建築業界がクレーム産業と呼ばれる理由
ウチコミ!タイムズ編集部
2015/03/11
皆さんが建築業界と接する機会は、それ程多くはないとおもいます。多分殆どの方が、一生に一度ぐらいでしょうか。当然、あまり詳しくない方がその殆どでしょう。これからかかわる方には、是非知っておいていただきたい内容です。
孫子の兵法にもある
「彼を知り 己を知れば 百戦あやうからず」
その為の情報だと思ってください。
まず今回は、他業界との違いと主な問題点からお話します。建築業界は、実はクレーム産業と呼ばれています。その名の通り、クレーム・トラブルが頻発している産業界です。これは、昨日今日の話ではなく ずっと以前から陰でそう呼ばれています。一番の契機になったのは、昭和40年代から昭和50年代にかけての住宅ラッシュです。
それ以前の日本は、一般の方が住宅を取得する事自体考えられない世の中でした。もちろん住宅ローン(※1)自体が存在していませんから、限られた一部の人達だけの事でした。
※1 住宅ローン
その名の通り、住宅購入や建物の新築等の際に借りるローンです。住宅ローンが生まれたのは、昭和42年です。その頃の大工さんや工務店は、本当の意味で芸術家の様な職人が多く、その世界で一人前になるのも大変な時間と修行が必要でした。
当然、クレーム産業の時代ではありません。規制の緩和や持ち家を奨励する政策転換を機に住宅ラッシュが起こり過去例にないほどの住宅需要が発生しました。もちろん既存の職人さん達では、手に負える数ではありません。更に折からの好景気の波に乗って、需要は拡大の一途でした。
当然、にわか大工や他業種からの参入も多くこの業界にはいってきました。実数の上では、参入者が元からこの業界を支えていた人達を上回ってしまいます。
更に、時代が進むにつれて組織化・法人化されて規模も拡大されていきます。大資本による合理化・技術開発・商品企画・商品開発が加速度的に進んでいきます。今でいえば、大規模商業施設と地元商店街の戦いの様でもあります。
一方、古来からの職人さんの世界では、大企業相手の商売を課され価格・性能・新技術・最新の意匠などの要求もふえつづけ、更にはスピード・価格競争 等の問題をつきつけられ、職人さんの徒弟制度まで崩壊へと進んで行きます。
ある意味当たり前の流れと思われがちですが、ちょっと待って下さい。建物を建てる、建築すると言う事はどの様なものなのか? 整理します。
■一戸建ての住宅の場合
最新のコンピューター化された生産ラインで、殆どの 材料が短時間かつ高性能で加工できる。(全てではない)
断熱材・防水シート・住宅設備などの全ての 素材・機器がメーカーや工場などで厳しい品質管理のもと、生産されている。
一見すると、どこにも問題がないようにみえますが、工場などで厳しい品質管理の上で生産されているものは、あくまでも材料・素材・機器なのです。
そして、この材料などを 確かな技術で職人さんが紡ぎあげて初めて完成した建物になる。
■携わる職人さんについて
大工さん——–木工事全般
鳶職人———基礎工事・土工事・足場工事
型枠屋———基礎工事
板金職人——-板金工事
防水職人——-防水工事
サッシ屋——-サッシ工事
水道屋———水道配管工事
電気屋———電気配線工事
屋根屋———屋根(瓦・スレート葺き)工事
設備屋———住宅設備(キッチン・洗面・UB等)工事
クロス屋——-内装クロス工事
外溝屋——–外溝(駐車場・フェンスなど)工事
※ 殆どの場合、別々の会社が請け負っています。都度人件費も発生します。
ざっと挙げて見ましたが、まだまだあります。こんな感じで別々の職人さんの手になる仕事がたくさんあります。この工程をなくして建物の完成はありません。現在のデフレ基調の経済で、一番しわ寄せを受けてるのもこの職人さんです。大なり小なり、親会社は下請けに値引きや値下げのつけを下請けに廻します。
どんなに優秀な、大きな企業でも全ての職人さんを会社でかかえる事は、不可能です。また、そのような会社も存在していません。誤解しないでください。大手や会社組織全てが悪いという話ではありません。この構造は、他業種にはあまりありません。この内容から、過度の価格低下が危険な事もおわかりいただけるのではないでしょうか。
この記事を書いた人
賃貸経営・不動産・住まいのWEBマガジン『ウチコミ!タイムズ』では住まいに関する素朴な疑問点や問題点、賃貸経営お役立ち情報や不動産市況、業界情報などを発信。さらには土地や空間にまつわるアカデミックなコンテンツも。また、エンタメ、カルチャー、グルメ、ライフスタイル情報も紹介していきます。