賃貸経営“幸響曲”――⼤家には、「住まい」と「地域環境」の両⽅を整えていく役割がある
ウチコミ!タイムズ編集部
2021/05/09
聞き⼿/向園 智子 ⽂/財部 寛⼦ 写真/吉田 達史(Photo Current 66)
群⾺県⾼崎市を中⼼に⼤家業を営む⼤城幸重さんは、祖⽗の賃貸経営を15歳から⼿伝い始め、⼤学卒業後は教職に就き、3年前から賃貸経営を専業としている。⼤城さんが経営する賃貸物件の多くは「デザイナーズ物件」。とはいえ、単におしゃれな物件というわけではない。住む⼈の暮らしや地域のことも考えた、本当に住み続けたくなるデザイナーズ物件を提供している。また、⼤家には地域環境を整える役割があると語る。「北関東⼤家の会」代表でもある⼤城さんに、⼤家業の本質を語ってもらった。
15歳で経験した賃貸経営は「嫌な仕事」
——⼤城さんは15歳から賃貸経営に携わっていたということですが、どういうことでしょうか。
私が15歳のとき⽗が他界し、その後は祖⽗が⽗親代わりとなって私を育ててくれました。その祖⽗が賃貸業を営んでいたため、⽗が亡くなった後、学校が休みの⽇に祖⽗の⼿伝いをするようになったのです。
——具体的には、どのようなお⼿伝いをしていたのですか。
私の家は農家でもあったので、朝4時半に起きてまずは⽥んぼの除草作業です。近所の⼈たちと⼀緒に除草をするのですが、⾃分が⼀番若いからと除草液が⼊った重いタンクをよく背負わされていましたね。
賃貸業に直接関係する部分では、家賃回収や簡単な修繕、草むしりなどをやっていました。古い⻑屋式の貸家で、いまのように管理会社に任せるような時代ではなかったので、賃貸業のさまざまな仕事をそのときに覚えていきました。しかし「賃貸業は嫌な仕事だな」と思っていました。
——なぜ、嫌な仕事と思ったのですか。
当時は、サイディングなどない時代で貸家の外壁は⽊でした。壁が落ちた部分のサイズに合わせて端材を切って打ち付け、修繕しました。また、敷地内は、いつも草がぼうぼうだったので、祖⽗と⼀緒によく草刈りをしたものです。本当は友達と遊びたいのになかなか遊べない。そのうえ、作業は⼤変。ただし、それよりも嫌だなと思ったのが、家賃回収です。
——⼊居者のところに直接家賃回収に⾏っていたわけですね。
あるとき、家賃を滞納している⼊居者さんのところに家賃を取りに⾏くように祖⽗から⾔われ、⾏ってみると、体重が120㎏くらいありそうな体格の⼤きな⼈が出てきました。まだ⾼校⽣の⾃分は、「家賃を払ってください」の⾔葉が怖くて⾔えない。ただ、「すいません、おじいさんに⾔われてきました」と⾔うのが精いっぱい。すると、「おめぇ、何しに来たんだ?」と⾔い返される。それで、「おじいさんに⾔われて来ただけなので、またおじいさんに聞いてきます」と戻る。でも、また取り⽴てに⾏かされる。そんなふうに⾏ったり来たり(笑)。この家賃の取り⽴ては嫌でしたね。しかし、現在⼿掛けているデザイナーズ物件創りは、これが原体験になっていると思います。
⼤城 幸重(おおしろ ゆきしげ)/1968年群⾺県⽣まれ。株式会社クレセール代表取締役。北関東⼤家の会代表。新築デザイナーズ賃貸プランナー。賃貸不動産経営管理⼠。ファイナンシャルプランナー。15歳のときに、祖⽗が経営する⻑屋式貸家の清掃と家賃回収の⼿伝いを始める。⼤学卒業後は、⼩学校と中学校の教員として25年間勤める。2017年に退職、賃貸経営を専業にする。東京、京都、北関東、海外などの国内外に不動産を持ち、群⾺県⾼崎市を中⼼に9棟35室を経営。太陽光発電も13基所有している。
⼦育てを⽀援するデザイナーズ物件
——⼤城さんの賃貸経営の⼤きな特徴が、そのデザイナーズ物件です。なぜ、家賃取り⽴ての経験が影響しているのでしょうか。
当時、古くて汚れた物件に住み、家賃を滞納する⼊居者さんの部屋は、モノがあふれていたり乱暴に扱われていたりすることがよくありました。だから、祖⽗の物件を建て直すときは、「きれいな物件」にしたいと潜在意識に刷り込まれていたんだと思います。
——デザイナーズ物件を始めとした現在の⼤城さんの賃貸経営には、その15歳からの経験に加えて、教育という仕事も影響しているそうですね。
私は、⼤学を卒業してから25年間、3年前まで教職に就いていました。私の⺟も元教員で、祖⽗は賃貸業とともに幼稚園も創設しており、未来を創る⼦どもたちのためにできることは何か、街にいかに貢献できるか、といったことを考えていたようです。ですから、賃貸業と教育という2つの仕事が我が家にはあったのです。
——⼤城さんが教員として経験してきたことも賃貸経営にも⽣かされているということでしょうか。
もちろんです。私は、不動産投資家というよりは街の“⼤家さん”なんです。そして、街に住む⼈たちの⼦育てを⽀援することが⾃分の仕事だと思っています。⽇本の未来を創る⼦どもたちが快適に暮らせる住宅を考えたとき、そこには親御さんのあふれる笑顔があることが⼤事です。そういった住宅ですくすくと⼦どもたちが育っていってほしいと願っています。つまり、住環境を整えることは、⼦どもたちの成⻑の源になる。だから、ファミリー向けのきれいなデザイナーズ物件にこだわっているんです。とくに、消費のカギを握るといわれる⼥性が「ここに住みたい!」と思えるような⾼級感のあるデザインにこだわって物件創りをしています。その結果、相場よりも⾼い家賃で満室を維持できています。
実体験や失敗から住みやすい物件を創る
——とはいえ、デザイナーズ物件は「住みにくい」「使いづらい」といったデメリットも多く聞かれます。
デザイナーズ物件の私の定義は、「建築家とオーナーが⼀緒に創り上げていく物件」です。⾒た⽬だけでなく、「ここに⻑く住みたい」と思ってもらえる物件を創ること。そのため、ハウスメーカーなどに任せきりにするのではなく、建築家と⼆⼈三脚で物件を創っています。さらに、実際にその物件に私⾃⾝が住んでみたこともあります。そうすることで、物件のメリット・デメリットを把握することができるからです。
——実際に住んでみた経験を教えてください。
⼦育てアパートとして創った物件に住んだときには、いくつか課題がみつかりました。例えば外階段。既製品のものは幅が120cmだったのですが、ベビーカーを持って上がるには幅がギリギリだということが分かりました。お⺟さんがちょっとつまずけば、⾚ちゃんに危険が及ぶこともあります。
そのため、180cm幅の特注階段を作りました。また、群⾺では雪が降る時期があります。階段を降りる際、とくに下段の⽅はすべりやすくなります。それも危険だと感じ、下3段だけはデザイン性のある、すべりにくいざらめ⽯のブロックを敷きました。
ベビーカーもラクラク運べる180㎝幅の特注階段。下3段は雪が積もってもすべりにくい、ざらめ石のブロック造り
——内装については何かありましたか。
⾼級感のあるデザインや設備を整えていますが、とくに設備に関しては、10年、20年経っても修繕できるもの、アフターケアがあるメーカーのものを使っています。実は⼀度、デザイン性や価格だけにこだわって設置したために、壊れたときに修繕する術がない、あるいは修繕に逆に費⽤がかかってしまったという経験があります。そのため、おしゃれで、かつ⻑期間にわたって供給されているものを使うことはとても⼤切な点です。私の賃貸経営は、すべてこういった失敗や経験が反映されているんです。
みんなが幸せになる世の中を追い求める
——⼤城さんは、⼊居者のことをよく考えた賃貸経営をされているんですね。
そもそも⼤家業というのは、単に住まいを貸すのではなく、⼊居者さんが住みやすく使いやすい部屋を提供すること、そこに住む⽅々の⽣活を⽀える仕事だと考えています。笑顔があふれる家庭、あたたかい家庭を築く元になるのが住まいです。そういった物件を創ると同時に、地域環境も整えていくことが今後の⼤家業の役割だと強く思っています。
——住まいと街の両⽅を整えていくということですか。
例えば東京であれば、特定の街に憧れを持って暮らす⼈が多くいますよね。しかし、地⽅ではなかなかそうはなりません。しかし、きれいで住みやすい地域環境があれば、「この街に住んで良かったな」「私はいい街に住んでいるな」と思ってもらえるはずです。さらに、「この部屋に⻑く住んでいたい」と思ってもらえる物件が⼤切。だから、街作りと住まい作りは両輪である必要があるんです。そして、このように街と住まいを作っていくことが、最⾼の空室対策にもつながると考えています。
——⼤城さんの著書『⾼家賃でも空室ゼロ!』(秀和システム刊)には、今回お話しいただいたような賃貸経営の経験や知識がしっかり詰め込まれているんですね。ちなみに、「⼤城幸重さん」はペンネームということですが、ペンネームを決めた理由はあるのでしょうか。
本名は⼤⽊茂⾏です。ペンネームは、⼤家業に対する思いを名前でも伝えられたらなと思って名付けました。「城」は「家」を表します。「幸重」は⾃分がプロデュースした物件に住んでいただいた⽅に「幸せを重ねていってほしい」という思いを込めています。そして、私が代表を務める会社名「クレセール」にも、スペイン語で、「成⻑する」「⼤きくなる」「育てる」などの意味があります。会社の代表として、私にかかわってくれた⽅々とともに成⻑していきたいという思いがあります。会社の理念は、「⾃分が幸せになり、みんなが幸せになる社会を実現する」というもの。これがいつ実現できるか分かりませんが、私⾃⾝がそれを追い求め、さらに私の思いを受け継いでくれる⼈が現れ、いつか達成できるときがくればいいなと思っています。
大城オーナーの著書『高家賃でも空室ゼロ! これからの不動産投資は新築デザイナーズアパートが狙い目です』(秀和システム 刊) 定価1650円(税込)
——最終的な⽬標はありますか。
令和型のコミュニティ賃貸を作りたいと思っています。つまり、おじいちゃんやおばあちゃん、⼦育て世代、若者、障がいのある⼈、そういったさまざまな⼈が集まる街や物件を作っていきたいんです。そのためには、⼀⼈ひとりが⼈のために何かをやる、困っている⼈がいたら助ける、そういったことがあたりまえになる世の中にしていかなければならないと思うのです。
⾃分の⼼に余裕があるときに、みんなが世の中の役に⽴つことを無理なくやっていくかたちで、助け合える街や地域ができれば、世の中はもっと良くなっていくはずです。そうすることで「⾃分が幸せになり、みんなが幸せになる社会」が実現するときがきっとくるんだと信じています。
この記事を書いた人
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