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暮らしを決める、その先へ。島根の移住支援最前線──ふるさと島根定住財団の取り組み

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今回のウチコミ!タイムズは旅行メディア「日本の旅侍」との共同企画。「日本の旅侍」はお城を中心としたオトナ旅・知的旅を発信しているメディアです。また「日本の旅侍」では城を旅するWebマガジン「旅と城」を発行しています。

今回、「旅と城」では世界遺産・石見銀山と山吹城跡を特集。観光と移住をテーマにウチコミ!と一緒に他県に先駆けて移住促進策を展開している島根県を取材をしました。島根県は1992年に外郭団体である公益財団法人の「ふるさと島根定住財団」を立ち上げ、移住情報ポータルサイト「くらしまねっと」やイベントなどで移住を募っています。今回はふるさと島根定住財団でUIターン推進課課長を務める島田朋子氏と主任主事の佐々木太一氏に、島根のUIターンに関する取り組みについてお話を伺いました。インタビュアーは世界遺産ライターの本田陽子さんです。

石見銀山と山吹城跡の「旅と城」はこちらをご覧ください

-まずは財団の取り組みについて教えてください

島田 ふるさと島根定住財団は「若者を中心とした県内就職促進」「県外からのUIターンの促進」「活力と魅力ある地域づくりの促進」の3つの柱で事業を展開しています。島根の場合人口の減少が大きな課題であるため、県外に出ていくのを防ぎ県外からの流入を増やし、人口の社会増スパイラルになるように取り組んでいます。

職員数は64名で、昨年度の予算は約9億円でした。移住・定住でそれだけ予算をかけて取り組む県というのはなかなかなく、全国トップレベルの予算規模の体制で取り組んでいます。

-UIターンの促進についてはどのように取り組んでいますか

島田 3つの柱で展開しています。1つ目は県外の方に「島根暮らしっていいな」と思っていただくための情報発信、2つ目がオンライン・オフラインでのイベント、3つ目が個別支援です。

1つ目については島根は「知られざる島根」と言われるほどなので、島根で暮らすことを選択肢に入れていただくために情報発信をしっかりすることは重要だと思います。

ポータルサイト「くらしまねっと」は非常に多くの方にご覧いただいております。ここでは仕事や暮らし、住まいや支援情報など、移住に必要なさまざまな情報を動画を使いつつ分かりやすく網羅的に掲載しています。島根の手厚さがインパクトを持って伝わるように情報を集約して作り込んでいます。

仕事についてもかなりのボリュームを掲載しています。ハローワークの求人を取り込むのはもちろん、企業にオリジナルでたくさんお仕事を登録していただいてます。テレワークや新しく起業される方もいますが、圧倒的に地元の仕事を選ばれる方が多いですね。

さらに「心で読む求人票」と題した読み物風の記事コーナーを設け、企業の雰囲気や仕事のやりがい、社員の満足度が伝わる記事を掲載しています。情報の量と、その質をいかに高めるのかを両軸で運営しています。

島田 最近の課題として若い女性の県外流出があります。このため女性向けのコンテンツを増やし、例えば島根で農業を始めるストーリーなど、漫画で3人の女性の移住ケースを紹介しています。さまざまな女性に自分事に感じてもらえそうな情報を、多様な手段で伝えているのですが、こうした成果か、UIターンに興味がある人が登録する「しまね登録」への女性の登録者数は右肩上がりで増加しています。

実は島根には女性が参加できる仕事がたくさんあるんです。昔は採用されなかった林業でも女性の雇用がたくさん生まれていますし、漁業や建築系もそうです。運転手などでもじわじわ女性を採用する動きが出てきていますね。

-オンライン以外の活動はどのようなものですか

島田 県外の窓口が東京、大阪、広島にあります。また、財団は直接執行していませんが、島根県の県内広報として、イメージ戦略で新聞紙のラッピング広告等を実施しています。

佐々木 島根県の調査によると、Uターンにつながったきっかけは両親や祖父母などからの情報という割合が高かったんです。このため現在は例えば東京でイベントを開催するとき、島根県内の新聞や関連サイトなどで親世代向けに情報を流し、親からお子様へ「東京でこんなイベントやってるらしいよ」と伝わるような仕掛け作りもしています。

-2つ目の柱であるイベントについて教えてください

島田 移住に悩む方に出会うためのイベントは重要だと思います。移住は住まいを、仕事を、人生を変えるとても大きな決断です。ネットの情報だけで移住をポンと決断できる方もいますが、やはり人に頼りたいっていう方もたくさんいらっしゃいます。そういった方々と出会うためにオンライン・オフラインでイベントを開催しています。

県外では東京と大阪に絞ってさまざまな移住イベントを仕掛けています。例えば昨年度は「しまね移住フェア&しまね暮らしマルシェ」を同時開催し、2000人以上の方にお越しいただけました。

我々のこだわりとしては、財団の職員や島根の市町村職員、移住した「先輩」の参加です。「しまね暮らし」が語れる人が200名以上参加するイベントですので、その人たちと出会って「ちょっと行ってみたい」「もっと知りたい」と思ってもらう。そうしたきっかけを作り、より興味を持ってもらうための仕掛けとしてイベントを実施しています。今後も大型イベントを仕掛けていきたいですね。

-3つ目の柱である個別支援はどのようなことをされているのですか

島田 興味を持っていただいた方への個別支援は島根の一番の強みだと思ってます。財団では一人一人に担当者をつけて丁寧にフォローしています。特に移住意向が強い方の取りこぼしがないように、仕事先の紹介から住まいの探し方までサポートしています。電話でもオンラインでも相談を受け付けています。

移住を希望される方の背景はさまざまです。どういうこだわりがあり、どういう選択をされたいか、「子どもの保育園が分からない」「どういう仕事があるのか知りたい」などの要望をヒアリングしながら、それぞれ必要なことをお手伝いしています。

-仕事を見つけるためのサポートもされるのですか

島田 四半世紀以上続く財団ですから求人の登録もたくさんの企業に登録いただいていますし、そうしたなかから移住者の希望に合うお仕事を紹介しています。

また、島根県は車社会なので、公共交通機関だけで数社の面接を回るのはとても難しいです。なので面接の日程調整から、面接にお連れし、ご希望があれば同席することもあります。聞きづらい給与の条件を職員が聞くこともありますよ。徹底的に応援することで信頼関係が構築でき、寄り添うサポートにより「島根に決めました」と言ってくださる方も多いんです。

-職員の対応が移住の決め手になったということですか

島田 移住を決定した方からお話を聞くと、最初はいろいろな場所に相談したけれど「一番親身になってくれた」「丁寧だった」「悪いところも正直に言ってくれた」といった信頼感からスムーズに決まることが一番多いように思います。

島根県民はどちらかというと、お世話焼きの人や優しく穏やかな人が割と多いと言われています。そういうところで「何かほっとする」と決められる場合もありますね。

徹底的なフォローによる実績は非常に高く、「しまね登録」にはUIターン希望の方が約1万3000人登録しています。このうちの3258人が求職者として無料職業紹介サービスを受けることを希望されていますが、昨年このうち348人の方の就職が決まりました。

他県の場合、県外に移住相談のブースはあるものの、仕事探しはハローワークや各市町村の窓口という場合が多いんです。特定の市町村というよりもある程度横断的に探すケースも多いので、我々のような外郭団体が緩やかに市町村と連携をとりながら進めていった方がスムーズに決まる場合も多いのではと思います。

-どのような方が移住されるのでしょうか

島田 ほとんどが40歳以下の方で、30代が一番の山です。若い方が一番仕事が決まりやすいですからね。ただ、最近は人材不足なため、県内の受入先が50代、60代のシニア枠を受け入れてくれることが増えました。

また、外国人の移住もあります。パートナーが日本人というケースが多いですね。財団に外国人向け窓口はなく、多言語化もまだですが、日本人のパートナーの方がサポートしてくれています。加えて農村部や離島は外国の研修生や実習生が産業を支えているケースも出てきています。

-島根に移住を決めた方は、住む場所をどう決めていらっしゃるのでしょうか

島田 Iターンの場合圧倒的に多いのは仕事の関係です。次に住まいから決めるケースですが、この場合は周囲の環境にこだわりがあったり、いい条件の物件がたまたま見つかった、という場合が多いです。Uターンの場合は実家または実家の周辺ですね。生まれ育ったところで子育てしたい、親が帰って来いっていったから、といった理由は非常に多いと思います。

佐々木 ボリュームは少ないですが、例えば石見銀山がすごく好き、出雲大社がすごく好き、みたいな歴史好きの方や、島暮らしにあこがれて島に移住する方もいますよ。

島田 一方で途中で島根から離脱される方もいらっしゃいますが、退会者向けのアンケートによると、お仕事が先に他県で決まったからというのが多いですね。

-移住後ギャップが生まれることもあると思いますが、どのように対応していますか

島田 主な移動手段が車だということにギャップを感じ、戸惑われる方が多いかと思います。島根には年間3500人〜4000人の移住者が来られるので行き届かない部分はありますが、近年、財団を介して移住された方を対象に移住者交流会をやっています。

佐々木 「しまね移住体感オンラインツアー」を年3回程度開催しています。1回あたり約150人が参加するイベントで、「子育てモデル」「移住のギャップ」など各回にテーマを設けてます。

実は先月ギャップをテーマに開催しましたが、そこで出たのが田舎は地域清掃だったりお祭りの準備だったり地域活動があるので意外と忙しいというものでした。そういった「想定しているかもしれないけど実際はこうだよ」という情報を事前に検討されている方に伝え、なるべくギャップが埋められるようにするためのアプローチにも取り組んでいます。

経験値的に見ると、とにかく急いでイメージだけで移住すると失敗しやすいと思います。移住に関して思い込みがないか確認するとともに、マイナスなことも包み隠さずに事前にお伝えし、移住後に何か起こるのを防ぐことが重要です。財団のなかではそうした認識を持ちながら「幸せな移住かどうか」を判断軸にして支援しています。

−ギャップがあることを理解して入っても、乗り越えている方もいらっしゃるかと思います

島田 よほどのことがない限りすぐに移住を取りやめる方は少ない印象です。あくまで最後は移住者ご自身が納得されて決めていることなので、ちょっとしたことがあっても大体の方が乗り越えられているかと思います。

佐々木 そうしたギャップを自分の話として話せる移住の先輩にイベントに参加して話していただいたのですが、その際はマイナスなことをたくさん発信するようにしていました。実際に近所付き合いのここが嫌だったなど、マイナスのところをいっぱい発信しており、アンケートなどでは「リアルに教えてくれたことがうれしかった」といった声もいただいています。

−移住する方の住まいの受け入れ状況について教えてください

島田 まずは民間賃貸をおススメしています。「最初から買いたい」という移住者もいらっしゃいますが、リスクが非常に高いと思っています。なるべく賃貸から始めて、地域や仕事と合うか様子を見たうえで家を買わないとトラブルにつながりかねないと心配します。

若い方がまずはお試しで賃貸に入られて、地域活動に参加して地域に入っていく。「どこの地区が本当にいいんだろう」とやっているうちに、大体世話焼きさんが「お前さんになら、わしがあの家の家主さんに話してみてやる」という話になり、安く譲ってもらったと聞くこともありますね。

そのうち畑や農機具をもらうようになったりというケースもあります。地域の方も若い人が入って来てくれたら嬉しいし、守って行ってほしい、という思いは非常にあると思いますよ。

物件を探す際は民間物件情報が多く掲載されている「山陰不動産ナビ」というサイトを利用して探される方が多いですね。松江や出雲は賃貸物件が多いですが、島や山間部で探す場合は非常に苦労するケースが多いです。その場合は各市町村が管理する物件が掲載されている「空き家バンク」をご案内しています。

島根県は山間部を中心に空き家が多いのですが、購入して欲しいというニーズが高いので少し難しいところがあります。また、改修が終わって「今使える空き家」が少ないのも課題です。ぎりぎりまで空き家バンクに登録しないこともあるので、住む人がいなくなったらすぐ登録するよう、自治体が頑張って説得していくしかないと思っています。

-新型コロナの影響はありましたか

島田 影響は大きく、相談はあるけれどそもそも移動ができないので「今じゃない」という時期がありました。コロナ後は規制のなかでの都市部の息苦しさから自然の中で働きたい、というニーズが増えました。財団では「UIターンしまね産業体験」という、農業・林業・漁業・伝統工芸・介護分野等の産業を体験する場合滞在費の一部を助成するメニューがありますが、第一産業を中心に予算が足りないぐらいの体験者数になりました。

現在は就職決定者数が右肩上がりで事業もたくさん予算をいただきながら展開しています。コロナの反動とは別の文脈で、すごく増えている状態ですね。傾向としては首都圏や大阪、広島からの移住者が多いです。

−最後に島根県のことを考えてる方へメッセージをいただけますでしょうか?

佐々木 選択肢に正解・不正解はないと思うんです。自分の今の状況やタイミングで「こうしたい」という気持ちが芽生えて何かを選択するととて、後から自分で「それが正解だ」と思えるような生活ができれば良いかと思います。

-ありがとうございました

しまね移住情報ポータルサイト「くらしまねっと」
島根への移住(Uターン・Iターン)したい皆さんを支援する、「ふるさと島根定住財団」が運営する移住支援情報ポータルサイト。
https://www.kurashimanet.jp

世界遺産・石見銀山を山吹城跡の「旅と城」はこちらをご覧ください。
石見銀山と山吹城跡の「旅と城」を読む

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この記事を書いた人

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