知っておきたい 賃貸マンションやアパートで「大騒ぎ・周りに迷惑」 実は法律違反
賃貸幸せラボラトリー
2022/01/19
イメージ/©︎dolgachov・123RF
管理会社やオーナーに叱られた
ある会社員の思い出話だ。
「若気の至り。学生時代に住んでいたアパートで、夜中に友達を集めて酒を飲んで大騒ぎ。周りの部屋やご近所の方が怒って、警察まで呼ばれたばかりか、そのあと管理会社の人にしこたま叱られたよ」
これを聞いて、後輩社員が……
「先輩、それ、先週のオレです。以前も注意されたことがあったんで、次に騒いだら退去を考えてもらうって、大家さんからクギ刺されちゃいました」
後輩社員は、今後は2度と同じことをしないよう、ぜひとも注意しておきたいところだ。
ところで、基本的には生活マナーの問題、あるいは個人の常識・意識の問題だと思われがちな、こうした賃貸住宅での騒音などの迷惑行為。実は、「やってはダメ」とちゃんと法律に書かれていることはご存じだろうか。
もしも知らないのであれば、この機会に覚えておこう。そのことは、日本国民の生活を支える基本的な法律である「民法」に書かれてある。
民法594条1項とそれを補完する616条
賃貸住宅での、騒音など周りを困らせる迷惑行為……「やってはダメ!」の法律的根拠、それはこれだ。
(民法第594条第1項)
「借主は、契約又はその目的物の性質によって定まった用法に従い、その物の使用及び収益をしなければならない。」(同 第616条)
「第594条第1項の規定は、賃貸借について準用する。」
なお、上段の594条1項と、あとの616条は、この場合ワンセットで運用されることになる。なぜなら、前者は実は使用貸借についての規定なのだ。使用貸借とは、無償の貸し借りのことをいう。そのため616条がそれを補完するかたちで、この規定は、有償での契約にもとづく賃貸住宅にも適用されることになっている。
そこで、注目してほしいのは、594条1項に記された「契約又はその目的物の性質によって定まった用法」の部分だ。借主は、これに従って「その物の使用及び収益をしなければならない」とある。
このうち、まずは契約によって定まった用法についてだ。通常、住宅における賃貸借契約では、「用法」が数カ条にわたって定められている。
例えば、基本となる「居住のみを目的として本物件を使用しなければならない」旨の条文をはじめとして、「貸主の承諾を得ることなく物件の増築、改築等を行ってはならない」、同じく「承諾なく共用部分に物品を置いてはならない」、同じく「承諾なく動物を飼ってはならない」等、こうした約束ごとが、通常はいくつも契約書の中に並べられているはずだ。
つまり、民法は「こうした契約上の約束ごとを守ってその物件に住みなさい」と、まずは示していることになる。
よって、これら用法の中に、「物件内に人を呼び、騒音を立て、近隣に迷惑をかけてはならない」といった内容の定めがあれば、当然のこと、入居者はそれに従って暮らさなければならないことになるわけだ。
周りに迷惑をかけないことは賃貸住宅の「当然の用法」
では、そんな決まりごと(人を呼んで騒音を出すな)が契約の中に存在しなかったとしたらどうなるだろう?
え、そんなことってあるの?――といった反応がありそうだが、実はあまりに常識的な問題であるためか、具体的には存在しないケースが普通だ。例えば、多くの賃貸管理会社・仲介会社がひな型とする国土交通省の賃貸住宅標準契約書をひもといてみると、これに類するものとしては、「大音量でテレビ、ステレオ等の操作、ピアノ等の演奏を行うこと(をしてはならない)」までが記されているにすぎない。むしろ逆にいうと、賃貸住宅で発生が予想される迷惑行為の全部を集めてここに盛り込むことこそ、困難な作業といえるわけだ。
そこで、もうひとつの条件が発動することになる。「その目的物の性質によって定まった用法に従い、その物の使用及び収益をしなければならない」の部分だ。
答えはもうお分かりと思うが、ここでいう目的物とは、アパートやマンションの賃貸借契約においては、当然ながらその対象となっている部屋をいう。
では、その「性質」とは何か? それはもちろんそこが住宅である以上、そこに住む人みんなが安全かつ平穏で、静かに、安心して暮らせる場所であることだ。
すると、そのようなあるべき性質を損なう行為は、つまりは「定まった用法に従わない」行為となる。
すなわち、友人などを部屋に集めて騒ぐことに限らず、周りに住む人々に対し、安全・安心かつ平穏な暮らしをさせない迷惑な行為は、すべてがこの「定まった用法に従わない」行為であると考えるのが正解だ。イコール、民法594条1項違反となるわけだ。
なお、専門的にはこれを「用法遵守義務違反」という。犬・猫を飼ってはいけないと契約に定められている物件で犬・猫を飼うのはすなわち用法遵守義務違反。たとえ契約書には書かれていなくとも、夜、部屋に人を呼んで騒ぎ、周りの部屋の人が眠れなくなるような事態を招けば、それも用法遵守義務違反となるわけだ。
「生活マナーがなっていない」「常識をわきまえろ」などと叱られる行為である以前に、実はこれらは立派な法律違反であるというのが、あまり知られていない事実となる。
オーナーも追い込まれる
ところで冒頭の会話では、後輩社員は「次に騒いだら退去を考えてもらう」と、大家さん=賃貸住宅オーナーから厳しく注意を受けていた。
そこで知っておきたいのは、こうした場合のオーナーの立ち位置だ。
賃貸住宅で、一部の非常識な入居者が周りの入居者に迷惑をかけ、そのことでオーナーに次々と苦情が寄せられるといった場合においては、実はオーナーも法律上追い込まれた立場に立つことになる。
どういうことか? 答えはこちらも民法にある。賃貸住宅オーナーには、入居者に対し、家賃と引き換えに物件を「使用収益」させなければならない義務が課されているからだ。
(民法第601条)
「賃貸借は、当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うこと及び引渡しを受けた物を契約が終了したときに返還することを約することによって、その効力を生ずる。」
なお、ここでいう使用及び収益=使用収益とは、さきほども似た話が出てきたが、そこに住む人が安全かつ平穏で、静かに、安心して暮らせることだ。
つまり、賃貸住宅で、非常識な入居者が周りの入居者に迷惑をかけ、その人たちが平穏な生活ができずに困っている状態というのは、オーナーが彼らに対し、物件を使用収益させる義務を果たせていない状態であるにほかならない。ゆえに、その場合はオーナーもまた法律(上記601条)に違反していることになるわけだ。
すなわち、賃貸マンションやアパートの部屋に人を呼び、大騒ぎして周りに迷惑をかけるといった行為は、法律論的に解釈すると、違反者を2人も生んでしまう罪深い行為となる。賃貸住宅で暮らす人は、若い人も、そうでない人も、とりあえずそのことまではしっかりと覚えておくのがよいだろう。
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賃貸住宅に住む人、賃貸住宅を経営するオーナー、どちらの視点にも立ちながら、それぞれの幸せを考える研究室