告知期間は賃貸でおおむね3年「人の死の告知に関するガイドライン」のポイント
賃貸幸せラボラトリー
2021/10/27
イメージ/©︎maposan・123RF
「事故物件」告知の基準がいよいよリリース
この10月8日に、国土交通省が「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」を公表している。
昨年2月の検討会発足、今年5月から6月に行われたパブリックコメントの募集と、不動産業界およびその周辺においては、この間大いに注目されていたものだ。
このガイドラインが扱うテーマは、ざっといえば不動産取引における「事故物件の告知」ということになる。
なお、告知するのは宅地建物取引業者、いわゆる不動産会社だ。告知されるのは売買物件の買主や賃貸物件の借主、いわゆるユーザーだ。
従来、不動産を取り巻く関係者それぞれの間で解釈や対応が揺れていたところ、今回、国によって初めて一定の基準が示されたかたちとなる。
そのため今後は、この問題がとくに取沙汰されやすい賃貸集合住宅を中心に、関連する事業者の多くが、当ガイドラインに沿った告知対応を行うことになるだろう。(賃貸の場合は仲介会社・管理会社やオーナーなど)
そこで、この記事では、もっともその影響が及ぶと思われる賃貸集合住宅=賃貸アパート・マンションを借りる入居者の立場を踏まえながら、ポイントを解説していきたい。
自然な死は告知不要 ただし発見遅れは告知の対象
第一の重要ポイントだ。今回のガイドラインでは、「賃貸借取引及び売買取引の対象不動産において『自然死』または『日常生活の中での不慮の死』が発生した場合」については、原則告知すべき対象としていない。
例えば、その部屋で入居者が老衰や持病で亡くなったり、物につまづき転倒して亡くなったり、お風呂に溺れたり、食事中に誤嚥が起きたりして亡くなっただけでは、不動産会社は入居希望者にこれを告げる必要はない。
対して、自殺や他殺、火災による焼死など、「自然死または日常生活の中での不慮の死」ではないものが、告知しなければならない対象となる。
ただし、自然死または日常生活の中での不慮の死であっても、発見遅れにより部屋にダメージが及んだようなケースは別だ。いわゆる特殊清掃や大規模リフォームなどが行われる状態となった場合は、「買主・借主が契約を締結するか否かの判断に重要な影響を及ぼす可能性がある」ものとして、こちらは告知の対象となる。
告知の対象となる「場所」の範囲は限られる
告知の対象となる具体的な場所の範囲はどうなるのだろう。
今回のガイドラインでは、「賃貸借取引及び売買取引の対象不動産の隣接住戸または借主もしくは買主が日常生活において通常使用しない集合住宅の共用部分」においての人の死は、原則告知の対象外となっている。それが自殺や他殺であろうとも、発見遅れにより特殊清掃等が行われた場合であろうともだ。
よって、例えば「壁1枚を挟んだ隣の部屋で自殺や他殺があり、遺体の発見が遅れて腐敗し、特殊清掃や大規模なリフォームが行われた」場合も、不動産会社は原則これを告知しなくてよいことになっている。
これは、入居者側の気持ちとしてはかなり微妙なところだ。しかしながら、「ではもう少し範囲を広げたとしてどこに線を引けば皆が納得するのか?」「2~3戸隣りの部屋の場合まだ気になるか?」「フロアが違えば気にならなくなるのか?」などと考えていくと、たしかに判断が難しい。今回、ガイドラインは、そのもっとも狭い範囲(取引対象の住戸内および住人の日常の行動範囲内)までをもって、線を引いたかたちとなっている。
ただし、この部分には「事件性、周知性、社会に与えた影響等が特に高い事案はこの限りではない」と、但し書きも添えられている。「別の階の部屋だが、昨年殺人事件があり、報道もされた」といったケースでは、この但し書きにのっとり、のちのちのトラブル回避のため、進んで告知の判断をする事業者も少なくないことだろう。
告知の期間はおおむね3年
注目したい基準だ。今回のガイドラインでは、前述までに示した、告知しなければならないケースの死が発生・発覚してからおおむね3年が経過した場合、不動産会社は、賃貸物件に限り、原則これを告知しなくてよいこととしている。
つまり、過去にその部屋で自殺や他殺があっても、それが3年半や4年以上前のことであれば、賃貸では告知はされなくなる。
ただし、ここにも但し書きがあり、「事件性、周知性、社会に与えた影響等が特に高い事案はこの限りではない」となっている。事業者それぞれが、あとあとのリスクも勘案しながら、そのあたりを判断していくことになるはずだ。
なお、特筆したいのは、以上によって貸主側事業者は、これまで時折行われていたとされる事故物件に関してのある“テクニック”を使えなくなったことだ。
それは、告知しなければならないような事故が生じた部屋に、その後ほんの短期間でも人が住んだ場合、以後は告知をやめる判断を指す。すなわち、今回のガイドラインに従うかぎり、事故後入居者が何人入れ替わろうと、おおむね3年を過ぎない間、告知義務は消えずに残り続ける。
よって、いわゆる事故物件のロンダリングはできなくなった。わざと短期の居住者を連れて来て、その者を低家賃、あるいは有償で部屋に住まわせたのち、告知をやめるといったやり方だ。
もっとも、こうした行為の存在は、ウワサにはよくのぼっていたものの、現実として実行例はそれほど多くなかったように思われる。
不安ならば尋ねよう
以上のとおり、今回のガイドラインは、賃貸住宅を借りる多くの入居者の目線からは、一部頼りになったり、いまひとつだったり、評価の入り混じるものになっていることだろう。
ただし、そのうえで、ガイドラインにはこのように書かれてもいる。
「人の死に関する事案の発覚から経過した期間や、死因に関わらず、買主・借主から事案の有無について問われた場合や、その社会的影響の大きさから買主・借主において把握しておくべき特段の事情があると認識した場合等には――(略)――宅地建物取引業者は――(略)――調査を通じて判明した点を告げる必要がある」
つまり、「気になるなら尋ねろ」ということだ。
さきほどまでに挙げた「告知しなくてよい」ケースにあてはまる場合でも、不動産会社は、客に問われたならば、それを隠してはいけないのだ。知っている範囲のことを正直に告げなければならないことになっている。
宅地建物取引業者の情報収集には限界がある
最後に、もうひとつ注意を記しておきたい。
このガイドラインが呼びかけている「相手」のことだ。冒頭にも述べたとおり、それは宅地建物取引業者=不動産会社だ。彼らは取り扱う物件のことについて多くを知っているプロだが、場合によっては把握しきれていないこともある。
なおかつ、管理、仲介、代理、自社貸主といった、物件を扱う立場の違いから、そこには大小の差も生じてくる。宅地建物取引業=不動産業という仕事の仕組み、さらには物件情報が流通する仕組み上、それは致し方のないこととなる。
ちなみに、今回のガイドラインでは、不動産における人の死に関する事案について、彼ら不動産会社がどこまで調査すればよいかについてもガイダンスされている。妥当な内容とは思われるが、漏れのない完璧なものではない。
以上は、事故物件がとても気になるユーザーが、心得ておきたいことだ。
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賃貸住宅に住む人、賃貸住宅を経営するオーナー、どちらの視点にも立ちながら、それぞれの幸せを考える研究室