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賃貸・追い出し条項に最高裁が No! 弱者は逆に追い詰められるのか?

朝倉 継道朝倉 継道

2023/01/11

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家賃債務保証会社が敗訴。「追い出し条項」の是非

昨年末も近づいた頃、賃貸住宅関連業界である裁判の判決が大きな話題となった。12月12日に下されたものだ。最高裁判所による、いわゆる「追い出し条項」違法判決となる。

争点のひとつはこうだ。賃借人たる入居者が、賃貸住宅の家賃を2カ月以上滞納するほか、連絡も取れなくなるなどした場合、これを「物件を明け渡した」とみなす契約条項は違法なのか、適法なのか?

最高裁はこれを違法と判断した。さらに、もうひとつの争点においても違法が認定されたため、これらの条項を契約書に盛り込んでいた家賃債務保証会社は、いわば完全敗訴するかたちとなった。

第1の争点・条項適用のハードルは高かったが…

この裁判は、入居者が賃貸住宅を借りる際、家賃債務保証会社と結ぶ契約を巡って争われたものだ。

こんな内容を記した条項が盛り込まれている。

1.入居者が家賃を2カ月以上滞納した
2.合理的な手段を尽くしても入居者と連絡が取れない
3.電気・ガス・水道の利用状況などから、物件が相当期間使われていないと認められる
4.入居者には再びそこに住む意思がない旨、客観的にも見てとれる

これら4つの要件が揃ったうえで、入居者が「明示的に異議を述べない限り」物件は明け渡されたとみなされる。

そのうえで、物件に残された家財等は、家賃債務保証会社および物件貸主が任意に搬出できるとするものだ。

そこで早速だが、上記4つの要件、読んでみて皆さんの感想はどうだろう?

繰り返そう。

まず、家賃はすでに2カ月以上滞納されている。

なおかつ、入居者の姿はすでに消えている。連絡も取れないのだ。

しかも、ここしばらく入居者が物件を使用した様子もない。

「だったらその人もう戻って来ないんじゃない? 要は夜逃げだよ。物件を明け渡したとみなす? それでいいんじゃない? そうしないとオーナーさん大変だよ」

そんな“常識的”な意見がおそらく多いのではないだろうか。

だが、最高裁はこれを違法とした。何の法律について「違法」なのかといえば、それは消費者契約法だ。

最高裁は、当裁判において、上記条項による規定を同法に定める「消費者の利益を一方的に害するもの」と、厳しく認定した。これは裁判官全員一致の見解によるものだ。

なお、以上の争点については、一審も違法としている。だが、二審は適法と判断した。つまり二審はいわば“常識寄り”の判決を下していたわけだ。

第2の争点・一、二審とも適法としていたが…

この裁判にはもうひとつ争点があった。こちらは、

「家賃の滞納が3カ月分以上に達したときは、家賃債務保証会社は、当該物件の賃貸借契約を無催告で解除できる」

と、した条項について違法か適法かを争うものだ。

つまり、第1の争点にあったような「入居者行方不明」的な、はた迷惑な状態になっていない場合でも、滞納が3カ月分以上に達した場合、入居者は住んでいる物件の賃貸借契約を解除されてもしかたがない立場に立たされる。

しかも、それは読んでのとおり家賃債務保証会社が無催告で行える。事前の通告なしの「いきなり解除」が許される厳しい規定となっている。

とはいえ、その前提条件は繰り返すが「滞納3カ月分以上」だ。要は長い。

そこで、詳しい人はよく知っているだろう。これは、従来から家賃滞納による契約解除の合法的な目安とされている期間にひとしいものだ(信頼関係が破壊されたと一般的にみなされる期間)。

そのため、こちらの第2の争点については、一審、二審とも適法と判断している。すなわち、いずれも家賃債務保証会社側を勝たせている。

だが、最高裁は今回こちらも覆した。この第2の争点についても、第1の争点同様に違法であるとした。なぜだろう?

建物の賃貸借にかかわる法律関係に詳しい、注意深い人は、ひょっとすると以上までを読んだ時点で胸にモヤモヤするものを抱えているかもしれない。

そうなのだ。答えはそのモヤモヤだ。

保証会社がしゃしゃり出るな?

モヤモヤの理由はこうだろう。

「それって、家賃債務保証会社が勝手に決めていっていいことなのか?」

端的にいおう。建物賃貸借契約において、

「物件を借りる・貸す」
「家賃を払う・もらう」

と、いう関係は、あくまで賃貸人たる貸主・オーナーと、賃借人たる借主・入居者の間で結ばれた契約にもとづくものなのだ。なので、深く関わってはいても、家賃債務保証会社は「当事者」ではないのだ。

ところが、本件では、争点1にしても2にしても、その当事者ではない家賃債務保証会社が、いわば横槍を入れるかたちで別の約束ごとをつくり、当事者の一方である入居者の権利と生活を左右する重大な判断ができる仕組みをこしらえてしまっている。

しかも、その実行権さえ手にしてしまっている。(家財等の搬出や、賃貸借契約の解除が、要件さえ揃えば会社の一存で出来る)

これは、要は危険な方向性だ。

いわゆる「自力救済」の権利を非当事者たる家賃債務保証会社が目立たぬプロセスの中で巧妙に手にしようとしているようにも見てとれるものであり、あるいは、意図せずとも現実にそうなっている。

なお、自力救済とは、権利の実現にあたって司法手続きを踏まず、実力行使によって解決することだ。

今回の件でいえば、訴訟も強制執行も経ずに、さきほどの「4要件」をもって家賃債務保証会社が一方的に物件の明け渡しがあったとみなし、入居者の家財等を搬出してしまえる規定(争点1)など、まさにそれに該当する。もしくは、該当する可能性が高い。

そのうえで、自力救済は、司法や近代法治国家の否定につながるものだ。

すなわち、そんな危険な構造が図らずも(?)垣間見えている今回の条項が、司法の最後の砦である最高裁に土手にあいた蟻の一穴のごとく“嫌われた”のも、考えてみると当然といえることなのかもしれない。

無理筋が祟った? 逆転敗訴

とはいえ、今回敗訴した家賃債務保証会社にあっては、当の条項を読む限り、その慎重な姿勢は見てとれる。

争点1におけるハードルの高い4要件や、争点2の「滞納3カ月以上」がそうだ。過去の判例等で培われた常識、あるいは良識をふまえることを怠ったものでは決してない。

つまり、内向きにあってはリスクヘッジがちゃんととられているし、外向きにあっては、消費者保護・弱者保護の姿勢が見られないと非難できるようなものでもない。

なので、本件では繰り返すがこういう結果が出ているのだ。

一審・大阪地裁(19年)
争点1(4要件による明け渡し条項) 違法
 争点2(滞納3カ月分以上にての無催告契約解除条項) 適法

二審・大阪高裁(21年)
争点1(〃) 適法
争点2(〃) 適法

このとおり、家賃債務保証会社側にとっては「引き分け」~「勝利」と続いていた、先行き明るそうな第2ラウンドまでといえただろう。

しかしながら、最高裁はそれらを切り捨てるような判断を今回下した。

これについては、筆者が特に思うこととして、この件を家賃債務保証会社が“仕切る”のはおそらく無理筋だったということだ。重ねていうが、家賃債務保証会社は当該物件の「貸し・借り」の当事者ではないのだ。

その当事者ではない者が、司法の否定にもつながる権限の奪取を自ら企図するかのような契約条項を定め、これを物知らずな消費者を相手に交わそうとしている――というのが、あえて穿った目で見た場合の今回の構図となる。

よって、最高裁の立場としては、巷の現実論は措いたうえで、司法の論理としてこれを許さざるべく判決せざるをえないことは、結果からみれば当然だったろう。

追い出し条項違法判決・今後への影響は?

今回の追い出し条項違法判決は、当然ながら業界内外での反響を呼んでいる。

ひとつは、「消費者保護、社会的弱者保護にあっての好ましい前進」とするものだ。

今回の判決は、一審、二審との結果の違いがやや劇的なことも相まって、たしかに家賃債務保証会社・業界に対する今後のつよい牽制となりうるものにちがいない。

一方、こんな声も少なくない。「この判決は弱者をさらに追い込むものだ」

「今回、敗訴した家賃債務保証会社が定めていた4要件や滞納3カ月といった、それなりに高い自らへのハードル。こうしたものがあったうえでも結果がこうだと、保証会社は今後萎縮せざるをえなくなる。リスクの度合いが高い人への保証がいまよりもさらに敬遠されることになり、要は、家探しに苦労を強いられる人が増えるだろう。すなわち、結果は裏目に出るだろう」

対して、こんな感想も筆者の耳には入っている。

「現状、家賃債務保証会社の間では、リスクの高い人の保証をどこまで引き受けられるかの競争原理が働いている。心配されるほどの家探し“難民”発生とはならないだろう」

以上、いかがだろうか。

(文/朝倉継道)

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参照:最高裁判例「令和4年12月12日 消費者契約法12条に基づく差止等請求事件」(追い出し条項違法判決)
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=91599

関連記事:
保証会社は「怖い」って本当? 家賃債務保証会社のモヤモヤを解消するためのQ&A
https://uchicomi.com/uchicomi-times/category/rent/main/12965/

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この記事を書いた人

コミュニティみらい研究所 代表

小樽商業高校卒。国土交通省(旧運輸省)を経て、株式会社リクルート住宅情報事業部(現SUUMO)へ。在社中より執筆活動を開始。独立後、リクルート住宅総合研究所客員研究員など。2017年まで自ら宅建業も経営。戦前築のアパートの住み込み管理人の息子として育った。「賃貸住宅に暮らす人の幸せを増やすことは、国全体の幸福につながる」と信じている。令和改元を期に、憧れの街だった埼玉県川越市に転居。

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