『ゴジラvsコング』/アイデア満載 後半の超スピード展開が見どころ
兵頭頼明
2021/04/30
©︎2021 WARNER BROTHERS ENTERTAINMENT INC. & LEGENDARY PICTURES PRODUCTIONS LLC.
ヒーロー共演シリーズのモンスター版
モンスターたちの壮絶な戦いにより、地球は壊滅的な被害を受けていた。世界各地では再建が進められており、未確認生物特務機関MONARCH(モナーク)がモンスターの生まれ育った場所を発見すべく奮闘していた。そんななか、突如ゴジラが姿を現す――。
ネタバレ厳禁の作品である。『ゴジラvsコング』というタイトル以外になんの予備知識を持たず、真っさらの状態で劇場へ足を運んでほしいのだが、シリーズ誕生の経緯については、少しばかり説明しておく必要があるだろう。
2014年にアメリカのワーナー・ブラザースとレジェンダリー・ピクチャーズ、そしてゴジラの権利を有する東宝の提携により、ハリウッド版『GODZILLAゴジラ』が公開された。そして、ワーナーとレジェンダリーは17年に『キングコング:髑髏島の巨神』を製作公開。この2作の世界観をクロスオーバーさせ、「モンスター・ヴァ―ス・シリーズ」とすることが発表された。
19年には『GODZILLAゴジラ』の続編『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』が公開。本作『ゴジラvsコング』は「モンスター・ヴァース・シリーズ」第4作となる。
これはマーベル・コミックが『アイアンマン』(08)や『アベンジャーズ』(12)といった自社のキャラクターを実写映画化した作品群を、同一の世界観のクロスオーバー作品としてシリーズ化したことに倣っている。
マーベル・コミックは、もともと独立した作品のキャラクターであったアイアンマンやハルク、そしてスパイダーマンといったヒーローたちの“夢の共演”を演出したのである。ライバルのDCコミックスも同じ手法で「DCエクステンデッド・ユニバース」を作り上げ、『バットマンvsスーパーマン ジャスティスの誕生』(16)でスーパーマンとバットマンという二大ヒーローを共演させている。
「モンスター・ヴァ―ス・シリーズ」は、先行の二大シリーズの成功に後押しされたかたちで誕生したわけである。共演するのは人間型のヒーローではなく、怪獣=モンスターだ。
©︎2021 WARNER BROTHERS ENTERTAINMENT INC. & LEGENDARY PICTURES PRODUCTIONS LLC.
善玉と悪玉、それぞれの立ち位置は?
これまでのシリーズを見てきた観客は、本作の展開についてさまざまな想像を巡らせているはずだ。『キングコング:髑髏島の巨神』が公開された時点で、いずれゴジラとキングコングが対決することは既定路線だったわけだが、二者の立場をどう設定するかで本作『ゴジラvsコング』の物語は大きく変わってくる。単純な対決ものなら悪玉と善玉を決めておけばよい。
1962年に公開された本家ゴジラシリーズ第3作『キングコング対ゴジラ』は、漠然とではあるが、キングコングを善玉、ゴジラを悪玉に設定していた。これならば分かりやすい。『「モンスター・ヴァース・シリーズ」』のキングコングも善玉だ。
だが、『GODZILAゴジラ』で人類の平和を脅かす破壊神として登場したゴジラの立ち位置は、前作『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』において微妙に変化している。数々のモンスターを倒し、文字通りモンスターの王となったゴジラは、モンスターの存在までも肯定した地球の生態系全体の守護神ではないかと推察される。
だとすれば、ゴジラもキングコングも善玉だ。善玉同士が対決するために必要な理由はなんなのか。それとも、なんらかの理由で、いずれかが悪玉となるのか……。
本作の物語は観客の予想を遥かに超え、怒涛の展開が待っている。ハリウッド大作2、3本を優に製作できるアイデアが詰め込まれており、よくぞここまで詰めこんだものだと感心した。
過去のゴジラ映画へのオマージュやファンへの目配せも多く、盛りだくさんの内容である。ただ、詰めこみすぎて未消化のままのアイデアもあり、登場人物の背景説明も希薄だが、後半は超スピードの展開となるので、観客が疑問を感じる余裕はない。
これまでのシリーズ作品を見たことがない観客も構えることなく、単純に日米2大モンスターが対決するイベントムービーとして楽しむことができるはずだ。
本作のキーマンは小栗旬。ハリウッド映画初出演となる彼を祝福しよう。
『ゴジラvsコング』
監督:アダム・ウィンガード
脚本:エリック・ピアソン/マックス・ボレンスタイン
出演:アレクサンダー・スカルスガルド/ミリー・ボビー・ブラウン/レベッカ・ホール ブライアン・タイリー・ヘンリー/小栗 旬/エイザ・ゴンザレス/ジュリアン・デニソン/カイル・チャンドラー/デミアン・ビチル
公開日:7月2日(金)
公式HP:https://godzilla-movie.jp/
この記事を書いた人
映画評論家
1961年、宮崎県出身。早稲田大学政経学部卒業後、ニッポン放送に入社。日本映画ペンクラブ会員。2006年から映画専門誌『日本映画navi』(産経新聞出版)にコラム「兵頭頼明のこだわり指定席」を連載中。