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私はこうして賃貸経営のノウハウを学んだ

家賃を滞納する住人の部屋に不法侵入した父の思い出

尾嶋健信尾嶋健信

2015/12/15

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実家はアパートを経営するプチ大家

 私が不動産の世界で働きはじめたきっかけは、実は私の実家の生業と関係があります。私の実家は、祖父の代から続く町の写真館ですが、いくつかのアパートを経営するプチ大家でもありました。

 3歳頃の古い記憶があります。ある日の夕方、父は幼い私を連れて、ウチが経営するアパートの一室を訪れました。父に後から聞いた話によると、その一室の住人は家賃を何ヵ月も滞納しており、その督促をするために抜き打ちで訪問したのだとか。しかし住人は不在で、呼び鈴を鳴らしても誰も出てきません。

 すると父は、思わぬ行動に出ました。マスターキーを使って玄関ドアを開け、私の手を引いて部屋に勝手に上がり込んだのです。いまそんなことをしたら住居侵入罪で逮捕されますが(当時も犯罪であることに変わりありませんが)、何事にもおおらかな時代だったのでしょう。

 電気を点けない真っ暗な部屋で、父と私は何時間も座っていました。その部屋の住人が帰ってくるのを待ち続けたのです。やがて帰宅した住人が部屋の明かりを点けると、そこには私たち父子が……。住人はさぞビックリしたことでしょう。間髪を入れず、父は家賃の支払いを要求。近日中に支払うことを約束させました。

 ちなみに、父がなぜ家賃の督促に幼い息子を連れていったかというと、「家賃を滞納している住人でも、小さい子どもの前でした約束は絶対に破れないはずだ」と考えたからだそうです。

不動産管理会社への転職を決意

 それから月日が流れ、私は大学を出てプロのカメラマンになりました。自分は長男なので、将来的には実家の写真館を継ぐつもりでしたが、当面は好きなことをして食っていこうと考えていたのです。

 ところが、私が26歳のとき、父が急病で他界。いきなり私が実家の写真館をまかされることに。と同時に、持ちアパートについても、私が大家としてマネジメントしなければならなくなりました。

 写真館でどんなことをするかは子どもの頃から見て知っているし、証明写真や家族写真の撮影、現像や紙焼きといった暗室業務もカメラマンである私には手慣れた仕事。ですから、写真館の経営には何の不安もありませんでした。問題は、私が不動産業に対してまったくの素人だということ。アパート経営についても、何もわかりません。しかも、私が継いだ当時は写真館もアパートも経営が悪化しており、私が外に働きに出なければ家族を養えない状態でした。

 そこで私は、写真館での接客を母親にまかせ、アパート経営の勉強も兼ねて、不動産管理会社へ転職しようと考えました。

 とはいえ、不動産管理会社ならどこでも良かったわけではありません。私には、私が考える“理想的な”不動産管理会社の条件が3つありました。それは、(1)その当時で10年以上の歴史があり、バブル景気とバブル崩壊を経験している会社であること。(2)社員数が10人以下の会社であること。(3)会社を興した1代目社長がまだ現役の会社であること。もちろん、この3つの条件を課したのにはそれぞれ理由があります。

 まず、(1)について。バブル崩壊後もその会社が倒産せずに業務を続けられたということは、それだけしっかりとした不動産管理のノウハウを持っている証になります。

(2)の社員10人以下という条件は、それだけ、ひとりの社員がこなすべき仕事の範囲が広いということ。不動産管理の仕事全般を経験したい私には、社員数の少ない会社のほうが都合が良かったのです。

(3)のような会社の社長は当然ワンマンであり、いまどきの若者はそんな社長についていけないはずで、きっと社員の入れ替わりも激しいだろうと考えました。入れ替わりが激しければ、中途入社の私にも昇進のチャンスが巡ってきます。もし、短期間のうちに役職に就くことができれば、それだけ不動産管理の仕事を広く深く知ることができると考えました。

転職先では空室対策を考えるのが仕事に

 こうして私は、神奈川県の大都市にある小さな不動産管理会社に転職しました。管理しているアパートの戸数は600戸ほどで、顧客の99%はその地域の地主さんです。アパートのオーナーが地主さんの場合、もともと持っている土地にアパートを建てただけですから、空室が出てもそれほど気にしません。そもそも、地主さんはお金に困っていない人が多いのです。

 とはいえ、不動産管理会社側からすれば、空室が出るとその分受け取れる管理費が少なくなります。そこでワンマン社長は、社員の尻を叩いて、必死に空室を埋めさせようとします。もちろん私も社長に尻を叩かれたクチで、試行錯誤しながら空室対策に取り組みました。

 いま私は、空室対策コンサルタントして2500戸以上の物件を管理していますが、そのノウハウはこの不動産管理会社時代から積み上げていったものなのです。

 私自身が身につけた空室を埋めるノウハウについては、今後の連載で少しずつ語っていきたいと思います。

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この記事を書いた人

満室経営株式会社 代表取締役

1970年、神奈川県逗子市生まれ。青山学院大学経営学部卒業。 大学卒業後、カメラマン修行を経て、実家の写真館を継ぐ。その後、不動産管理会社に勤務。試行錯誤の末、独自の空室対策のノウハウを確立する。 2014年時点で、500人以上の大家さんと4000戸以上の空室を埋めた実績を持つ。著書に「満室革命プログラム」(ソフトバンククリエイティブ)、「満室スターNO1養成講座」(税務経理協会)がある。 現在、「月刊満室経営新聞(一般社団法人 日本賃貸経営業協会)、「賃貸ライフ(株式会社 ビジネスプレス出版社)」にコラム連載中。 大前研一BTT大学不動産投資講座講師。

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