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認知症600万人時代をわれわれはどう戦うか?

朝倉 継道朝倉 継道

2024/05/27

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2040年の高齢認知症患者は推計584万人

ゴールデンウィークが明けたばかりの5月8日、各メディアが「認知症の高齢者が2040年に推計584万人となる」旨のニュースを一斉に報じた。厚生労働省のまとめによるものという。要点を3つ並べていこう。

  • 2040年に全国の認知症の高齢者の数は約584万2千人となる。高齢者(65歳以上)のおよそ7人(6.7人)に1人の割合。
  • 厚労省はこれまで、同年の高齢認知症患者は802万人になるとの予測を公表していた。大幅に減少の見込みとなった。
  • 減少が見込まれる理由としては、喫煙率の低下や生活習慣病管理の進展など、健康意識の改善に伴ういくつかの変化が挙げられる。

―――さて、これは明るい話題なのか。まったくそうではないのか?

なお、2040年というのは、いわゆる団塊ジュニア世代が高齢者――65歳以上――に達する年となる。

今世紀半ばには600万人を突破

報道の元となった資料を確認してみよう。内閣官房のウェブサイトに収められている。(「九州大学大学院医学研究院・二宮利治教授 提出資料」)

これは、「認知症施策推進関係者会議(第2回)」(5月8日開催)において提出されたものだ。詳しい数字を抜粋していこう。まずは、高齢の認知症患者数と有病率の推定値だ。

高齢(65歳以上)の認知症患者数と有病率の推定値
認知症患者数 有病率
2025年 471万6千人 12.9%
2030年 523万1千人 14.2%
2035年 565万5千人 15.0%
2040年 584万2千人 14.9%
今回多くの報道で採り上げられた数字
認知症患者数 有病率
2045年 579万9千人 14.7%
2050年 586万6千人 15.1%
2055年 616万0千人 16.3%
2060年 645万1千人 17.7%

このとおり、認知症に罹っている人の数は、今から約30年後には600万人を優に超える予測となっている。

ちなみに、同時期、日本の人口は約1億人に減ると言われている。

そこで、単純に600万人/1億人で計算すると、人口の約6%を高齢の認知症患者が占めるかたちとなる。約17人(16.7人)にひとりの割合だ。

今年生まれの赤ん坊が20代の頃に見る世界

もうひとつ、数字を挙げてみよう。

こちらは、軽度認知障害(MCI――Mild Cognitive Impairment)の患者数と有病率の推定値となる。すなわち、認知症予備軍とされる段階にある人の数だ。

高齢のMCI(軽度認知障害)患者数と有病率の推定値
認知症患者数 有病率
2025年 564万3千人 15.4%
2030年 593万1千人 16.0%
2035年 607万7千人 16.1%
2040年 612万8千人 15.6%
2045年 617万0千人 15.6%
2050年 631万2千人 16.2%
2055年 639万7千人 16.9%
2060年 632万2千人 17.4%

このとおり、MCI患者の数も、これから今世紀半ばに向けては増加の一途を辿る予測になっている。

高齢認知症患者数と、同MCI患者数の予測値を足してみよう。人口の予測も添える。

 
高齢認知症患者数とMCI患者数の予測値 予測人口
約20年後(45年) 1,196万9千人 約1億880万人
約25年後(50年) 1,217万8千人 約1億469万人
約30年後(55年) 1,255万7千人 約1億51万人

(予測人口=国立社会保障・人口問題研究所「人口統計資料集」24年版より)

このとおり、約1億人の人口に対して、1千万人を大きく超える数の高齢認知症患者およびその予備軍といったかたちだ。数字があまりにすごいためか、その様子が頭の中でどうにも絵にならない。(1,200万人といえば、ほぼ今の九州全土=7県分の人口となる)

ともあれ、これが、今年あるいは来年生まれる赤ん坊がざっと20代を通して見ることになるわが国の姿――その一面となりそうだ。

否、希望を込めて言えば、「なるかもしれない」。

認知症との戦いは国民総力戦

さて、以上を踏まえ、筆者の私見となる。

今後のわが国にとって、認知症との戦いは、実のところ現実の戦争にも近い総力戦になると筆者は思っている。

ちなみに、総力戦といえば、ご存知のとおり、現在ウクライナとロシアの間でそれが(あるいはそれに近いものが)行われている。攻め込まれている側のウクライナは、昨年秋のJETRO短信によると、本年分歳出の約5割を防衛・安全保障関連費に投じざるをえなくなっている。

そこでいうと――日々人の血が流れ、命が失われている現実の戦争と絡めて話すのは不適切かもしれないが――認知症は、ともすれば人の死以上に社会にとって痛手が深い。

なぜなら、この病気は、罹患した本人から生産能力や社会貢献能力を奪うのみならず、その周囲からも、それらを少なからず奪い去ってしまうからだ。

なおかつ、介護人材への投入というかたちで、人的リソースが蚕食される度合いも大きなものとなる。(数量的な話をしている。介護の仕事の価値を軽んじる意味で言っているのではない)

よって、ほどなく日本人600万人を“戦死”させ、“銃後”数えきれない人数を疲れ果てさせようとしている認知症と本気で戦うことは、現在、われわれが抱えるもっとも大きな課題のひとつといっていい。

誰もが参加できる「予防」戦線

以下、認知症との3つの戦い方だ。

  • 「予防」
     ――国民の健康意識の向上が間違いなく柱になる
  • 「治療」
     ――創薬、育薬が重要な柱になる
  • 「介護」
     ――AI、IT、すなわちコンピュータ・テクノロジーがおそらく力強いサポートとなる

なお、このうち誰もが参加できるのが1番目の「予防」戦線だ。

そのうえで、認知症の予防においては、いわゆる生活習慣病予防が特に大事なポイントとなることが、昨今ほぼ確定した見方となっている。

つまり、個人が年を取っても長く健康でいることは、自身や家族への恩恵であるとともに、社会への大きな貢献ともなるわけだ。

喫煙を控え、飲酒は抑え、適度に運動し、バランスのよい食事を摂ることに皆で努めたい。

(文/朝倉継道)

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この記事を書いた人

コミュニティみらい研究所 代表

小樽商業高校卒。国土交通省(旧運輸省)を経て、株式会社リクルート住宅情報事業部(現SUUMO)へ。在社中より執筆活動を開始。独立後、リクルート住宅総合研究所客員研究員など。2017年まで自ら宅建業も経営。戦前築のアパートの住み込み管理人の息子として育った。「賃貸住宅に暮らす人の幸せを増やすことは、国全体の幸福につながる」と信じている。令和改元を期に、憧れの街だった埼玉県川越市に転居。

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