少子化対策のためには公営の「出会い系サイト」が必要?「第16回出生動向基本調査」
朝倉 継道
2022/10/19
内容豊富な「概要」報告書
今回、一読して筆者はこんなことを思ってしまった。日本にとって少子化・人口減少への対策が急務なのだとすれば、公設の「出会い系サイト」がいまこそ必要なのでは――?
この9月に、国立社会保障・人口問題研究所が「第16回出生動向基本調査」の結果を公表している。ちなみに今回の分は「結果の概要」となっており、詳細はさらに追って来年ということになる。しかしながら、この概要のみでも内容は大変豊富。価値ある報告書だ。
調査時期は2021年6月となっている。独身者である対象者から戻った有効調査票の数は 7,826(有効回収率55.9%)。夫婦からのものは6,834(有効回収率72.7%)。目についた調査結果を挙げていこう。
そもそも「結婚」という将来を描かない若者が増えている
まずは、独身者の調査回答結果からこんなデータをピックアップしてみよう。「いずれ結婚するつもり」と考えている、18歳から34歳の未婚者の割合だ。
「調査別にみた、未婚者の生涯の結婚意思」
<引用グラフ:P18 図表 1-1>
見てのとおり、「いずれ結婚するつもり」と答えている未婚者の割合はここ約40年にわたり減少傾向だ。対して「一生結婚するつもりはない」の割合は明らかな増加傾向にある。
そのうえでさらに際立つのが、前回調査から今回にかけての数字の変化だろう。男女ともに「いずれ結婚するつもり」が目立って減り、逆に「一生結婚するつもりはない」が急増している。しかも、こうした傾向は年齢の高い独身者だけでなく、結婚に夢を抱きやすいはずの若い世代にも浸透している。それを示すグラフが以下となる。
「調査・年齢別にみた、未婚者の生涯の結婚意思」
<引用グラフ:P19 図表1-2>
いかがだろう。わが国にとって、少子化をネガティブな問題であると捉える意見は多いが、その前提となる結婚について、そもそもこれを予定しないとする若者が増えているというのが、以上の単純な結果だ。
そもそもカップルが生まれなくなっている
次に採り上げたいのがこちらのデータとなる。テーマは「結婚以前」のこととなる。恋人同士=カップルの成立だ。わが国においては、出産・結婚云々の前に、どうやら未婚のカップルがそもそも生まれにくくなっている。
今回の調査では、「交際相手をもたない(異性の友人/恋人、婚約者のいずれもいない)」と、答えた18~34歳の未婚者の割合は、男性で72.2%、女性で64.2%となっている。
約40年前の数字に比べるといずれもほぼ倍増だ。約10年前となる2010年の結果と比べても、男性で約1.18倍、女性で約1.30倍になる。顕著な増加傾向といっていいだろう。
「調査・年齢別にみた、交際相手(異性の友人/恋人、婚約者)をもたない未婚者の割合と交際の希望」
<引用グラフ:P26 図表2-2>
その結果、「30~34歳の未婚者で、異性との交際経験(恋人として交際)がない」という人の割合は、目下男性で4割に迫っている。女性も3人に1人以上となっている。(=若者に括られる層としてはこれまでの人生は長いが、それでも異性との交際経験がない)
さきほど示した、自身の将来に結婚という可能性を見ていない人々の横顔が、ある程度のボリュームでここに垣間見えている。
「年齢別にみた、異性との交際経験(恋人として交際)をもつ未婚者の割合」
<引用グラフ:P27 図表2-3>
マトを誤っていた? 少子化対策30年の歩み
以上のとおり、当調査からは、わが国の少子化に関わるひとつの簡単な図式が導き出せそうだ。それは、「少子化の前にそもそも非婚化がある」ということ。さらには、それ以前に「そもそもカップルが生まれづらくなっている」ということになる。
そうした、いわば壊れかけた土台があったうえでの「結婚は予定しない」もしくは「予定しえない」「したくともできない」――だ。
これは、まさに単純かつ明快な流れといっていいが、筆者が思うに、われわれの社会は案外この部分をしっかりと捉えて来てはいなかったのかもしれない。
内閣府がウェブサイトで公表している「少子化対策の歩み」と題された資料を見てみよう。そこには、はるか94年の文部・厚生・労働・建設各大臣合意による「エンゼルプラン」から始まり、10年の「子ども・子育てビジョン」閣議決定、12年の「子ども・子育て支援法」、17年の「子育て安心プラン」、20年の「新子育て安心プラン」等々、数々の施策が紹介されている。
ただ、こうして並べられたものを見ていて、多くの人がある“欠落”に気付くのではないか。すなわち、国が懸命に主導するこれらの施策は、多くが夫婦か、それに準じた位置にまでこぎつけているカップルに対して、出産や子育てを後押ししようとするものだ。
一方、それ以前のプロセスとして存在する男女の出会いや、恋人関係の成立といったものに対しては、これらはきわめて間接的な支援しかおそらく果たしえていない。
つまり、われわれは(日本はちゃんと機能している民主主義国家なので、国=われわれだ)この件に関して、長年にわたり肝心なマトを外していた可能性があるということだ。
国が出会い系サイト・アプリを運営する?
すると、こんな意見も聞こえてきそうだ。
「男女の出会いなどという、きわめてプライベートなことがらに公(おおやけ)が関与する?」
「もしや、国や自治体に対して、出会い系サイトでも開設しなさいとあんたは言いたいのか」
いや、実はそうなのだ。筆者は大真面目でそれもやってみる価値があることではないかと思っているのだ。思えばハローワークなどというものもすでにあるではないか。扱う分野は違えども。
ただ、言い添えよう。国や公が国民男女――特に若い男女の「出会い」を取り持とうなどとするにあたっては、その土台となる大事なことはきちんとふまえなければならない。
それは2つのことだ。ひとつは性教育。さらには人権教育。
繰り返そう。徹底した性教育。さらには徹底した人権教育だ。
これらを早期の内に、たとえば第1段階を11歳までに、第2段階を14歳までに公教育内で確立させる。そのうえで、国民は12歳からセキュリティの確保されたネットツールを使って「出会い」を求めることが出来る――。
どうだろう。話がいきなり飛び過ぎているだろうか。
しかし、こうでもしないと、これからますますわれわれ日本人にあっては、異性を遠目に遅疑逡巡としながら年をとり、やがて結婚も捨て、出産・子育ても捨て、ある意味で悟りをひらきつつ、孤高の老人となっていく層の割合を増やすことになるだろう。
跳ね上がる「ネットでの出会い → 結婚」の割合
第16回出生動向基本調査(結果の概要)をいまいちどひもときたい。以下は夫婦を対象とした「夫婦調査」の結果だ。
「結婚年次別にみた、恋愛結婚・見合い結婚の構成割合」
<引用グラフ:P41 図表5-2>
グラフの右下に、数値が急に跳ね上がっているデータが見えるが、これは夫婦が知り合ったきっかけは何か? との問いに対して、インターネットアプリやウェブサイト、SNS等が回答された割合となる。今回調査では15.2%という数字が挙がっている。
さらに、次のグラフでは、最近6年間をさらに細かく区切ったうえでの状況が見えている。
「調査別にみた、夫と妻が知り合ったきっかけの構成割合」
<引用グラフ:P42 図表5-3>
一番下のデータ2本に注目したい。これらは、
「第16回(2021)a」… 結婚が15年7月~18年6月の夫婦
「第16回(2021)b」… 結婚が18年7月~21年6月の夫婦
それぞれの回答を示している。すなわちこの間、ネットでの出会いは6.0%から13.6%と、まさに急増している。
そこで古い世代が見れば、「ネットでの出会いから行き着く結婚なんて大丈夫?」と、何やら危なっかしい印象かもしれないが、現実はこうだ。
いまや、インターネットは結婚のきっかけをつくる一般的な手段・ツールのひとつとなっており、しかもそのシェアは急拡大している。であるからこそ、社会的・公共的利益に基づく観点からの“整理”も、おそらく必要となってくる。
そもそも少子化は悪か?
以上、この9月に国立社会保障・人口問題研究所が発表した「第16回出生動向基本調査」(結果の概要)を読んで、筆者の胸に浮かんだことを簡単に述べてみた。
なお、採り上げた調査結果は、当報告書のごく一部分に当たるものに過ぎない。日本が直面する少子化・人口減少という大きな課題、または難題に対し、当報告書がほかにも多くの知見や論点を提供しうる内容豊富なものになっていることについては、再度ここでも言い添えておきたい。
ところで、「そもそも少子化・人口減少がわが国にとって本当に悪なのか?」との素朴な疑問をもつ人もなかにはいるだろう。
実をいうと筆者もそのひとりだ。ちかごろあまり人前では口に出さないが(笑)
その理由のもっとも大きなひとつはきわめて単純だ。日本よりも人口が多い国を集めて並べてみるといい。国民が平均して日本よりも幸せそうな国は、失礼だが1個も見当たらない。
(文/朝倉継道)
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参考資料
「第16回出生動向基本調査」
https://www.ipss.go.jp/ps-doukou/j/doukou16/doukou16_gaiyo.asp
「内閣府が現在ウィブサイトで公表している『少子化対策の歩み』と題された資料」
https://www8.cao.go.jp/shoushi/shoushika/data/pdf/torikumi.pdf
この記事を書いた人
コミュニティみらい研究所 代表
小樽商業高校卒。国土交通省(旧運輸省)を経て、株式会社リクルート住宅情報事業部(現SUUMO)へ。在社中より執筆活動を開始。独立後、リクルート住宅総合研究所客員研究員など。2017年まで自ら宅建業も経営。戦前築のアパートの住み込み管理人の息子として育った。「賃貸住宅に暮らす人の幸せを増やすことは、国全体の幸福につながる」と信じている。令和改元を期に、憧れの街だった埼玉県川越市に転居。