都内の単身物件の需要が低迷 2021年コロナ禍の賃貸事情とは
田中 あさみ
2021/11/29
イメージ/©️madhourse・123RF
新型コロナ感染症の影響で、都内の一部の単身用賃貸物件では客付けが難しくなっており、なかには「4カ月分の広告費を払わなければいけない」という物件も存在するといいます。
一方で首都圏の新築分譲マンションの平均価格は、上半期で過去最高額を記録しました。東京のマンション業界でいったい何が起きているのでしょうか? 「需要が高い」と言われる都内の単身向け物件で、空室が増加しているのは何故でしょうか?
本記事では、都内の単身向け賃貸物件と新築分譲マンションの現状、需要が低迷した原因と対策をお伝えしていきます。
都内の単身向け賃貸物件、コロナ禍で客付けに苦戦
2021年11月8日付の全国賃貸住宅新聞の記事によると、港区・中央区・渋谷区などの都内の単身向け賃貸住宅の客付けが難しい状況で、不動産会社のスタッフは「広告費を上げなければいけない状況。なかには広告費が家賃4カ月分の案件も……」と語ります。
記事内で特に客付けが難しいと言われている物件は以下の通りです。
・20㎡程度で家賃10万円前後
・家賃12万円台の1K
・築10年以内の賃貸マンション
不動産ポータルサイトで上記の物件を検索すると、以下の共通点が浮かび上がりました。
・築浅(築3~10年程度)
・10階建前後のマンション
・駅から近く徒歩10分以内の物件が多い
上記の条件は単身向けマンションとしては人気があり、「需要が高いのでは」と感じる賃貸住宅オーナーも多いのではないでしょうか。
ただし都内5区(港区・中央区・千代田区・新宿区・渋谷区)では募集戸数が増加する一方で、募集坪平均単価が前年に比べ3~7%程度下落している現状があります。
新築分譲マンションの平均価格は過去最高額を記録
賃貸物件の客付けが難しくなる一方で、不動産経済研究所の発表では21年の上半期(4~9月)、都内の新築分譲マンションの平均価格は6702万円と上半期としては過去最高額を記録しています。
賃貸物件が低調のなか、なぜ分譲マンションの価格が上がったのでしょうか?
実は都内の分譲マンションは、20年1月の時点で平均価格8386万円と高値を記録しており、その後は5~6000万円台であったものの、21年4月にも7764万円と再び急上昇しました。
21年4月には首都圏の供給戸数が前年同月比で204.5%上昇、20階以上の超高層物件が前年同月に比べ182.1%も供給が増加しています。
マンション、特に超高層物件の供給が大幅に増え、都内の新築分譲マンションの平均価格は飛躍的に上昇したのです。
21年上半期の首都圏新築分譲マンションの平均専有面積は、65.65㎡となっており、コロナ禍のテレワークの影響などで面積が広いマンションの需要が高まっている事が分かります。
背景として、夫婦で高収入の「パワーカップル」世帯は新築分譲マンションを購入、単身者は家賃が低いマンションに引っ越しという、世帯間の経済格差が生じているという事情が推測されます。
都内の単身向け賃貸物件、客付けが難しい要因とは?
賃貸物件の客付けが難しい現状の要因として以下の2つが挙げられます。
1.周辺の物件に比べもともと割高である
2.コロナ禍で経済的な影響を受けた人の引っ越し
1.周辺の物件に比べもともと割高である
総務省統計局で公表されている18年に行われた「住宅・土地統計調査」の結果によると、東京都の民間の借家(非木造)の平均家賃は9万1577円となっています。木造借家の平均家賃は6万9621円ですので、2万円以上の差があることが分かります。
なお同調査で東京都の民営借家の1住宅辺りの平均敷地面積は59.57㎡で、現在需要が落ち込む20㎡の住宅より広くなっています。
まず10万円以上の家賃相場は、東京都内での非木造住宅の平均家賃9万1577円より割高という現状があり、平均敷地面積より狭い間取りが多いため避けられているという実状があります。
コロナ禍で経済的に打撃を受けた方は、木造など家賃が安い物件に引っ越し、10万円台の賃貸物件は需要が落ち込んでいると推測されます。
2.コロナ禍で経済的な影響を受けた人の引っ越し
財務省が20年8月に発表した「新型コロナウイルス感染症による企業活動への影響とその対応」では、外出⾃粛により⾃動⾞やサービス業(宿泊・飲⾷、運輸等)、百貨店等で90%前後の企業の売上が減少しました。影響があった企業では正社員のボーナス減少・非正規職員の人員削減が増えています。
そして、サービス業に従事する人の割合が多い女性の自殺者数が増加しています。
新型コロナで経済的な影響を受けている方は「女性・非正規・学生などが多い」という結論になります。
例えば、「都内の大学生が経済的に困窮し大学を休学または退学し、地元に帰った」「非正規社員として働いていた方が解雇され、家賃の安い物件に引っ越した」などの事例が存在します。
コロナ禍でも賃貸需要を高めるための空室対策とは
上記のような、家賃10万円以上の単身向け賃貸物件を運営しているオーナーは多いのではないでしょうか。コロナ禍をきっかけに人気の出た設備の導入や、部屋を広く見せるプチリフォームなどで需要を高めていくことが必要かもしれません。
1.人気設備を設置する
人気設備を導入することで、物件の賃貸需要や家賃が上がるケースがあります。全国賃貸住宅新聞が21年10月に発表した「新型コロナウイルスの影響でニーズが増えた設備」は以下の通りとなっています。
1位 インターネット無料
2位 高速インターネット
3位 宅配ボックス
4位 テレビモニター付きインターホン
5位 遮音性の高い窓
6位 BS・CSアンテナ
7位 浴室換気乾燥機
8位 エントランスのオートロック
9位 防犯カメラ
9位 24時間利用可能ごみ置き場
インターネット無料は新型コロナ感染拡大前から6年連続で1位を獲得しているうえに、オーナー側にとっては一度導入することで、手間がかからない設備となっていますので積極的な検討をおすすめします。
「高速インターネット」や「遮音性の高い窓」は、新型コロナの影響で家にいる時間が増え、住環境の快適さを求める人が増えた結果となっています。
また宅配サービスを利用する人が増えたことから「宅配ボックス」「テレビモニター付きインターホン」の需要も高まっています。
2.部屋を広く見せるプチリフォーム
上記のように「部屋の快適さ」を求める人が増え、戸建てなど広めの住宅の人気が高まっています。
単身向けの1Kや20㎡程度の部屋でも、ちょっとした工夫で部屋を広く見せることが可能です。
賃貸物件の壁紙は白が多いですが、白は膨張色のため部屋が広く見えます。壁紙が黄ばんでいる、壁紙が白色ではない部屋は、クロスや壁紙を張替え広く見せるような工夫を行ってみてはいかがでしょうか。
また、コストが数十万円かかりますが、窓の拡張工事を行うことで、部屋が明るく広く見えるという効果も期待できます。
「広告費に費用をかけるより物件の価値を高めたい」「長期的にニーズを上げたい」というオーナーは、人気設備の設置やプチリフォームを検討してみましょう。
都内の賃貸需要は長期的にみると高い
テレワークの普及により、都内からの人口転出が続いていると言われていますが、21年4月には、就職・入学などの影響で東京都の転入者数は転出者数を2348人上回る結果となりました。
また、東京都政策企画局が発表した全国と東京の人口推計は以下の通りになっています。
出典/東京都政策企画局東京都「『東京と地方が共に栄える、真の地方創生』の実現を目指して~東京都総合戦略~」(2015 年)
全国的に人口減少が続くなか、東京都は25年にピークを迎える予定で、その後はなだらかに減少する予測です。
都内の単身向け賃貸物件の需要は一時的に落ち込んでいますが、単身世帯は増加中で、企業の本社や学校が東京に集中していることから人口増加が見込まれ「長期的に見ると需要は高い」と言われています。
これらのことから都内に賃貸物件を所有するオーナーは、できる範囲の空室対策を行い、コロナ禍に負けない賃貸経営を続けていくことが必要なのではないのでしょうか。
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この記事を書いた人
2級FP技能士・ライター
北海道在住。大学在学中に2級FP技能士を取得。 会社員を経てFP資格を活かし、ライターとして不動産・金融・相続・法律分野の記事を多数執筆する。「難しいことを分かりやすく」をモットーにライターとして活動中。