それでも無視できない、「民泊」ビジネスが秘める大きな可能性
尾嶋健信
2016/03/30
訪日外国人旅行者の急増で注目を集める「民泊」
訪日外国人旅行者(インバウンド、ともいいます)の急増を受け、いま「Airbnb(エアビーアンドビー)」をはじめとする「民泊」に、社会の関心が高まっているのは、これまでにもお話しした通りです。
民泊、すなわち個人の住居にゲストを有料で泊める行為は、本来、旅館業法の適用を受けることになり、営業するには都道府県知事などの許可が必要。違反すれば、6月以下の懲役または3万円以下の罰金に処せられます。
その一方で、観光立国を目指す現在の安倍政権では、大胆な規制改革を進めており、大阪府と東京都大田区を国家戦略特区に指定し、特区内での旅館業法の適用除外を認めています。具体的には、大阪府と東京都大田区では、旅館業法の適用を受けずに、民泊事業を営むことが可能になりました。ただし、宿泊期間は7日から10日までと決められていて、民泊事業を営むには一定の手数料を自治体に収める必要があります。
そして、この7日という最低宿泊日数が、民泊の今後に大きな影響を与えかねないのは前回お話ししたとおりです( http://sumai-u.com/?p=4171 )。とはいえ、リスクばかりお話ししても夢がないので、これから民泊の可能性についてお話ししたいと思います。
大阪府、東京都大田区で認められた旅館業法の適用を受けない民泊事業は、国家戦略特区のみならず、今後全国で解禁されていく可能性が高いといわれています。なぜなら、訪日外国人旅行者数は今後も順調に拡大していくと予想されるなか、国内の宿泊施設は慢性的かつ絶対的に不足しているから。
現在、外国人宿泊客数が増えている東京や大阪などの大都市圏では、ホテルなど宿泊施設の建設が進んでいますが、急増する旅行者数にとても追いつかない状態です。加えて、2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催時には、外国人旅行者がさらに爆発的に増えることが予想されます。もはや民泊を活用しない限り、多くの外国人旅行者に宿泊施設を供給するのはむずかしい状況となっているのです。
日本人ビジネスマンも民泊を利用するようになる?
現在、多くの外国人旅行者にとって、大都市圏で宿泊施設を確保するのはむずかしい状況になっています。そのため、たとえば東京都内で宿が確保できなかった外国人旅行者は、千葉・神奈川・埼玉といった近県で宿を探すしかありません。
そして、実は大都市圏で宿探しに苦労しているのは、外国人旅行者ばかりではないようです。外国人旅行者が急増したおかげで、大都市圏に出張で訪れる日本人ビジネスマンも、恒常的に宿が取りにくい状況が生まれています。
たとえば、先日大阪に3日間出張した私の知人は、3日間同じ宿を確保することができず、3カ所のホテルを1泊ずつしか予約できなかったため、毎日重い荷物を抱えて移動しなければならなかったとか。
こうした現状を鑑みれば、私は、Airbnbをはじめとする民泊がわが国に定着する可能性はきわめて大きいと考えます。というのも、日本国内でAirbnbを利用して民泊している旅行者の多くはいまのところ外国人ですが、いよいよ宿が不足してくれば、日本人ビジネスマンも遅かれ速かれ、Airbnbを利用しはじめるようになるはずだからです。
そして、ビジネスユースでAirbnbの便利さに気づいたビジネスマンは、今後は家族旅行でも、民泊をひとつの選択肢として考えるようになるはずだからです。そうなれば、日本人の間でも、民泊利用者は急激に増えていくかもしれません。
Airbnbに登録できるのは、基本的に個人のみ。そのため、Airbnbに大手不動産業者が登録してビジネスを行なうことは考えにくいのですが、大手不動産業者がAirbnbのようなマッチングサイトを独自に運営することは十分に考えられます。
実際、旅行業界や不動産業界から民泊事業への参入を表明している企業がいくつも現れています。たとえば、航空券予約サイトを運営しているskyticketは、今後Airbnbと同様のマッチングサービスを始めるとか。また、賃貸斡旋大手のアパマンショップは、先ほど紹介した国家戦略特区内で、APAMAN B&Bという7日〜30日未満の民泊サービス事業を展開していくようです。
さらには、世界最大級のオンライン旅行会社であるエクスペディアが、Airbnbと並ぶバケーションレンタル大手のHomeAwayを買収したことも明らかになりました。エクスペディアとHomeAwayのサイトが統合されれば、今後はホテルと民泊施設がまったく同列に扱われるようになるかもしれません。
ゴールデンルート周辺で民泊は定着する!?
とはいえ、民泊事業が日本全国どこででも盛んになる、ということは考えられません。なぜなら、民泊事業の基本は、訪日外国人旅行者を対象にしたビジネスだから。つまり、外国人旅行者がやってこないような地域では、民泊事業は成立しにくいのです。
現在、日本を訪れる外国人旅行者には、「ゴールデンルート」と呼ばれる、主要な観光ルートが存在します。一般的な例でいえば、羽田空港か成田空港から来日し、東京周辺の東京ディズニーランド、浅草、東京スカイツリー、秋葉原、上野公園の動物園と桜、原宿、新宿、渋谷交差点などを観光して、箱根か富士山を経由して名古屋、京都、大阪を観光し、関西国際空港から帰国する、というもの。
また、「ドラゴンルート」と呼ばれるルートもあります。これは、伊勢神宮や熊野古道から出発し、飛騨高山や白川郷を経て、金沢に至るルート。道順をたどると龍の姿になるため縁起がいいとされ、「昇龍道」の別名で、特に中国人旅行者に人気があります。
いずれにしても、訪日外国人旅行者が宿を取るとすれば、これらゴールデンルート周辺か、ドラゴンルート周辺に限られることになります。つまり、これらの地域であれば、近い将来、民泊事業が解禁になったとき、ビジネスとして成立しやすいことになります。
逆にいえば、これらの地域において、今後「民泊」という宿泊スタイルが定着していくことも予想されます。
前回、この民泊事業を不動産投資とからめて紹介しましたが、その視点は今後も持ち続ける必要があります。個人が用意した不動産をAirbnbなどに登録して民泊事業に活用すれば、従来の賃貸経営を上回る利益を上げられるからです。
ただし、その場合も、あくまでその不動産物件が、上記のルート周辺に存在することが必要条件になりますが。
ちなみにいま、外国人旅行者向けの不動産投資先として、意外に狙い目なのが沖縄です。というのも、日本政府は中国人富裕層向けに、「沖縄・東北3県観光数次査証」を発行しているからです。
この査証(ビザ)は、「沖縄・岩手・宮城・福島のいずれかに1泊以上すれば、3年間何度でも来日することが可能」になるもの。沖縄振興と震災復興を目的とした日本政府の措置ですが、このビザを利用する中国人の多くはいま、沖縄観光に訪れているのです。そのため、観光シーズン以外閉鎖されていた海辺のペンションなども、外国人旅行者向け宿泊所として稼働しており、民泊ビジネスへと大きく発展しそうな気配を見せているのです。
このように大きな可能性を秘めている民泊ですが、現在のところ、国家戦略特区を除いては「グレー」なことに変わりはなく、実際に旅館業法違反で摘発されたケースもゼロではありません。そして、ホテル業界などにとって民泊の規制緩和は歓迎できるものではないはずです。それらのことを念頭において、行政の動きを注視していきましょう。
この記事を書いた人
満室経営株式会社 代表取締役
1970年、神奈川県逗子市生まれ。青山学院大学経営学部卒業。 大学卒業後、カメラマン修行を経て、実家の写真館を継ぐ。その後、不動産管理会社に勤務。試行錯誤の末、独自の空室対策のノウハウを確立する。 2014年時点で、500人以上の大家さんと4000戸以上の空室を埋めた実績を持つ。著書に「満室革命プログラム」(ソフトバンククリエイティブ)、「満室スターNO1養成講座」(税務経理協会)がある。 現在、「月刊満室経営新聞(一般社団法人 日本賃貸経営業協会)、「賃貸ライフ(株式会社 ビジネスプレス出版社)」にコラム連載中。 大前研一BTT大学不動産投資講座講師。