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「窓を開けたら墓地だった」——家賃が安すぎる賃貸物件

田中 あさみ田中 あさみ

2021/12/30

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イメージ/©️bee32・123RF

家賃が安すぎる賃貸物件は危ない?

賃貸物件探しにおいて、家賃が安すぎる場合「何かあるのでは」「もしかして事故物件?」と不安を抱いてしまう人は多いでしょう。

毎月支払う家賃が安いことは魅力的ですが、明らかに相場よりも安すぎるケースでは“ワケあり”もしくは“問題点がある”物件が多いです。残念ながら「違法貸しルーム(脱法ハウス)」のように、違法であることを知りながら貸し出している賃貸住宅オーナーも存在します。

また、法的には問題がなくても2021年12月に大阪で起こった雑居ビル火災事件のように、現行の法律の基準を満たしていないことから大きな災害に発展してしまう可能性もあります。

本記事では、家賃が安すぎる賃貸物件のパターンと問題点について解説していきます。

【おとり物件】
おとり物件とは、「存在しない」もしくは「存在するが成約済で契約できない」物件を指します。

例えば、実際には入居者がいるワンルーム8万円の物件を5万円程度に偽り募集を出したり、集客力のある成約済物件の掲載をわざと取り下げないなどの事例があります。しかし、悪意を持って行われるものばかりでなく、ただ成約後、取り下げを忘れているなど、不動産会社の不注意から生まれてしまうことも多くあるようです。

物件探しのポータルサイトや不動産会社の近くにある看板などに「おとり物件」は存在します。21年に公益社団法人首都圏不動産公正取引協議会が公表した「インターネット賃貸広告の一斉調査報告」によると、20年11~12月の調査対象335物件のうち41物件(12.2%)が「おとり広告」と認められたそうです。

【事故物件】
過去に事件や自殺があり心理的に避けられやすい「事故物件」は、相場より低い家賃で募集されていることが多いです。

実は一口に「事故物件」と言っても、建築基準法・消防法違反などの法的瑕疵物件や土壌汚染や地盤沈下といった物理的瑕疵物件なども含まれますが、今回は多くの方に「事故物件」と認識される心理的瑕疵物件(事故死・自殺・他殺などがあった住宅)についてまとめていきます。 

事故物件の取り扱いはこれまで業界の慣習によって行われてきましたが、国土交通省では21年10月に初めて「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」を策定しました。

ガイドラインでは、宅地建物取引業者は取り引きの対象不動産において過去に人の死が生じた場合、告知書に記載することで義務を果たすとされています。

日常生活のなかでの不慮の死(転倒事故、老衰、持病による病死など)や、共用部分で発生した自然死については「告げなくてもよい」と記載されています。ただし過去に人が亡くなり、長期間に渡って放置されたことに伴い、特殊清掃・大規模リフォームが行われた場合には告知義務があります。

賃貸の場合3年以内のケースでは告知しなくてはいけませんが、社会的な影響が大きい事案に関しては、3年経過しても告知義務があります。

不動産会社のなかには事故物件のみを取り扱う企業もあり、購入・賃貸物件を検索できます。都内でもワンルーム3万円台の物件情報もあり、驚きの安さと言えるでしょう。

【違法貸しルーム(脱法ハウス)】
以前は脱法ハウスと呼ばれていた「違法貸しルーム」とは、オフィスや倉庫として届出されているものの、シェアハウスやドミトリーとして多数の人が居住や寝泊まりをしている施設のことで、部屋の仕切りが燃えやすい材料でできている、窓が無いなど建築基準法違反の疑いがある建物です。法律上の安全基準を満たしていないため、建築基準法に違反している場合が多く問題視されています。

出典/国土交通省「多人数の居住実態がありながら防火関係規定などの建築基準法違反の疑いのある建築物(違法貸しルーム)に関する情報を提供いただく際の情報提供様式について」

建築基準法・消防法などでは、部屋に採光や換気のための窓を設ける、避難経路の確保などの安全・防火上の基準が定められていますが、違法貸しルームのオーナーは、違反していることを知りながら安価で部屋を貸していることが多いようです。

初期費用ゼロ、保証人不要などのうたい文句で1~1.5畳程度のスペースに、2~3万円で賃貸する事例が多く、低所得者層や事情がある方の受け皿となっています。しかし、居住環境が極めて悪く、火災時に逃げ遅れるなどリスクが高いことは言うまでもありません。

【嫌悪施設】
「窓を開けたら墓地だった」
「駅までの道のりに風俗店が立ち並ぶ」

など、多くの人にとって気持ちのよくない建物や危険を感じられる施設などは「嫌悪施設」と言われているが、こういった施設が近くにある物件も賃料が安いケースが多いようです。

筆者である私も、「引っ越しして間もなく近くに斎場ができた」という実体験をしたことがあります。特に気になる人は、賃貸物件を借りる際、不動産会社に聞くことや周辺の聞き込みは必要かもしれません。

「『嫌悪施設』の範囲はどこまで?」と疑問を感じる方もいらっしゃることでしょう。公益財団法人不動産流通推進センターのホームページでは以下の例が掲載されています。

出典/公益財団法人不動産流通推進センター「不動産相談」

【現行の耐震・防火基準を満たしていない】
21年12月17日に大阪市の雑居ビルで起きたクリニック火災事件では、多くの尊い命が犠牲となりました。

火災現場となったクリニックには、エレベーターと非常階段が共に出入り口付近にあったため院内にいた方々は逃げることができなかったと言われています。しかし、事件前の19年3月19日、大阪市消防局はビルに立ち入り検査を実施し、消防法に基づく定期検査で「問題ない」と判断していたそうです。

現在の建築基準法では、6階以上のビルでは地上につながる階段を2つ以上設置する事が義務付けられていますが、事件があったビルは1970年に建築されたため対象外となっており、スプリンクラーの設置義務も対象外でした。

全国には今回のビルのように、建築時には基準を満たしていたものの、法改正により不可抗力で法律の規定から外れてしまった「既存不適格」とよばれる建築物は多数存在し、問題視されています。 

ほかには、防火上の問題だけではなく、1981年5月31日以前に建築された旧耐震基準の建物などは、阪神・淡路大震災の際に被害が集中したと言われています。

オーナーも入居希望者も知っておきたいこと

お話ししてきた通り、賃貸物件で家賃が安すぎる場合は「法律の基準を満たしていない」「実は存在しないおとり物件」などの可能性があります。 

しかし、おとり物件や事故物件、違法貸しルーム、既存不適格建築物などについて知ることで、「こんなはずでは」「だまされた」という事態に陥る可能性は低くなります。賃貸物件を借りる場合、家賃が安すぎる物件の内情や問題点を確認することも重要なのではないでしょうか。

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この記事を書いた人

2級FP技能士・ライター

北海道在住。大学在学中に2級FP技能士を取得。 会社員を経てFP資格を活かし、ライターとして不動産・金融・相続・法律分野の記事を多数執筆する。「難しいことを分かりやすく」をモットーにライターとして活動中。

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