相続土地国庫帰属制度、空き家対策には役立たない? それとも?
朝倉 継道
2023/01/23
施行が迫る画期的な制度
「相続土地国庫帰属制度」の施行が迫っている。今年の4月27日からのスタートだ。一昨年4月に公布された「相続土地国庫帰属法」(相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律)にもとづくなかなか画期的な制度だが、まだあまり広くは知られていないかもしれない。
この記事では、そのあらましをまずは簡単に説明しよう。そのあと、当制度にいわゆる「空き家問題」を絡めたかたちでの展望も添えてみたい。
相続土地国庫帰属制度とは?
相続土地国庫帰属制度とは? ひとことでいうと、それは「不要な土地を国に引き取ってもらえる」制度となる。
もっとも、不要であればどの土地でも引き取ってもらえるといった際限の無い話ではもちろんない。
・相続(または相続人に対する遺贈)により取得した土地を
・国(法務大臣すなわち法務局)が一定の要件に照らして審査の上、承認されれば
引き取ってもらえるかたちになっている。
つまり、重要なポイントは「相続(等)による取得」であること。「国の審査による承認」が必要なこと。この2点だ。
すると、多くの人はこう思うに違いない。「その審査、クリアするのが大変なのでは?」
確かにそうかもしれない。以下が、審査「不合格」となってしまう要件だ。
その土地に――
・建物や、通常の管理または処分を阻害する工作物等がある
・土壌汚染や埋設物がある
・崖がある
・権利関係の争いがある
・担保権等が設定されている
・通路などがあり他人によって使用される
――これらもひっくるめたうえで、
・国がその土地を「通常に管理、処分」するにあたって、過分の費用または労力を要しないこと
が、土地を引き取ってもらえる(国庫に帰属させる)条件となっている。
(以上の要件等に関し、さらに詳細については、法務省ウェブサイト「相続土地国庫帰属制度について」をご覧になられたい)
さらに追い討ちをかけよう。
審査に「合格」し、土地を引き取ってもらうには、ある程度の負担金も納める必要がある。
その額は、たとえば200㎡の宅地(市街化区域または用途地域が指定されている地域内の土地)で約80万円、1,000㎡の森林だと約26万円だ。
また、これに加え、承認申請の際は手数料も支払わなければならない。なお、当記事執筆時点で(1月半ば)その金額は未定となっている。
なおかつ、念を押そう。この制度はあくまで相続(等)された土地に対してのものだ。それに当たらない土地は対象ではない(一部例外的なかたちが生じる場合あり)。
「なあんだ。結局は狭き門じゃないか」――ここまで読んで、そんな印象をあなたは持っただろうか?
制度の背景――所有者不明土地問題
この制度を国が作った背景はこうだ。
・土地利用ニーズの低下等により、土地を相続したものの手放したいと考える人が増加している
・相続を契機として、土地を望まず取得した所有者の負担感が増しており、管理の不全化を招いている
そして、これらが具体的な懸案となって生じているひとつが、いわゆる「所有者不明土地」問題だ。
よく知る人も多いだろう。相続等によって所有者に変更があったにも関わらず、その旨登記がされていないため、土地の現在の持ち主が容易に判明しなかったり、判明しても所在が掴めなかったりで、災害復旧などさまざまな施策等の遂行に支障が生じている問題をいう。
「所有者不明土地はすでに約410万haに相当。九州(本島)の面積を超えている」「2040年には約720万haになり、北海道(本島)の広さに迫る」
――これは、一般財団法人国土計画協会「所有者不明土地問題研究会」が2017年に発表した報告書によるものだが、あちこちに引用されているので、読んだ記憶のある人もかなり多いだろう。
そこで、相続土地国庫帰属制度は、当面この所有者不明土地の発生を予防することを主眼に創設されている。
なお、同じく所有者不明土地問題への対処としては、より直接的なものとして、来年4月1日より施行される相続登記の申請義務化がある。
つまり、相続土地国庫帰属制度は、この申請義務化と合わせ、両輪となって問題の解決・改善を図ろうとするものでもあるわけだ。
相続土地国庫帰属制度は、空き家問題への対策となるか?
さて、そんな新制度だが、
「不要な土地」
「所有者不明土地」
「手放したくとも売値がつかない“負”動産」
と、いった問題と関りの深い、いわゆる「空き家問題」の解決を助けるものとなりうるのだろうか?
そこで、さきほどの「なあんだ。結局は狭き門じゃないか」が出てくることになる。
相続土地国庫帰属制度では、冒頭近くで述べたとおり、建物のある土地は引き取ってもらえない。よって、相続した土地に空き家が建っているのならば、これを解体しなければそもそも話が進まないことになる。
つまり、解体・撤去費用がかかる。
そのため、ほかの要件をすべてクリアできる土地でも、当該費用の負担に耐えられない場合、相続した「土地付きの要らない空き家」を抱える人にとって、この制度は検討対象とはしにくい。惜しいが、それが一応の結論となる。
ただ、以下のメリットには注目しておきたい。
まず、この制度で土地を引き取るのは「国」だ。つまり、すでに渡す相手が決まっている。探す苦労がない。
なおかつ、相手は国なので信用も十分だ。どこの何者かと疑ったり、騙されないかと心配したりする必要もない。
これらは場合によっては案外大きなメリットとなるはずだ。
モラルハザードと救済のはざまで
この相続土地国庫帰属制度の将来について、筆者には多少予感していることがある。
と、いうよりも「そうなっていった方がよいのでは?」と、思っていることがあるので付け加えよう。
それは、自治体レベルでのアシストだ。
今回、制度の創設にあたって、国がモラルハザードの抑制を強く意識している点は、公表資料からもよく見てとれる。
すなわち、すでに紹介した各種の要件は、下記の一文にもあるとおり、そうした意味から慎重に考慮、決定されているものだ。
「管理コストの国への転嫁や土地の管理をおろそかにするモラルハザードが発生するおそれを考慮して、一定の要件を設定し、法務大臣が要件について審査を実施」――(法務省資料内の記述)
とはいえ、たとえば膨大な人口を擁する団塊の世代が、2025年以降すべて後期高齢者となる事実にも代表されるとおり、わが国は間もなく大相続時代と呼べるものを迎えていくことになる。
そうした中で、望まぬ不要な土地の相続は、国民が抱えうるリスクあるいはストレスとしてますます影響が広がっていくはずのものであり、これを公的に救済していくことは、社会・経済両面でのメリットを考えるうえで、十分理にかなったことといえるだろう。
そこで、この件については、国と国民の間で、自治体が一枚噛むのがよいのではないかというのが、筆者がいま想っているところとなる。
すなわち補助だ。たとえば、建物や工作物、埋設物等が存在する土地にあっては、それを国がスムースに国庫に収容できるよう、撤去費用を自治体が補助する。(もちろんこちらでも一定水準の承認審査は必要になる)
その場合、国はたとえば国有資産等所在市町村交付金への一定期間の上乗せを行うなど、一歩裏にひいたかたちで、自治体のサポートに回ることとなる。
これは、モラルハザードに厳格な視点からは、自治体が汚れ役を担うやり方ともいえるが、以上のようなスキームをつくれば、国民個人負担の軽減とともに、地方経済への刺激や(撤去費用等は地元民間に多く流れる)、スプロールした地域の環境回復がより迅速化するなど、メリットも大小生じうるものとなるはずだ。
(文/朝倉継道)
この記事を書いた人
コミュニティみらい研究所 代表
小樽商業高校卒。国土交通省(旧運輸省)を経て、株式会社リクルート住宅情報事業部(現SUUMO)へ。在社中より執筆活動を開始。独立後、リクルート住宅総合研究所客員研究員など。2017年まで自ら宅建業も経営。戦前築のアパートの住み込み管理人の息子として育った。「賃貸住宅に暮らす人の幸せを増やすことは、国全体の幸福につながる」と信じている。令和改元を期に、憧れの街だった埼玉県川越市に転居。