物件・部屋の取り合い、縄張り争い…「仁義なき戦い」はもう古い 賃貸住宅オーナーと不動産会社の新たな関係性
ウチコミ!タイムズ編集部
2021/05/12
写真/左 廣⽥ 裕司さん・右 渡邊 浩滋さん 取材/尾崎 光 写真・⽂/編集部
賃貸住宅オーナーと不動産会社の関係ーーそれは永遠のテーマである。何を重要視したらいいのか、何を気をつけるべきか。オーナーで不動産会社での経験や知識も持つ廣⽥裕司さんと、同じくオーナーで、オーナー専門の税理⼠・司法書⼠として活躍している渡邊浩滋さんに話を聞いた。
取った、取られた…不動産会社の対⽴はオーナーを苦しめる
——お⼆⼈の思う不動産会社の在り⽅、役割、これからのイメージを教えていただけますか。
渡邊:昔はしがらみなどが多かったのかなと思っています。縄張り争いみたいな……。「この物件はウチが管理しているんだからウチだけで募集します。もちろん⼿数料は両⼿でもらいます」など当たり前にありました。でもいまはそれをやっていると、⼊居付けがなかなかできないなど不動産会社⾃体困ることも増えてきたんですよね。これからは、オーナーや⼊居者さん⽬線だったり、透明性のある流れが必要だと思います。
渡邊 浩滋(わたなべ こうじ)/渡邊浩滋総合事務所 税理⼠・司法書⼠
⼤学在学中に司法書⼠試験に合格。⼤学卒業後総合商社に⼊社。法務部にて契約管理、担保管理、債権回収などを担当。商社を退職後、税理⼠試験に合格。その頃、実家のアパート経営(5棟、全86 室)が危機的状況であることが発覚。経営を⽴て直すために⾃ら経営を引き継ぎ、危機的状況から脱出する。資産税専⾨の税理⼠法⼈に勤務した後、2011年12⽉、独⽴開業。税理⼠の視点と⼤家の視点からアパート経営を⽀援するために活動し、税理⼠・司法書⼠のワンストップサービスを提供している。
廣⽥:不動産会社の間では、物件やオーナーを取った、取られたみたいな話はありますね。ただ、変わりつつあるところもあるんですよ。不動産会社も代替わりして、息⼦さんが継いだらいい社⾵に変わってきたという話も聞きます。反対に悪くなった、なんて話もありましたけど(笑)。
廣⽥ 裕司(ひろた ゆうじ)/「合同会社アップ」代表、「⾏動する⼤家さんの会」代表
妻の実家の賃貸事業を引き継ぎ、賃貸経営に関わるようになる。サラリーマン時代の経験を活かし、原状回復費の低減、稼働率アップに成功。賃貸経営での経験をベースにセミナー講師としても活動。2014年⼤家仲間と⼀緒に、管理会社「みまもルーム」設⽴に参加。その後、⼤家さんとしての経験、不動産業者としての経験を活かし、⼤家さんの賃貸経営をサポートする会社「合同会社アップ」を設⽴。
渡邊:いまは管理と客付けをセットでやっている不動産会社も多く、客付けが強い不動産会社がオーナーには⼈気だ、という⾵潮ですよね。私は、そういった不動産会社の格差みたいなものができないように、管理会社はもっと管理に専念すればいいと思うし、客付けだけに特化している不動産会社があってもいいと思います。オーナーに寄り添って、物件を理解し、最適なアドバイスができる不動産会社が増えれば嬉しいですね。
——不動産会社同⼠が対⽴するのではなく、協⼒することがオーナーを助けることにもなりますね。
渡邊:オーナーをやっていて嫌なのは、「募集をお願いします」というと、「じゃ、うちで決めたらこの部屋だけ管理させてください」というもの。それこそ物件の中で部屋の取り合い、縄張り争いです。オーナーとしては、部屋ごとの管理がバラバラになると、建物全体を⾒てくれる⼈がいなくなっちゃうんですよ。もちろん、オーナー⾃⾝で管理すればいいのですが、私のように本業があればできない場合もありますよね。
廣⽥:管理会社の登録義務化※もありますし、不動産会社という⼤きい括りから、仲介業務、管理業務、それぞれの強みでやっていくようになれば不動産会社同⼠の協⼒体制もできると思います。
※ 「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律」(20年6⽉成⽴)。賃貸住宅管理業を営む者に係る登録制度を設けることで、「管理業務の適正な運営」と「借主と貸主の利益保護」を図るための法律
そして、昨今は⼊居希望者さんが不動産会社に⾏きたくないという現状があります。コロナ禍ということもあるでしょうが、無駄を省くという考え⽅が広まっているのではないでしょうか。リクルート住まいカンパニーが出している情報では、不動産会社店舗への訪問数が、19年度は平均1.5店舗で過去最少だったと。
内⾒では、不動産会社へ訪問せず、現地集合・現地解散ということも多くなっていると聞きます。⾏かなくていいなら⾏きたくない、というのが⼊居者さんの本⾳なんでしょうね。さらに、IT重説や、VR内⾒などの⾮対⾯接客も必要です。不動産会社として、この波に乗らないとやっていけなくなってしまうのではないでしょうか。
渡邊:不動産会社のIT化は避けられないことですね。どんな業界でも、⾮効率なやり⽅はどんどん淘汰されていく。不動産会社は、ITなどで効率化していかないと従業員も疲弊してしまう。オーナーの要望も聞きながらいまのように経営していると必ず⽴ち⾏かなくなってしまいます。そのことをオーナーが理解することも⼤事ですし、不動産会社としての進化、変⾰が求められている。いままでがこうだったからこうするのがあたりまえなど、古い慣習は壊していくべきです。それができない会社は、なぜか、新しいことへのリスクはたくさん思いつくのに、メリットを⾒出せない。
慣習を捨てられるかが不動産会社の⾒極め⽅
——古い慣習を捨てる、ITを意識している不動産会社はどのくらいいるんでしょうか。
廣⽥・渡邊:……まだ、あんまりいないですね(笑)。
廣⽥:逆にそこができれば、すごいチャンスですよね。前にも、駐⾞場に隣家の植⽊が伸びてきていて、⼊居者さんの⾞を停める位置が少し前にずれていたことがあったんです。管理会社に、「隣の家に⽊を切ってくれって伝えて」とお願いしたら、「いや、⾞の持ち主からクレームきてないから」と……。クレームがきてないから何もしないではなく、予防措置で先回って考えてくれたり、提案してくれればオーナーとしてありがたいですよね。
渡邊:でもね、忙しすぎてできないんですよね。不動産会社も。管理も客付けもどっちもやってすごく忙しい。でも、オーナーが求めていることは違うんです! だから、管理会社は管理業務に専念できるように変わってほしいですね。
——お⼆⼈が考える不動産会社や管理会社を選ぶポイントを教えてください。
廣⽥:コミュニケーション⼒ですね。
渡邊:そうですね、コミュニケーションがしっかり取れるかどうかは重要ですね。正直、提案⼒とかにはあまり期待していないです。現状でそれを求めるのは酷かなと思いますし。ですが、コミュニケーションが取れないと会話にもならないし、相⼿が何を考えているか分からないのでこちらもやりようがなくなります。
廣⽥:オーナー側も早い段階で決め事を伝えることが⼤事。例えば、修繕でもいくらまでは管理会社の判断でOK。それ以上は必ず相談してとか、相⼿が動きやすいように指⽰をしておく。そして、何か相談の連絡がきたらできる限りすぐに答えを出してあげる。例えば、家賃交渉は内⾒中に⼊居希望者さんを待たせて連絡がくることもありますよね。即決が取れそうなのに「明⽇まで待って」なんて⾔ったら、⼊居希望者さんも逃げてしまうし、不動産会社もやる気をなくしてしまいます。不動産会社に対しての配慮や接し⽅も重要で、「あのオーナーはやりやすい」と思ってもらったほうが得ですよ。
渡邊:しっかり決め事をすり合わせして、それをやってくれる会社を選べばいいと思います。オーナーも「不動産会社はこれをやってあたりまえだ!」じゃなくて、あたりまえと思っていることでも必ず確認する、希望を伝えることは⼤事ですよね。
——管理会社とのやり取りでのエピソードはありますか。
廣⽥:ある部屋を「次の募集は少し家賃を上げてみよう」と管理会社に相談してみたんです。⾃分での相場感も1000〜2000円はあげられるんじゃないかと思っていました。でも管理会社は「いや、いまが限界ですよ」と取り合ってくれなかったんです。でも3年くらい粘り続けて、空室になった時1000円上げて募集したらすぐ決まったんですよ(笑)。それから、その担当者はその成功体験があって、まずやってみようと考えてくれるようになりました。
渡邊:賃貸経営を始めた当初、募集依頼をするために地元の不動産会社を回ったんです。なんせ初めてだったので、不動産会社がどういう反応するのか期待していました。すごく丁寧に聞いてくれる会社もあれば、そっけないところもあって、やる気があるところとないところの差がすごくて衝撃でしたね。これは、⾏ってみないと分からないことですよね。
ほかには、⼤⼿管理会社に管理を依頼していた時、⾃分もいろいろやってみたい時期だったんですよね。壁紙をこうしたいとか、こんな設備をつけたいとか……希望をたくさん⾔いました。でも、⼤⼿だったからなのか、「うちはそういうのできないんですよ」とはねのけられてしまいました(笑)。
オーナーと不動産会社は夫婦、仲間みたいなもの
——オーナーとしてパートナーになってくれる不動産会社に求めることはありますか。
渡邊:お互い多くを求めないこと、ですかね(笑)。オーナーと不動産会社は夫婦みたいなものだと思うんです。双⽅ができないことを補い合う関係性で、依存しすぎない。だから多くを求めない。そして、最終的な判断はオーナーなんだ、ということも忘れてはいけないですよね。
廣⽥:最終的な判断を任せてしまう怖さをオーナーは理解しないといけません。⼤げさなたとえですが、リフォームを管理会社に全て任せたとします。その担当者は「⾚⾊」が⼤好きで、部屋のクロスを全部真っ⾚にしました。案の定なかなか⼊居は決まりません。リフォーム費⽤はオーナーが負担しているので管理会社の害はほとんどなし。オーナーは家賃が⼊らずに困る……。そんなことにもなり得るのです。これは極端なたとえですが(笑)。
渡邊:オーナーさんにとっては、その部屋は1/1ですよね。でも管理会社にとっては1/1000かもしれない。その思い⼊れの違いは想像できます。だから、⾃分と同じ思いを持ってくれと求めてはダメなんです。オーナーも、不動産会社に頼りすぎずに⾃分の賃貸経営を⽀えてくれる仲間だということを理解できれば、双⽅のお客さんである⼊居者さんの満⾜度は必ず上がると思います。
廣田さん、渡邊さんが携わった著書、『行動する大家さんが本気で語る 選ばれる不動産屋さん 選ばれない不動産屋さん』/行動する大家さんの会 編・清文社 刊・定価1980円(税込)
この記事を書いた人
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