「ネットで部屋探し」をする前に知っておきたいポータルサイトの3つの疑問
大友健右
2016/11/03
ネットで部屋を探すのは当たり前になったけれど…
いまや、部屋探しといえば、不動産会社に行くのではなく、まずはインターネットで物件を検索するというのが当たり前になっています。SUUMOやHOME’Sといった賃貸物件のポータルサイトが普及したおかげで、スマホさえあれば、いつでもどこでも部屋探しができるようになりました。それ以前は、物件情報を手に入れるには、わざわざ住みたい街の不動産会社を訪ねていかないといけなかったことを思うと、格段に便利になりました。
とはいえ、実際にネットで部屋探しをしてみると、「3つの疑問」に気づくのではないでしょうか。「落とし穴」と言い換えてもいいかもしれません。そこで今回は、この3つの疑問(落とし穴)についてお話ししていきましょう。
疑問1 なぜポータルサイトでは内見の予約ができないの?
皆さんは、SUUMOと同じリクルートが運営している「ホットペッパービューティー」をご存知でしょうか?
ホットペッパービューティーとは、世に数ある美容室の情報を集約し、それぞれの店のメニューや料金はもちろん、店内の雰囲気やどんな美容師がいるのかといった情報まで提供してくれるポータルサイトです。お気に入りの美容室が見つかれば、その場で予約も取れます。つまりユーザーは、美容室探しから予約まで、ワンストップで行なうことができるのです(図1参照)。
(図1)ホットペッパービューティーでは美容室探しから予約までできる
もし、賃貸物件のポータルサイトでも同じようなことができたら便利だと思いませんか?
でも、不動産のポータルサイトでできることといえば、物件を検索することだけです。気になる物件を見つけても、自分で不動産会社にメールや電話で連絡を入れて、空室かどうかを確認し、内見の予約をしなければなりません。つまり、ポータルサイトが誕生する前と何も変わらないアナログなやりとりが必要になります。
同じようなサービスなのに、なぜホットペッパービューティーにできることが、賃貸物件のポータルサイトにはできないのでしょうか?
実はネットが普及する以前から、不動産会社はポータルサイトと同じ役割を担っていました。地域の大家さんから物件の情報を集めて、部屋を探している人に物件選びから契約までワンストップでサービスを提供していたのです。
大家さんは、不動産会社に情報を預けておけば、その街に住みたいと考えているお客さんを連れてきてもらえて、「内見→契約」という手続きまで代行してもらうことができました。
賃貸物件のポータルサイトもこれと同じ機能、つまり、仲介機能を持てばワンストップのサービスを提供することができます。でも、それをしなかったのは、ふたつの理由があると私は考えています。
ひとつは、それをしてしまうと不動産業界との対立が生まれてしまうこと。そしてもうひとつは、不動産会社からお金をもらう仕組みにすることが、ビジネスとして成立させるために最も効率がよいとポータルサイトの運営企業が判断したことです。
そのため、不動産のポータルサイトは、借り主(ユーザー)と大家さんをつなぐのではなく、不動産会社から物件情報を集めて、それを掲載することで料金をもらうという仕組みになったのでしょう。その結果、構築されたポータルサイトは、ポータル機能が二重になった歪(いびつ)な構造になってしまったのです(図2参照)。
(図2)賃貸物件のポータルサイトには構造的な問題がある
考えてみれば、この構造はとても効率が悪いものです。
大家さんと借り主の間に不動産会社とポータルサイトの二社が入っているのですから、ワンストップのサービスが提供できないだけでなく、コストも二重にかかっているわけです。この二重コストがどんな弊害を生んでいるかは、次回の記事でご説明しましょう。
疑問2 なぜポータルサイトには成約済み物件が載っているの?
さて、先ほどもお話ししたように、ポータルサイトで気になる物件を見つけたら、自分で不動産会社に連絡を入れることになります。実際にネットで部屋探しをしたことがある人ならご存知だと思いますが、せっかく連絡をしても「もう成約済みです」と言われることが意外と多いのです。データを取ったわけではありませんが、私の体感では2割の物件は成約済みのように思います。
なぜこんなに成約済み物件が多いのかといえば、答えは簡単です。それは、賃貸物件ポータルサイトは不動産会社の集客装置であり、そこに掲載される物件情報は広告だからです。
不動産会社の店頭には、物件情報が貼り出されていて、以前であれば、お客さんはその貼り紙を見て不動産会社を訪れるのが当たり前でした。お客さんの目を引くために、その貼り紙のなかには、成約済みの物件情報はもちろん、架空の物件情報さえ貼り出されていることもありました。いわゆる「おとり物件」「釣り物件」と呼ばれるものです。
不動産会社としては、「おとり物件」を使ってでも、お客さんからの問い合わせが欲しいのです。なぜなら、「その物件はさっき契約が決まってしまいました」と言えばお客さんにはバレないですし、「もっといい物件がありますよ」とほかの物件を紹介することができるからです。
その店頭の貼り紙をネット上に集めたのが、賃貸物件のポータルサイトです。私が、物件情報は広告だと申し上げた意味がおわかりいただけるのではないでしょうか。広告ですから、5件よりも10件、10件よりも20件と件数が多ければ多いほど、お客さんの問い合わせも増えていきます。
そのため、ポータルサイト上では、不動産会社がどれだけ物件数を掲載できるかの競争が起こっていて、そのコスト負担はバカになりません。先ほどの二重コストの問題に加えて、不動産会社の収益を圧迫する原因になっています。それがどんな弊害を引き起こしているかは、二重コストの問題とともに次回の記事でお話しましょう。
疑問3 なぜ何社もの不動産会社が同じ物件を載せているの?
ネットで部屋探しをしていると、同じひとつの部屋の情報を、何社もの不動産会社が掲載していることに気づきます。たとえば、メゾン大友の301号室の情報をA社、B社、C社と複数の不動産会社が掲載しているのです。その理由をお話する前に、まずは賃貸物件の情報が借り手に届くまでの仕組みをご説明する必要があります。
賃貸物件を扱う不動産会社には、「不動産管理会社」と「不動産仲介会社」があります。それぞれ何が違うのでしょうか。
(1)不動産管理会社とは?
不動産管理会社は、大家さんからアパートやマンションなどの賃貸物件の管理・維持を引き受ける会社です。家賃集金や入居者のクレーム対応、物件のメンテナンスなどが主な仕事です。大家さんから受け取る「管理委託料」が主な収入となります。
(2)不動産仲介会社とは?
「仲介」とは、簡単にいえば賃貸物件と借り主とをマッチングする仕事です。大家さんや不動産管理会社から依頼を受けて、賃貸物件の入居者を募集して、賃貸借契約を結びます。契約が成立した場合に受け取る「仲介手数料」が主な収入です。
大家さんや不動産管理会社は、入居者を確実に決めるため、複数の不動産管理会社に入居者探し(「客付け」といいます)を依頼します。そして、依頼を受けた不動産仲介会社が、それぞれバラバラに物件情報をポータルサイトに掲載するため、何社もの不動産会社が同じひとつの部屋の情報を掲載するということになるのです(図3参照)。
(図3)ポータルサイトに物件情報が載るまでの流れ
部屋探しをする側としては、どこの不動産会社に問い合わせをすればいいのか迷ってしまいますが、賃貸物件ポータルサイトは広告なので、ユーザーが困ろうとおかまいなしです。ここにも賃貸物件ポータルサイトの問題点があるといえるでしょう。とはいえ、問題点の指摘だけをしてもユーザーの助けにはなりませんから、不動産会社の選び方については、また別の記事でお話ししたいと思います。
賃貸物件ポータルサイトは不動産会社の集客装置
賃貸物件ポータルサイトがどのようなものなのか、おわかりいただけたでしょうか。
念のために申し上げますが、私はポータルサイトの利便性を否定するつもりはありません。ただ、本当に消費者のためのサービスとして考えられたものかといえば、それは違うでしょう。消費者のためのサービスであれば、おとり物件など掲載するのはおかしいですし、ワンストップのサービスを提供したほうが利便性は格段に高まります。
それができない理由はひとつ。やはり、賃貸物件ポータルサイトは不動産会社の集客装置だというのが私の認識です。部屋探しをする皆さんも、そのことを認識しておくだけで、かなり部屋探しのストレスが軽減されるはずです。どうすれば満足できる部屋探しができるかについては、また改めてお伝えすることとしましょう。
この記事を書いた人
株式会社ウチコミ 代表取締役 株式会社総研ホールディングス 代表取締役 株式会社プロタイムズ総合研究所 代表取締役 1972年生まれ。大手マンション会社で営業手法のノウハウを学んだのち、大手不動産建設会社に転職。東京エリアにおける統括部門長として多くの不動産関連会社と取引、不動産流通のオモテとウラを深く知る。 現在、株式会社プロタイムズ総合研究所 代表取締役として、住宅リフォームを中心に事業を展開。また、株式会社ウチコミ 代表取締役として、賃貸情報サイト「ウチコミ!」を運営。入居の際の初期費用を削減できることから消費者の支持を集める。テレビ・新聞・雑誌などメディア出演も多数。