ウチコミ!タイムズ

賃貸経営・不動産・住まいのWEBマガジン

デジタル化が進むほど、リアルな人と人とのつながりが重要になる

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聞き手/向園 智子 文/財部 寛子 写真/吉田 達史(Photo Current 66)

新型コロナウイルス感染症拡大の影響により、デジタル化が加速していくことは間違いないだろう。それは、不動産業界であっても同様のはずだ。つまり、賃貸経営をするオーナーも、時代の変化に柔軟に対応していく必要がある。毎月家賃が入ってきていることや空室がないことで、賃貸経営に安心感を抱いていられるのもいまのうちかもしれない。常に世の中の動きにアンテナを張り、また賃貸物件のリフォームも自ら手掛ける山田慎一オーナーに、これからの賃貸経営やデジタルトランスフォーメーション(以下、DX※)、ウチコミ!(入居希望者と賃貸住宅オーナーが直接やりとりできるプラットフォーム)の活用方法について語ってもらった。

※ ITにより新たなサービスやビジネスモデルを展開することでコストを削減、働き方や社会そのものの変革につなげること

衝撃を受けたウチコミ!のシステム

——山田オーナーは、ウチコミ!を長くご利用いただいていますね。

登録してからもう5年は経過していると思います。いま思い返すと、初めてウチコミ!を知ったときにはものすごく衝撃を受けました。

そもそも私が賃貸経営に興味を持ったのは、いまから20年くらい前のことになります。まずは不動産業界のことを知る必要があったので、この業界にサラリーマンとして入り、賃貸や管理、売買などひと通りのことを経験しました。その経験のなかに「大家さんが自ら入居者を募集する」という認識はまったくなかったんですよね。だから、ウチコミ!のことを初めて聞いたときは、「そんな会社があるのか?」と思いました。しかし、実際にウチコミ!のことを知っていくと、黒船が来航したような気持ちになり、こういう会社とおつき合いをしていればきっとおもしろいこともたくさんあるだろう、と利用させていただくようになったんです。


山田 慎一(やまだ しんいち) サラリーマンオーナーを経て40歳を機に専業オーナーとなる。賃貸経営に興味を持ったことで、実際に不動産業界に飛び込むほどの行動派。空室が出た際、ターゲットやコンセプトを考え自らリフォーム工事も行う。現在は都内に物件を複数所有。 

会話から生まれる大きな付加価値

——内見時、成約につながる工夫はしていますか。

もちろんです。私は、自分でもリフォームやリノベーションをしていますので、「このお部屋のこの部分は、こういうふうにすると使いやすいですよ」といったことを直接分かりやすくお話しするようにしています。また、入居希望者さんに、「どんなふうにこのお部屋を使いたいですか」という質問をすることもあります。すると、その人なりに、いろいろな考えや希望を話してくれることもありますね。

——実際に、入居希望者の要望をお部屋に反映したこともあるそうですね。

 バスルームや洗濯機置き場などのスペースの入り口が廊下に面しているお部屋がありました。そこは、入り口として開いているだけで、ドアはついていませんでした。それを見た入居希望者さんが、「ここに扉があるといいですね」と言うんです。「それなら、扉を作りましょう」と。しかし、普通の扉をつけると、デッドスペースが生まれてしまう。かといって、カーテンレールをつけて、カーテンで仕切るのもおもしろみがない。そこで、OSB合板※でアコーディオンカーテンを作ってみました。これをやったこともあって、入居を決めていただきました。ただ入居する、ただ入居してもらうというのではなく、会話することによってお互いに付加価値が生まれているということだと思います。

※OSB合板(配向性ストランドボード)アスペン(ポプラの一種。北米の未利用樹種)など、軟らかで曲げ強度も低いため、そのままでは建材として利用しづらい低質の広葉樹を加工して、構造用の材料に使用できるよう転換させたもの


入居を決める後押しになったアコーディオンカーテンの仕切り(写真/山田オーナー提供) 

——内見のときに、自分が希望する作りに変えてくれるというのは、入居希望者にとってはかなりうれしいことでしょうね。

私は電気工事士の資格も取得しているので、照明やコンセントを新設する工事や、場所を移動させることも可能です。キッチン回りは電化製品を使う割にコンセントが少ないケースも多いですから、そういった希望があればかなえることができます。

たまに調子いいことを言い過ぎてしまって、自分が後から大変なことになってしまうこともありますけどね(笑)。

未来につながる実験 繰り返し経験を積む

——ちなみに、リフォームやリノベーションを手掛けるようになったのはなぜですか。

やはり楽しいからだと思いますが、手に職をつけたいという思いがきっかけになっています。

私は、大学を卒業してから40歳近くまでサラリーマンをやっていたのですが、「オレって、何ができるのかな」と考え始めたことがありました。そんなとき、「家を一軒建てちゃう大工さんってすごいな」と思ったんです。何十年も前に建築した家が、いまもしっかり建っているわけですから。

それに加えて、東日本大震災のときに見た光景も自分に影響を与えています。東北地方で暮らす人々が津波によって家を流された後、そこら中にあるがれきや木材などを使って小さな家を建てているのを見ました。おじいちゃんやおばあちゃんに話を聞くと、戦後はみんなそうやって家を建てていたと言うんですよね。今の自分は小さな小屋ですら作れない、と思いました。

そういったこともあって、何か手に職をつけたいと内装屋の職業訓練に通うことから始めました。3カ月間通って、その後は、オーナー同士のつながりで知り合ったDIYが得意な方のところで修業させてもらいました。

——やはり、ご自身でリフォームをすると経費の面にも違いが出ますか。

かなり違います。以前、リフォームの件でいくつかの業者さんに見積もりをとったら、それぞれ金額がバラバラだったことがありました。当然、それぞれ利益を乗せているわけですよね。しかし、自分でできるようになってからは、材料費だけ。場合によっては、業者さんの見積もりと何十万もの差が出ることもあります。

——失敗した経験はありますか。

失敗はありませんが「未来につながる実験」はたくさんやっています(笑)。そう、実験するから、できることやできないことが分かるようになるので、将来的には成功しかないんです。


作成途中のカウンターキッチン 

アフター・コロナを見据えた部屋作り

——テレワーク用の部屋も構想中だということですね。

テレワークでのオンライン会議の最中は、お部屋の一部分を見られることになります。そのため、おしゃれ感があり、見せたくなる部屋を作ろうと考えています。例えば、壁全面に黒板塗装をする案。就職活動中の学生であれば、黒板シートに自分のアピールポイントをあらかじめ書いておいてリモート面接に挑むのもいいと思いますし、サラリーマンであれば会議やミーティングに利用することもできると思います。

——生活感が見えないことがポイントになるでしょうね。

そうですよね。そのほかの壁にはOSB合板を使おうと考えていますが、どんな塗装にしようか、どんな素材にしようか、いろいろ試しているところです。今年の夏が終わる頃には完成していると思います。これも、何かアイデアがあれば入居希望者さんにも聞きたいところですね。

経営方針は入居者目線を重視

——山田オーナーの賃貸経営は、内見にはオーナー自ら立ち会い、入居者の望むリフォームができるという入居者目線の経営ですね。

内見は仲介会社の営業マンに任せているだけだと、入居希望者さんとのやりとりはできませんからね。よく仲介会社に家賃の交渉をされることもありますが、こういった場合も自分が立ち会っているかいないかで、答えは変わります。

——どういうことでしょうか。

たとえば、営業マンが「今日、内見にいらしたお客様、とてもいい方でしたし、お部屋もすごく気に入ってくれましたよ。ただ、お家賃だけなんとかなれば、決めていただけるのですが……」というような相談をされることがあります。しかし、それだけでは、どんなふうにいい方だったのか、部屋のどこを気に入ってくれたのか、そして、どうして家賃を下げてほしいのか、よく分かりません。もし、入居希望者さんに直接お会いできれば、人となりをある程度把握できます。現在の仕事の状況や今後の見通しなどをしっかり話せる人であれば、条件を見直す判断材料になるのです。

——とくに現在は、新型コロナの影響によって一時的に収入が減ってしまい、しばらくの期間だけなんとかしてほしいという方も多いかもしれません。

実際に以前、事情があって収入の審査には明らかに通らない入居希望者さんがいました。しかし、その方がこれからどうやって仕事をしていくか、どのような人脈があるかなどを明確に話してくれ、私は入居してもらうことに決めました。その後、家賃の滞納や未払いなどは一切ありません。

加速する不動産DX 異業種の参入も

——コロナの影響もあり、不動産業界のDXが急速に進んでいくのではないかと思います。山田オーナーは、意識していることや感じていることはありますか。

賃貸経営においては、やはり募集の部分は大きく変わってきたと思います。このコロナ禍でも部屋を探さなければならない人、引っ越しをしなければならない人はいます。そういった人たちが、部屋を直接見に行けないケースもあるんですよね。パソコンやスマートフォンの画面で部屋の写真は見られても、もう少し実際の感覚を知りたい。そんなときに、営業マンがカメラを持って部屋に行き、リモートで部屋の様子を案内するといったことが簡単にできるようになってきました。この数年で徐々に進んでいたデジタル化が、コロナ禍によって一気に花開いたという感じがしています。

リモートで内見することに関しては、AR※やVR※を活用して、入居希望者さんがご自宅や仲介会社にいながらにしていろいろなお部屋を見られるという方法が進んでいくのではないかと思います。ウチコミ!さんなら、内見の疑似体験のようなことをいち早くやってくれるのではないかと期待しています。

このデジタル化に加えて、異業種から不動産業界に参入してくるケースもこれから増えていくと思います。

※AR(Augmented Reality):人が知覚する現実環境をコンピュータにより拡張する技術、およびコンピュータにより拡張された現実環境そのものを指す言葉
※ VR(Virtual Reality):コンピュータによって作り出された世界である人工環境・サイバースペースを現実として知覚させる技術

——異業種の参入、どういったことでしょうか。

リモートで内見できること自体も、IT業界が大きくかかわっています。ひと昔前までは、IT業界の人が不動産業界に入り込んでくるとは考えていませんでした。しかし、宅地建物取引士の資格を取得すれば、ITの技術を持った会社が不動産業界に入ってくることは簡単です。

ほかにも、自動車業界、音楽業界など、どんな業界でも参入してくることになるのではないでしょうか。そうなると、不動産業者が気づかなかった点での問題解決も進んでいくと思います。

——たとえば、どんなことが考えられそうですか。

すでにネット回線が導入された物件はありますが、スマートスピーカーをあらかじめ設置しておくこともできるかもしれません。「7時に目覚ましをかけて」というだけで、時間になったら入居者の好みに合った音楽が流れるといったこともいいですね。

このように異業種が不動産業界に参入してくることで、さまざまな経営のやり方が可能になると思います。これからは、「それって必要?」と思われるようなことも付加価値となり、それが当たり前になっていくのではないでしょうか。

——オーナー側も柔軟に対応していく必要がありそうですね。

そうですね。不動産会社、管理会社、オーナーが、時代の変化を見据え、しっかりとアンテナを張り、賃貸経営とは一見関係がないように思われることに関しても、興味を持つ必要があると思います。私自身も、新聞やテレビなどから得た情報を日々、まとめるように心掛けています。

こういった情報収集ができなければ、賃貸経営の未来は暗いものになっていくかもしれません。単純に「家賃を下げれば、空室は埋まるよね」という発想では、明治時代に帯刀して武士だと言い続けている人のように、数年後には時代遅れのオーナーになってしまっているのではないでしょうか。


山田オーナーのマイノート

問うべきは誰のための賃貸経営なのか

——そういった意味では、時代に合った情報を素早く収集して実行に移すことができる良い管理会社を選ぶことも重要になってきますね。

どのような管理会社とつき合っていくかを考える前に、そもそもオーナー自身が「誰のために、何のために、賃貸経営をしているのか」ということを自分に問うべきだと思います。賃貸経営には、資産運用のため、不労所得を得るため、将来の年金に代わるモノを得るためなど、いろいろな誘い文句もあります。しかし、賃貸経営は「会社経営」です。私は、「生きていくために必要なもの」という覚悟が必要だと考えています。管理会社にとっても銀行にとっても、私たちはお客様です。多少は、持ち上げられて気分が良くなることもあります。だからといって、「管理会社に任せておけば大丈夫」「銀行がおカネを貸してくれるから大丈夫」「1000戸あるから、ちょっとくらい空室があっても大丈夫」などとあぐらをかいていると、経営の意識が低くなって正しい情報を得られなくなってしまうかもしれません。

——まずは、自分自身の経営に対する意識をしっかり持つということですね。

そのうえで、管理会社の担当者やトップに立つ人が、私たちの質問に対して「どんな答えを返してくれるのか」「何を伝えてくれようとしているのか」「プラスアルファの答えを返してくれるのか」などを見極めることだと思います。

つまり、自分が知らない情報、まったく異なる視点の考え方などをしっかり持っているかといったことが管理会社を選ぶ基準になると思います。そして、自分が把握できていない新しい情報を得るためには、管理会社とのおつき合いのなかにある人と人とのつながりも大切にしなければならないと思います。

——人とのつながりというと、デジタル化によって人と触れ合う機会は徐々に減っていきます。

多くの部分でデジタル化が実現すれば人とつながらなくていいのかというと、そういうわけではないと思います。やはり、なんでも一人でやることには限界があります。どんな業界であっても人と人とのつながりがあって初めて物事は成り立つと思います。

管理会社の選び方の部分でもお話ししましたが、どの管理会社や人とつながるかで、デジタル化の戦略や成功の度合いが違ってくるでしょう。だからこそ、デジタル化が進めば進むほど、実はリアルな人とのつながりも重要になっていくのではないでしょうか。

とても簡単なコト 一歩を踏み出す勇気

——オーナーと入居者とのつながりについてもお伺いしたいと思います。

オーナーと入居者さんの関係は、本当にさまざまですよね。何が正しいとは言えないと思います。私自身、入居者さんの顔をほぼ知らない所有物件もあります。

ただ、自分でリフォームをするので、物件に出入りしているときに入居者さんとお会いする機会はあります。そういうとき、入居者さんは私のことを工事業者の人だと思っているでしょう。でも、作業しているときに少し話をするタイミングがあって、オーナーだということが判明していくこともあります。ちょっとした会話のなかから、徐々に何かが生まれていくことも楽しいですよね。入居者さんの顔をまだ知らない物件も、いずれ楽しい出会いがあると思います。

——また、入居者同士のつながりやご近所付き合いについてはどうでしょうか。

そうですね。私が所有しているある物件の敷地内に、プランターにミニトマトの苗を植えて置いたことがあります。「実がなったら食べていいですよ」と、入居者さんに伝えていました。すると、入居している家族のお子さんが水やりをしてくれるんですね。すると、別のお部屋のお子さんも「ボクも水やりしたい!」となって、会話が生まれるわけです。実がなれば、お子さんたちは喜ぶし、それを見ている親御さんも当然楽しい気持ちになります。ほかの入居者さんも「あ、トマトできたんですね」と一言話しかけやすくもなります。

たったひとつの小さなミニトマトでさえも、コミュニケーションツールになるんですよね。

——オーナーのちょっとした心遣いひとつで、その物件をいい環境に導くことができるわけですね。

ミニトマトの苗を植えたプランターを置くことなんて、とても簡単です。ただし、その簡単なコトの一歩がなかなか踏み出せないものです。お互いに楽しく過ごしていくためには、勇気をもって一歩踏み出すことも必要なのかもしれません。

デジタルも人間関係も共に必要な時代へ

——デジタル化に伴ってそれとは相反する人とのつながりもより重要視されていきそうですね。

東洋の思想を借りれば「陰」と「陽」の関係なのかもしれません。昼があれば夜があり、男性がいれば女性がいる。昼だけで生きていけるのかといえば、体を休める夜も必要。男性だけで生きていけるのかと問われれば、絶対にそういうわけにはいかず、女性が必要。「デジタル」と「人」という関係も、これから「デジタル」の力が強くなり、必須になっていく以上、その対極にある「人」の力も相対的に強くなっていかざるを得ず、ますます必要になっていくのではないでしょうか。

——現在のコロナ禍では、とくにデジタルと人とのつながりについて考えさせられます。

コロナの影響で、「会う」「会えない」という問題が大きく浮上しています。「会えない」ことが当たり前、だからこそ、いままで以上に人と人とのつながりを大事にしていかなければならない。アフターコロナにおいても、この意識はもっと芽生えていくのではないでしょうか。

オーナーと管理会社、オーナーと入居者さんといった人と人とのつながりも増えていく時代が来るような気がします。当然、おカネがすべての時代ではなくなり、「家賃さえ入ってくればいい」という賃貸経営もなくなっていくのかなと思います。

非人間的なデジタルがどんどん栄えていけばいくほど、人間的なつながりも栄えていく。これから大きく変わっていく賃貸経営の未来を楽しみにしています。

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この記事を書いた人

賃貸経営・不動産・住まいのWEBマガジン『ウチコミ!タイムズ』では住まいに関する素朴な疑問点や問題点、賃貸経営お役立ち情報や不動産市況、業界情報などを発信。さらには土地や空間にまつわるアカデミックなコンテンツも。また、エンタメ、カルチャー、グルメ、ライフスタイル情報も紹介していきます。

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