月が経ち、結果として高齢の方が多くなっています。

(※)文化住宅……1950~1970年代あたりに、近畿地方で多く建設された主に木造2階建ての集合住宅

───所有する物件もかなり古いということですね。

一番新しい物件が築56年の文化住宅と鉄骨造マンションで、もっとも古い物件が築70年の長屋です。鉄骨造マンションの方は、現在、入居者の好みでリノベーションできる若者をターゲットにした物件にしています。

一方、文化住宅に新規で入居される方の大半は70~80代です。入居希望の理由で多いのが、立ち退き。それまで住んでいた築古の賃貸住宅の建て替えが決まり、追い出されたというケースです。

───なぜ、神吉さんの物件に高齢の入居者が集まってくるのでしょうか。

そもそも、文化住宅で暮らしたいと考える若い人が少ないというのが正直なところです。逆を言えば、高齢者は昔からなじみのある文化住宅で暮らすことに抵抗がありません。

また、高齢者の入居をお断りするほかの大家さんも多いでしょうし、仲介業者さんも「神吉不動産なら受け入れてくれるよね」といった雰囲気なのではないかと思います。

物件自体は古いのですが、きちんと原状回復をしたりきれいに掃除をしたりしてから受け入れているので、入居者さんには喜ばれています。

───高齢者入居を受け入れる基準などは設けていますか。

新規入居者の年齢を80歳までにしようと決めたことがあります。しかし、年齢よりもお子さんがいるかどうかがけっこう重要なポイントであることに気がつきました。やはり、なにかあったときに対応してくださるお子さんの存在は、大家にとって安心材料になるんです。

身寄りがない方でも介護サービスなどを利用していれば、事業者さんと連絡をとることができると考え、入居いただいているケースもあります。

───受け入れが難しいと思う高齢者はいますか。

一見、入居に問題がないと思われるのが、高齢でもめちゃくちゃ元気な方です。しかし、身寄りがなく介護サービスも利用していない方は、自立度が落ちていったときの対応が難しい場合があると思っています。頑なに介護サービスを拒む方もいらっしゃいますからね。こういった入居希望者を断ったこともありますが、身寄りのない単身高齢者はこれから増えていきます。入居していただくかどうか、難しい問題ですね。


神吉さんが所有する文化住宅のひとつ

特殊清掃や保険など孤独死に備える

───高齢者の入居で大きいリスクが孤独死です。孤独死に遭遇したときのために、どのような準備をしておけばいいと思いますか。

私も残念ながら、入居者さんが居室で亡くなられ、しばらくしてから気づいたという経験があります。

まず心掛けておきたいことが、「第一発見者にならないこと」。第一発見者になると事情聴取を受けることになります。孤独死の可能性があるときには、まず警察に対応してもらうことが重要です。

そして、のちのち連絡をとる必要があるときのため、「警察担当者や担当部署の連絡先を聞くこと」。また、賃貸借契約解除などの手続きがあるため、「自分の連絡先をご遺族に伝えてもらうよう、警察にお願いしておくこと」も重要です。警察はご遺族の情報を教えてくれません。そのため、ご遺族から大家に連絡するように警察に伝えておきます。警察が必ず連絡先を伝えてくれるか、ご遺族から連絡が来るかは分かりません。しかし、他人である大家がご遺族を探し出すことはかなり難しいんです。小さな可能性であっても、連絡先を渡しておくことは大切だと思います。

───清掃についてはどう対応すればいいでしょうか。

私が初めて孤独死を経験したとき、ネットで調べた特殊清掃会社に連絡すると、「現地に行くのは2週間後」と返信が届きました。2週間も待てる状況ではなかったので、これまでやりとりしたことのある市役所の方に相談し、市営住宅の清掃を依頼している業者のリストをもらえたことで、すぐに対応できました。急を要することでもあるので、業者の連絡先はあらかじめ把握しておくことをおすすめします。

───家賃保証会社や保険の加入も重要ですよね。

数年前から、家賃保証はCasaが自主管理大家向けに提供している『家主ダイレクト』を利用しています。家賃保証に加えて、家財保険と孤独死保険がセットになっています。このサービスを利用するようになってからは年齢やお子さんの有無をそれほど気にせず、入居を受け入れています。昔から暮らしている方は家賃保証会社に加入していませんので、特に身寄りのない場合は、借主が入る家財火災保険に加入してもらうようお願いして回っているところです。

また、「死後事務委任契約」の書類も自主的に作成しています。法的にどれだけ効力があるか分かりませんが、賃貸借契約の解除や残置物の処理などがスムーズにできるような内容を作成し、納得いただける入居者さんにはサインをもらっています。

───豊中市の「ICT見守りサービス」も活用しているそうですね。

豊中市が単身高齢者宅に無料で「ハローライト」を設置するサービスを提供しています。これはトイレの電球をセンサー式のものに交換し、電球が24時間つかなかったら異常検知メールが緊急連絡先に届くというものです。やはり、特殊清掃が入るような状態で発見するのは、大家としてもつらいことですし、亡くなったご本人の尊厳やご家族の気持ちを考えると極力避けたいと思っています。

子どもの学習支援と高齢者をつなげる

───入居者とのコミュニティづくりにも力を入れているとうかがいました。きっかけや特別な思いなどがあったのですか。

父が大家業を始めたころは、住宅不足の時代でした。父は、「安い家賃帯の住宅を安定して提供することが僕の使命だ」と話し、入居者が家をなくすことがないよう、安定した賃貸経営を心掛けていました。

しかし、住宅が余っている現在において「安定した住宅の提供」とは、「『ここに住んでいて良かった』と思ってもらうこと」ではないかと考えるようになりました。それが大家業としてやるべきことであり、私の使命だと思っています。

───それがコミュニティづくりにもつながっているのですね。具体的にはどのようなことをしていますか。

私が出張に行ったときには、おみやげのお菓子をたくさん買ってきて、入居者のおじいちゃん、おばあちゃんに手渡ししています。玄関先まで行って、「出張に行ってきたよ」「最近、調子どう?」などと声をかけます。すると、「最近、腰が痛くてね」「この間入院してたんだよ」などと入居者さんの様子を把握することもできます。そのほか、お茶会の開催や母の日にカーネーションをプレゼントするといったこともしています。身寄りがない入居者さんが入院しているときには、「ちゃんと治して、早く戻ってきてね」とハガキに書いて入院先に送ることもあります。

また、自主的に物件周りの掃除や草むしりをしてくださる入居者さんもいます。そういった方にはアルバイト代をお支払いしたり、お米をプレゼントしたりしています。

こういったやりとりのなかで、「ありがとう」と感謝の言葉をいただけると、やはり大家をやっていて良かったなと思いますね。


入居者が集まりお茶会を楽しんでいる様子

───地域の子どもたちとの交流もあるそうですね。

豊中市の「こどもの居場所ネットワーク事業」の助成金を受給し、夕ご飯付き学習支援の場「宿題ひろば 学びの船」を2年前に立ち上げました。おととしの夏休み、「親が忙しくてどこにも遊びに行けない。絵日記に書くネタがない」という子どもがいました。そこで、花火大会を企画しました。入居しているおじいちゃんやおばあちゃんも呼んで、子どもたちと一緒に楽しんでもらったら大好評だったので、その後はハロウィーンやクリスマスなどのイベント開催時にも声をかけています。


入居の高齢者と地域の子どもたちが味噌作りワークショップで交流を深めている

───コミュニティづくりで注意することはありますか。

その方のキャラクターを把握し、私自身との関係性を客観視することです。「花火大会やるから来て」「いいよ」、「お掃除してくれる?」「いいよ」というやりとりがあっても、後になって「本当は嫌だったのに、やらされた」といった感情を持たれるとダメですからね。たとえ、「生きがいになるんじゃないか」と私が思ったとしても、相手の気持ちをきちんと把握してからお願いすることを大切にしています。

社会課題を解決するオンリーワン大家に

───神吉さんは、これからの日本に必要な賃貸経営をされていると思います。しかし、築年数も経ち、物件の建て替えや入居者の若返りなどを考えたことはありませんか。

「入居者さんが払ってくれるお家賃で、われわれはごはんを食べている。だから、将来追い出すようなことをするな」というのが父の教えであり、家訓です。物件を売却すれば、おそらく建て替えになり、入居者さんは立ち退きを要求されるでしょう。築年数が古い物件については先のことを考える必要はありますが、少なくとも入居者さんの安定した住居がなくなるようなことは考えていません。

───利回りよりも入居者さんたちの気持ちを大切にした大家業をされているんですね。

「利回り何%ですか?」と聞かれても答えられません。もちろん全体の収支は考えますが、物件のローンは終わっていますし、あくまでも“大家業”で、“投資家”ではないからです。住まいを提供するということは、暮らしを提供すること。だからこそ、入居者さんとの関係性を築ける自主管理をこだわって続けています。自主管理は大変な部分もありますが、それが大家業の醍醐味でもあるんです。

───これから、どのような大家であり続けたいと考えていますか。

私のモットーは、「私に残された資源(築古借家)を地域の課題とつなぎ、オンリーワンの大家になる」です。住宅弱者である高齢者を受け入れること、こだわりの住まいをなかなか見出せない住宅難民の若者に自分好みの部屋を提供すること、そして課題を抱える地域の子どもたちや家庭を支援すること、これらをすべてリンクさせて社会課題の解決につなげていきたいと考えています。

▶若者をターゲットにした神吉さんの取り組み「入居者の希望を叶える『自分好み賃貸』」インタビューはこちら


神吉 優美(カンキ ユミ)さん
神吉不動産株式会社代表取締役。大阪府出身。大学で建築学科を卒業後、民間企業に約4年半勤務。その後、大学院に進学し、修了後は大学教員に就任。2018年に大家業を父親から引き継ぎ、大学教員との兼業に。23年に不動産等を相続し、23年度末に教員を辞職。現在は大学非常勤講師として勤務。所有物件は、大阪府豊中市、茨木市、大阪市、兵庫県尼崎市に327戸のほか、駐車場。自社で大工を抱え、家族で自主管理での大家業を継続している。

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この記事を書いた人

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