賃貸経営・不動産投資、困ったときのフクマルさん ♯3 〜増える高齢者と賃貸住宅〜
福丸 利津子(Ritsuko Fukumaru)
2021/07/27
イメージ/©︎twinsterphoto・123RF
不動産と建築の業界に携わって今年で33年目。「住まいは女性が一番知っている」「女性の大家さんには堂々と賃貸経営に携わってもらいたい」「安心安全な不動産取引をしてもらいたい」、このような思いから、女性大家の会「白ゆり大家の会」を2016年に立ち上げました。
不動産業界で生き残れるかどうかは、知識があるかないかで変わる、と私は思っています。私の経験談、そして、昨年の民法改正などについて、私独自の見解も交えながら6回にわたってお届けさせていただきます。
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高齢者の入居はお断り!? その理由は…
これから加速する少子高齢化現象のなかで、 2030年には、高齢者の4割が一人暮らしになると言われています。高齢者に対して賃貸住宅を所有している大家さんは、どのように対応していけばいいのでしょうか。
近年、高齢者の単身世帯が増加しているなか、賃貸住宅などにおいては、相続人の有無や所在が明らかではない単身者が、死亡した際の賃貸借契約の解除、また、居室内に残された動産(残置物)の処理への不安感から、高齢者の入居の申し込みを大家さんは拒絶している、という問題が多発しています。
入居者が天涯孤独の身の上であるような場合でも、法律上は、大家さんが勝手に残置物を処分することはできないのです。万が一、相続人がいない入居者が死亡した場合、相続財産管理人と呼ばれる人が裁判所によって選任され、その管理人が残置物を管理することになります。そうなると、処理にものすごく時間がかかるのです。
このように、身内がいない、相続人がいない、また、いたとしてもその人の所在が明らかではない場合などもあります。入居中の単身高齢者が死亡した場合、室内の孤独死だけでなく病院での死亡でも賃貸借契約は相続されるので、それ以上の債務が発生しないように速やかに賃貸借関係を処理していく必要があり、その賃貸借契約の解除や、また、居室内に残された残置物の処理への不安感から入居の拒絶となってしまうのです。しかし、人口減少で高齢者社会となったいま、空室対策には契約条件の緩和も必要になっています。
また、自分も高齢者でリスクが分かっているから対処できる、と積極的に引き受けている大家さんが私のコミュニティに参加してくださっています。対処法さえ知っていれば、リスクは軽減できるのです。
高齢者を受け入れるための対処方法
その対処方法として、国土交通省から21年6月7日に、賃貸借契約の解除及び残置物の処理を内容とした、死後事務委任契約等に係る「残置物の処理等に関するモデル契約条項」が策定されました。
単身高齢者の居住安定確保を図るため、単身の高齢者が死亡した際に契約関係及び残置物を円滑に処理できるように、賃借人と受任者との間で締結するというもので、入居中の単身高齢者が万が一死亡した場合、残置物の廃棄や指定先への送付などの事務を第三者の受任者に委託するという内容です。
これは、単身高齢者が契約前に「廃棄しない残置物」を、相続人などに渡す家財類を指定するとともに、その送付先を明らかにして、受任者は入居者の死亡から一定期間が経過し、かつ、賃貸借契約が終了した後に、「廃棄しない残置物」以外のものを廃棄します。ただし、換価しお金に変えられることができる残置物については、換価するように努める必要があります。そして残置物の処理に関しては、死後事務委任契約を締結しておくことが有効になる、という条項を組み入れたのが今回の契約書案です。
その内容をもう少し詳しく説明します。
①賃貸借契約の解除として、賃借人の死亡時に賃貸人との合意によって賃貸借契約を解除する代理権を第三者の受任者に与えます。そうすることで契約は解除でき、それ以上の債務が発生しないよう速やかに賃貸借関係を処理できます。
②入居中の単身高齢者が万が一死亡した場合、残置物の廃棄や指定先への送付などの事務作業も、第三者の受任者と事務委任契約を締結しておくことが有効である。
そこで、気になることがあります。それは、国が出している案に対して“有効になる”という言葉が出ているように“無効もある”ということです。
例えば個人の保証人がいる場合、保証人に残置物の処理を依頼することもできるため、残置物リスクに対する不安感は生じにくいという考えなのでしょう。そのため、民法第90条(『公序良俗』公の秩序又は善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為は無効とする)や、消費者契約法第10条(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)に違反して無効となる可能性が出て、最終的には個別の事案における具体的な事情を踏まえ裁判所で判断されるため、注意が必要とされています。これは、保証人が相続拒否などをした場合や、連絡がつかないなどが考えられます。
保証人がいる場合は、保証人にもその旨の書面対策が必要になります。そしてまずは、賃借人及び受任者がその内容を十分に理解したうえで、任意に同意していること、これが一番必要です。ただし、この受任者は大家さんではできないのです。
受任者の選定
先ほどの民法第90条や消費者契約法第10条に抵触するため、受任者はまずは推定相続人とし、推定相続人の所在が明らかでないなどの場合は、居住支援法人などの第三者を受任者とするのが望ましいです。
また、大家さんから委託を受けている管理会社が受任者となることについても、後々問題が発生することもあると思いますので避けた方がいいですね。第三者の受任者には、居住支援法人などとするほうがいいのですが、入居者にとって費用負担がかかるかもしれないし、本当に利用するか不明です。大家さんは、この加入を条件で賃貸借契約を締結する、ということが必要だと思います。
居住支援法人とは、要配慮者の民間賃貸住宅等への入居を円滑化する活動を行う団体で、国土交通省のホームページでは21年4月28日時点で、398法人が登録、活動しているようです。
またリスクの軽減・回避の対処として、孤独死保険があります。基本的に原状回復費用や特殊清掃費用、消毒費用などもカバーされるので、加入していただくことを条件にすることも必要です。
現在、すでに皆さんの所有物件で高齢者がお住まいの場合、今契約している契約内容を見直ししてみることも重要です。でも、どうやって契約の見直しをすればいいのでしょうか……。
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この記事を書いた人
株式会社アトリエハウス 代表取締役・「白ゆり大家の会」主宰
保育士、製菓会社、建売会社のCADオペレーター・現場審査立会い業務を経て賃貸仲介会社へ転職。その後、地元老舗不動産会社から事業拡大のためヘッドハンティングされ、宅地開発、建売事業を行いながら賃貸管理会社・建設会社を設立。全営業責任者となり、建築営業において全国NO.1の営業表彰を受ける。2014年、アトリエハウスを設立し独立。不動産コンサルタント・講師業として活躍。不動産会社、建築会社や賃貸住宅オーナー向けに講習会も行う不動産のエキスパート。 資格:ファイナンシャル・プラニング技能士2級、宅地建物取引士、2級建築施工管理技士、賃貸不動産管理士、住宅ローンアドバイザー、不動産キャリアパーソン、損害保険代理店資格、占術鑑定士(四柱推命・気学<九星・方位・家相学>)、保育士・幼稚園2級教諭。