ウチコミ!タイムズ

賃貸経営・不動産・住まいのWEBマガジン

地価LOOKレポート2025年第3四半期 クマ出没エリアが対象地区にも

朝倉 継道朝倉 継道

2025/11/26

  • Facebook
  • Twitter
  • LINE
  • Hatebu

全地区「上昇」が7期連続

11月18日、国土交通省が令和7年(2025)第3四半期分(25年7月1日~10月1日)の「地価LOOKレポート」を公表している。

前期に続き、今期も80地区全てが地価上昇地区となった。これで7期連続となる。住宅系地区は14期連続、商業系地区は7期連続。以下、国交省のコメントだ。

住宅系地区
「利便性や住環境の優れた地区におけるマンション需要に引き続き堅調さが認められたことから、上昇傾向が継続した」

商業系地区
「再開発事業の進展や国内外からの観光客の増加もあり、店舗・ホテル需要が堅調であったこと、また、オフィス需要も底堅く推移したことなどから、上昇傾向が継続した」

前期とほぼ同じ内容になっている。「マンション」「再開発」「インバウンド」が、いまの日本の大都市部地価を支える3つの柱ということだ。

なお、地価LOOKレポートの正式名称は「主要都市の高度利用地地価動向報告」という。日本の大都市部地価の動きと方向性を示す国の報告書となる。あらましについては、当記事の最後であらためて紹介したい。

上昇率上位の顔ぶれは変わらず

地価LOOKレポートにおける地価上昇地区には、率で表す3つの評価レベルがある。「上昇(6%以上)」「同(3%以上6%未満)」「同(0%超3%未満)」となる。今期のそれぞれにおける数は以下のとおりとなっている。

項目 地区数 前期
上昇(6%以上) 0 0
上昇(3%以上6%未満) 5 5
上昇(0%超3%未満) 75 75

「6%以上」は見てのとおりゼロだが、それに次ぐ「3%以上6%未満」の地区は5つある。

都道府県 エリア
東京都 中央区 銀座中央(商業系地区)
新宿区 歌舞伎町(商業系地区)
中野区 中野駅周辺(商業系地区)
京都市 下京区 京都駅周辺(商業系地区)
福岡市 中央区 大濠(住宅系地区)

これらの顔ぶれは前期と変わっていない。5地区それぞれにおける不動産鑑定士のコメントを覗いてみよう。(抜粋・一部修正)

銀座中央
「買い手側による当地区への選好性や開発期待が非常に高い」
「賃料水準も上昇基調」
「当面はインバウンド需要を中心に好調な商況が見込まれる」

歌舞伎町
「多くの外国人観光客や国内の行楽客が訪れる日本有数の歓楽街」
「飲食やサービス店舗は慢性的な空室不足。賃料は当期も上昇傾向」
「インバウンド需要の受け皿となるホテル建設も活況」

中野駅周辺
「複数の大規模再開発事業等が進行、予定」
「中野サンプラザの跡地の再開発計画については白紙化が決定」
「稀少性の高い土地を中心に商業地の需要は安定的に推移すると予想」

京都駅周辺
「当地区は観光客の集散拠点」
「強い出店意欲が見られる状態が続いており、店舗賃料は高値安定」
「収益用不動産の取得需要は当期も堅調」

大濠
「市内でも最上位の名声。最高価格帯でのマンション分譲が可能」
「高稼働を維持する賃貸マンションもみられ、家賃水準も強含み」
「優良な開発が可能なエリアでは、今後も需給の逼迫が続くと見込まれる」

このとおり、特徴別に分けると、

インバウンド需要が特に強く地価を引っ張る―――銀座中央、歌舞伎町、京都駅周辺

再開発計画が地価を押し上げている―――中野駅周辺

高価格帯マンションの需要が沸騰している―――大濠

と、いったところになるだろう。

ちなみに、中野駅周辺における「中野サンプラザ跡地の再開発計画白紙化」は、夏の初め頃に話題となったニュースだが、結局のところ、当エリアの地価にネガティブな影響は与えなかったようだ。

むしろ、大規模すぎる当初の計画―――高さ約262メートルの超高層ビルを中心とした複合施設の建設が提案されていた―――が無くなったことで、市場はこれに安心感を得た様子が窺える。

インバウンドについても触れておこう。

11月18日に、日本政府観光局(JNTO)が発表したところによれば、今年1月から10月までの訪日外客数は、推計値で3554万7200人となっている。

これは、昨年同時期までよりも17.7%伸びた数字で、いわゆる「高市首相国会答弁」に絡んだ中国人観光客の減少が今後続くとしても、今年の総計が昨年(3687万148人)を上回ることはほぼ間違いない。

都会ばかりの地価LOOKレポート対象地区にも「クマ出没」エリアが

地価LOOKレポートの対象地区といえば、大都市の中心や都会の真ん中、大きな繁華街、そこに隣接する住宅地といった人口稠密な場所ばかりだ。

ところが、そうした中に、いま問題となっている「クマ出没」エリアがあると聞いたら驚く人も多いだろう。今後、事態がさらにエスカレートした場合、地価に影響が及ぶかも―――と、いったところとなる。

その場所とは、札幌市中央区「宮の森」地区(住宅系地区)だ。

地価LOOKレポートでは、「札幌市営地下鉄東西線の西28丁目駅から徒歩圏の高級住宅地域内に集積した中高層マンション地区」と、紹介されている。

なお、ひと口にクマと言っても当地は北海道だ。本州などにいるツキノワグマとは種類も体格も違う。はるかに巨大で、力も強い、正真正銘の猛獣となる。

札幌市が公開しているヒグマ出没情報をひもとくと、つい先日の11月12日、中央区宮ケ丘3番地1の円山動物園敷地内で1頭が駆除されている(動物園のクマではなく、もちろん野生のクマ)。なお、西28丁目駅から同園入口までは、徒歩20分程度の距離しかない。

さらに、付近での目撃情報を並べると、

10月23日 中央区宮の森4条11丁目3番8付近
11月2日 中央区宮の森3条12丁目3番付近
11月10日 中央区宮の森2条11丁目1番付近
11月10日 中央区宮ケ丘474番地付近

ほかにも、少しエリアを広げると、宮の森地区近辺でのヒグマの出没は、近ごろ日常的といえるほどのものになっている。

札幌市中央区ヒグマ出没情報」(25年11月23日現在)より
(赤い矢印=上は地下鉄西28丁目駅、下は11月12日のヒグマ駆除地点)

ちなみに、ヒグマが駆除された円山動物園の東に接する森は、天然記念物にも指定されている円山原始林となる。これより西へ続く山々は、支笏湖、洞爺湖やニセコの山林なども覆いつつ、北海道西部に広がる大山塊をかたちづくるものとなる。

こうした大自然が間近なロケーションは、200万人近い人口を誇る札幌にあって都市としての魅力のうち最大といえるものだ。

しかしながら、そのトレードオフとして、ヒグマの出没が今後も増えるとすれば、それはまちとしてかなり頭の痛い問題にもなっていくに違いない。

地価LOOKレポートとは?

最後に、地価LOOKレポートとは何か? について添えておこう。

国交省が四半期ごとに公表する「地価LOOKレポート」は、公示地価・路線価・基準地価のいわゆる3大公的地価調査に次ぐ第4の指標として、他の3者にはない頻繁な更新をもって、われわれに日本の土地の価値にかかわる方向性を指し示してくれるものだ。

特徴としては、地価の動向を表す9種類の矢印や、多用される表や地図により、内容がとても把握しやすい点が挙げられる。ただし、3大公的地価調査とは異なり、土地の価格そのものが示されるわけではない。地価のトレンドを調査し、分析する内容の報告書となっている。

全国80の調査対象地区すべてにつき、不動産鑑定士による具体的なコメントが添えられている。それぞれのエリアの実情を理解するうえでよい助けとなるだろう。

留意すべき点として、地価LOOKレポートは全国の主な大都市部の地価にのみ対象を絞っている。正式名称「主要都市の高度利用地地価動向報告」が示すとおりとなる。

以上、当記事で紹介した今期分の地価LOOKレポートは、下記にてご覧いただける。

地価LOOKレポート 令和7年(2025)第3四半期分(25年7月1日~10月1日)

(文/朝倉継道)

  • Facebook
  • Twitter
  • LINE
  • Hatebu

この記事を書いた人

コミュニティみらい研究所 代表

小樽商業高校卒。国土交通省(旧運輸省)を経て、株式会社リクルート住宅情報事業部(現SUUMO)へ。在社中より執筆活動を開始。独立後、リクルート住宅総合研究所客員研究員など。2017年まで自ら宅建業も経営。戦前築のアパートの住み込み管理人の息子として育った。「賃貸住宅に暮らす人の幸せを増やすことは、国全体の幸福につながる」と信じている。令和改元を期に、憧れの街だった埼玉県川越市に転居。

ページのトップへ

ウチコミ!