人が亡くなった部屋なのに告知されなかった!「事故物件」ガイドラインの重要ポイント
賃貸幸せラボラトリー
2023/02/09
人が亡くなった部屋なのに告知されなかった!「事故物件」ガイドラインの重要ポイント
人が亡くなった部屋なのに告知されなかった!
先日、こんな話を聞いた。ある賃貸マンションに住む入居者が、仲介会社にクレームを申し立ててきたという。「私の部屋で過去に孤独死があったそうじゃないか」――!
「近所の人から聞かされたんだ。あなたの部屋は事故物件だと。しかも、事故があったのはつい半年前のことで、亡くなった方の次の入居者が私だそうだ。こんな大事なこと、オタクら(仲介会社)はなぜ契約の際に教えてくれなかった! ルール違反だろう!」
一方、仲介会社の言い分はこうだ。「ルールがあるとすれば、それには違反していません」――
「おっしゃる通り、この部屋ではたしかに7カ月近く前に入居者さんが亡くなっています。私どもはそれを知っておりました。ただし、検死の結果、死因は老衰とみられるのだそうです。ご遺体は亡くなったと思われる夜が明けた午後に発見され、その後丁重に運び出されました。部屋は汚れることもなく、特別な清掃も行われていません」
そこで、「そんな場合は次の入居希望者さんから問われない以上、告知すべきケースには当たらない」――と、いう。
この言い分は通るのか?
答えを先に言おう。十分に通るだろう。
なぜなら、この会社は、現在多くの仲介会社や管理会社(併せて宅地建物取引業者=不動産会社)がよりどころとしている基準、すなわち国の「ガイドライン」に基づいた妥当な判断をしているといえるからだ。
「人の死の告知に関するガイドライン」とは?
これは2年前、不動産業界を中心に大きな話題となったニュースのひとつだ。国土交通省が「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」を取りまとめて、公表した(21年10月)。
不動産取引における「過去に起きた人の死」の告知について、不動産会社はこれをどう判断し、ユーザー(賃貸であれば入居希望者)へ伝えるべきなのか? 多くの人が長年求めていた答えといえるもので、いわば公式のルールといってよいものだ。
検討は20年2月から始まり、途中、議論の内容等、経過は非公開とされていた。そのうえで翌年5~6月に募集されたパブリックコメントも踏まえ、決定されたものだ。
「自然死・日常生活の中での不慮の死」は告知不要
早速このガイドラインに冒頭の事例をあてはめてみよう。ガイドラインでは「取引対象である居住用不動産で生じた人の死」のうち、原則、取引の相手方等へ告げなくてよいケースのひとつとして、以下を挙げている。
「自然死、または日常生活の中での不慮の死(転倒事故、入浴中の溺死、誤嚥など)」
なお、自然死については「病死を除く」とする解釈も世の中に多い。だが、ガイドラインでは少し違っていて「老衰、持病による病死など」と定義されている。
すなわち、冒頭の事例(老衰)は、ここでいう自然死に当たっている。よって、さきほどの問い――仲介会社の言い分は通るか――への答えは、繰り返すがYesだ。「ルールがあるとすればそれには違反しない」に、まさに該当するわけだ。
もっとも、これはあくまで原則となる。たとえ自然死や不慮の死だとしても、以下のような状況になると話が違ってくる。
「長期間にわたって(遺体が)人知れず放置されたこと等に伴い、いわゆる特殊清掃や大規模リフォーム等が行われた場合」
ガイドラインは、こうしたケースでは告知が「必要」であるとしている。理由は、「買主・借主が契約を締結するか否かの判断に重要な影響を及ぼす可能性があると考えられる」からだ。
告知しなくてよい基本3ケース(賃貸)
ほかにも、過去に起きた人の死について、ガイドラインが「告知しなくともよい」とするケースは存在する。賃貸集合住宅(アパート・マンション)での賃貸借契約を前提に、それぞれを挙げていこう。
まずはこれだ。
「取引の対象となる住戸の隣接住戸や、当該入居者が日常生活において通常使用しない共用部分で発生した『自然死または日常生活の中での不慮の死』以外の死、同じく特殊清掃等が行われた『自然死または日常生活の中での不慮の死』」
ややこしいので、典型例を挙げよう。
「過去に隣の部屋で起きた自殺」「同じく特殊清掃が生じた孤独死」
これらはどちらも告知せずともよい。当然のこと、真上、真下の部屋でもだ。
さらに、もうひとつ。
「『自然死または日常生活の中での不慮の死』以外の死や、特殊清掃等が行われた『自然死または日常生活の中での不慮の死』が、その部屋で発生していたとしても(さらにはその部屋の入居者が日常生活において通常使用する共用部分で発生していても)、その発覚から概ね3年が経過した場合」
つまり、過去に入居者の自殺が起き、特殊清掃が行われた部屋でも、「それから3年も過ぎているのならば、事故のことは入居希望者に告げなくても構いませんよ」――と、ガイドラインは規定しているわけだ。
以上、最初に挙げたケースも合わせ、3つのケースが「告知しなくてよい」基本の3事例となる(賃貸取引の場合)。
ちなみに、告知を行う場合は、不動産会社は以下を(亡くなった方や遺族などへの配慮を踏まえたうえで)告げることとなっている。
- 「事案の発生時期(特殊清掃等が行われた場合は発覚時期)」
- 「場所」
- 「死因(自然死・他殺・自殺・事故死等の別。不明の場合はその旨)」
- 「特殊清掃等が行われた場合にはその旨」
「事件性・周知性・社会に与えた影響」は考慮せよ
さて、初めて以上を知った方、感想はどうだろう?
「妥当だ」
「いやダメだ。もっと告知の範囲を広げてほしい」
人の死というものへの想いや感じ方、あるいは立場によって、意見はおそらく分かれることだろう。
そのうえで、ガイドラインは以下のようにも規定している。
「告げなくてもよいとされる場合でも、事件性、周知性、社会に与えた影響等が特に高い事案は告げる必要がある」
杓子定規に「別の部屋で起きたことであれば」「3年過ぎたのであれば」――どんな事例でも告げなくてよいと、不動産会社側は都合よく解釈すべきではないという注意喚起だ。たとえば殺人事件が起き、ある程度ニュースにもなったケースなどは、当然これにあたると考えるのが正解だろう。
さらに、実際にはガイドラインが求める範囲を超えて、入居希望者に対して情報を開示している例も少なくないはずだ。
たとえば、
「当社では、取引対象の部屋でなくとも、事故が同じフロアや真上の部屋、真下の部屋で起きている場合は必ず告げることにしています」
あるいは、
「ウチは同じ建物内での事故全部が告知の対象です」
「ウチはその部屋で起きた事故ならば、3年を超えても伝えています」
のちのちのトラブル回避などを目的に、より厳しい独自のラインを引いておくという判断だ。
最善の選択は?――知りたければ尋ねよ
最後に、事故物件のことが気になる多くの入居希望者へ、最も大事なアドバイスを伝えたい。
それは「知りたければ尋ねる」ことだ。
実は、ガイドラインにはこのような内容も明記されている。
「(入居希望者等から)事案の有無について問われた場合は、経過した期間や死因に関わらず、不動産会社は知っていることや調査を通じて判明したことを告げる必要がある」(要約)
つまり、このガイドラインが述べている告知要・不要の基準にかかわらず、「ユーザーから、取引される物件に関わっての人の死について問われたら、不動産会社は知っていることを伝えなさい、調べて答えなさい」と、ガイドラインはクギを刺していることになるわけだ。(調べ方についてもガイドラインは基準を定めている。下段リンク先を参照)
裏を返せば、ユーザーに対しては「気になるなら尋ねよ」と、ガイドラインは告げている。
そして、さらに裏を返すと「あなたが尋ねなければ、不動産会社がこのガイドラインに沿った判断をすることによって、あなたはあとで驚くことになるかもしれません」――とも告げていることになり、その結果のひとつが、冒頭に挙げたクレーム事例ともなるわけだ。
なお、ガイドラインについては下記で内容を確認できる。
「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン(本文)」
「同 簡潔でわかりやすい『概要』」
(文/賃貸幸せラボラトリー)
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この記事を書いた人
編集者・ライター
賃貸住宅に住む人、賃貸住宅を経営するオーナー、どちらの視点にも立ちながら、それぞれの幸せを考える研究室