「最低宿泊日数7日」という規制がAirbnbをダメにする!?
尾嶋健信
2016/03/23
不動産投資は「キャピタルゲイン」か「インカムゲイン」
「部屋を貸したい個人」と「部屋を借りたい旅行者」のマッチングサイトである「Airbnb(エアビーアンドビー)」は、民泊の象徴的な存在として、いま注目を集めています。
このAirbnb、実は個人の不動産投資家の間でも脚光を浴びています。なぜならAirbnbは、個人投資家に新たなビジネスモデルを提供してくれる可能性があるから。
これまで、個人の不動産投資家が利益を上げる方法にはふたつしかありませんでした。すなわち、取得した不動産物件を高値で売却して利益を上げるか、取得した不動産物件を第三者に賃貸して利益を上げるか。前者の利益を「キャピタルゲイン」、後者を「インカムゲイン」といいます。
わが国における個人の不動産投資では、後者のインカムゲインが主流です。だからこそ、空室になった賃貸物件をいかに埋めるか考える、私の「空室対策コンサルタント」という仕事も成り立っているのですが…。
ともあれ、個人で不動産投資する場合は、転売するにせよ、賃貸経営するにせよ、最初に不動産物件を購入する必要がありました。ところが、Airbnbにように「1泊○万円で部屋を貸す」ことが個人のビジネスとして成立するなら、話は違ってきます。通常の賃貸経営に比べて、Airbnbは高い利回りが期待できます。そのため、賃貸物件を自分で借りてAirbnbを運営することで、十分に利益が上がる可能性があるのです。
たとえば、月15万円の賃貸マンションを1泊1万円で民泊利用させたらどうでしょうか。月の稼働25日間として25万円−15万円=10万円の利益が出るのです。
Airbnbを使えば、個人で「サブリース」が可能に
こうした利益の上げ方を「サブリース」といいます。従来であれば、D建託やSコーポレーションなど、大手マンション経営会社にしか許されていなかった手法。すなわち、ある不動産物件を○万円でオーナーから借り上げ、それを○万円+□万円で第三者に貸すという手法です。
こうした手法はこれまで、マンションを1棟丸ごと建設して行なわれていたため、建設費用や施工管理の面で、一般の人には手の出せない分野でした。また、オーナーの物件を第三者に貸し出すためには、仲介業者として、宅地建物取引業者の免許も必要になります。
しかし、Airbnbであれば、大きな資本も特別な免許も必要ありません。民泊は、宅地建物取引業法(宅建業法)の規制を受けませんから、特に免許がなくても、旅行者を自由な価格で宿泊させることが可能。しかも、旅行者を宿泊させる物件は自己所有でなくてもOK。さらに、面倒な集客はAirbnbというサイトが代行してくれるのです。
すると、新たな不動産投資のカタチが見えてきます。たとえば、個人投資家Aさんが、観光地にある月15万円の賃貸マンションを3室月極で借りて、その物件を1泊1万円でAirbnbに登録するという方法です。この場合、1室が月10万円の利益を生むとすれば、3室月45万円の投資で、月75万円の売上げと、月30万円の利益を生む計算に。
これは、1億円で購入したマンションを賃貸経営した場合の利益をおそらく上回ります。つまり、Airbnbを活用したサブリースという手法は、少ない元手で大きな利益を生む可能性があるのです。
この場合、問題点がひとつ。それは、民法612条の規定で、賃貸物件を転貸する場合は所有者の承諾が必要になること。上記の例でいえば、個人投資家Aさんが賃貸マンションでAirbnbのサブリース業を行なう場合、それぞれのマンションオーナーから転貸許可を得ておく必要があるのです。
Airbnb可能物件も増えている
とはいえ、訪日外国人旅行者数が爆発的に増えているいま、時代の流れは「民泊容認」の方向へと大きく傾きつつあります。事実、大阪府や東京都大田区では、旅館業法の特例として、外国人旅行者向けの民泊を認める条例が可決され、現安倍政権も国家戦略特区として外国人向け民泊を認めています。大阪府や大田区では、認定を受ければ外国人向けの民泊が、堂々と営業できるようになっています。
こうした動きを受け、大阪府や大田区以外でも、賃貸マンションやアパートで「Airbnb可能物件」が増えてきました。つまり、オーナーが転貸をあらかじめ認めている賃貸物件が増えてきたのです。オーナー側からすれば、たとえ転貸されるとわかっていても、いつまでも空室を抱えているよりはマシだと考え始めたようです。
しかし、喜んでばかりはいられません。大阪府や大田区でも設備などに一定の縛りがあるほか、最も大きな縛りとして「最低宿泊日数を7日以上とする」ことが決められています。この宿泊日数の縛りは大きく、宿泊日数が7日間以上ないと貸せないとなると、外国人旅行者などにそうした需要がどこまであるのかは不透明です。
現在のところ、Airbnb条例や国家戦略特別区域法には罰則がありません。しかし、宿泊業との絡みもあり、どこまで規制が緩和されるのか、逆に規制が強化されてビジネスとしての魅力がなくなってしまうのか、それとも現在のグレーさがそのまま残ってしまうのか…。そのあたりは不透明さが残ります。やはり今後の行政の動きを注視していかなければなりません。
果たして、こうした民泊事業は、わが国の不動産業界において、今後定着していくのでしょうか。次回はそのあたりについてお話ししたいと思っています。
この記事を書いた人
満室経営株式会社 代表取締役
1970年、神奈川県逗子市生まれ。青山学院大学経営学部卒業。 大学卒業後、カメラマン修行を経て、実家の写真館を継ぐ。その後、不動産管理会社に勤務。試行錯誤の末、独自の空室対策のノウハウを確立する。 2014年時点で、500人以上の大家さんと4000戸以上の空室を埋めた実績を持つ。著書に「満室革命プログラム」(ソフトバンククリエイティブ)、「満室スターNO1養成講座」(税務経理協会)がある。 現在、「月刊満室経営新聞(一般社団法人 日本賃貸経営業協会)、「賃貸ライフ(株式会社 ビジネスプレス出版社)」にコラム連載中。 大前研一BTT大学不動産投資講座講師。