繰り上げ返済か、新たな物件購入か――マンション投資の失敗しない見極め方
斎藤 岳志
2021/04/09
イメージ/©Tanwa Na Thalang・123RF
年利回り4%と14%――どっちをとるか?
マンション投資をはじめて家賃収入も安定して数年が経ち、資金に余裕が出てくる(預貯金が貯まってくる)と、誰もが考えるのが次の物件を買うか、ローンを繰り上げ返済するかということでしょう。
繰り上げ返済をするメリットは、金利上昇リスクの軽減になります。その一方で、「手元にある資金をさらに運用したほうがいい」という考えもあって、どちらがよいかは一概には言えません。
そこで私の場合はというと――。
結論から言ってしまうと、「想定よりも高い利回りが出ているのであれば、繰り上げ返済しなくてもよいのではないか」と考えています。
具体的な例でシミュレーションしてみましょう。
例えば、1990万円、35年返済、金利2%でローンを組んだ場合、毎月の返済額は6万5921円になります。
利回りを良くするということであれば、毎月の返済期限を短くする「返済額軽減型」。つまり、返済期限はそのままで「毎月の手取り多くする」ことを目的にした繰り上げ返済をしようと、100万円を繰り上げ返済したときに月々低くなる返済額は3380円、年間4万560円アップになります。
自己資金100万円を投資した利回りに換算すると、
「4万560円÷100万円=約4%」
となるわけです。預貯金なんかに比べるととても高い利回りになります。
一方、この100万円を頭金にして、同じようなマンションを購入した場合を考えてみましょう。前提条件は次のようになります。
■投資額
物件価格/2000万円
借入金 /2000万円-100万円(頭金)→1900万
■収支の見込み
(売上)家賃/9万円
(支出)管理費・修繕積立金/1万2000円
1カ月の返済額/6万2939円
1カ月の収入/1万5061円
年間売上/18万732円
(支出)固定資産税/約4万円
年間収入/約14万円
自己資金100万円に対して、年間14万円の収入ですから、
「14万円÷100万円=14%」
となり、繰り上げ返済よりも10%も高い利回りになります。
資産運用という視点から考えれば、手元にある資金で繰り上げ返済するよりも、新たな物件を買うほうがリターンが大きくなります。とはいえ、だから、新たな物件への投資、とはいえません。
新たに“借金”をして積極的にリターンを取りに行くのも1つの考え方です。逆にリターンは大きいけれど、“借金”を減らして気持ちを楽にして堅実に大家業をしていくという考え方もあります。
もちろん、空室リスクもありますが、投資物件を増やすことで、このリスクを軽減することにもつながるので、±0としておきます。
そこでもう一度、立ち返ってもらいたいのは「なんのために大家業をはじめたのか」ということです。そのうえで自分のなかでの借入のバランスを決めておき、それを崩さないようにすることが、見極めのポイントです。
私の場合は、慎重な姿勢で取り組むというスタンスで行っていくという気持ちを持っているので、借入は資産全体の半分くらいのバランスでいることが安心できる範囲なので、このあたりを1つの基準にしています。
金融機関からの融資を受けるには?
では、金融機関の立場から考えた場合は、繰り上げ返済か、積極運用かどちらがよいと考えるでしょうか。
これはそのときどきの経済状況によって、違いがあります。
有り体に言えば、景気全体がよければ、積極的に借入には前向きですし、逆に悪い場合は融資には後ろ向きになります。また、2019年にあったかシェアハウスのかぼちゃの馬車のような社会が注目する不正融資事件があると、借入が厳しくなることもあります。
ただ1つ言えるのは借入の残高があっても手元資金がある人には、融資がしやすいということはあります。
金融機関からすれば繰り上げ返済をされてしまえば、返済から得られる利息収入が減ってしまいます。また、返済が難しい状況になってしまった場合、担保になっている物件を差し押さえて回収するよりも、手元にある預貯金をおさえたほうが手間をかけず対処がしやすいということもあります。
分かりやすく言えば、2000万円の預貯金がある人に対して、2000万円の融資をするのは金融機関にとって限りなくリスクが低くなり、貸しやすいということになるわけです。
繰り上げ返済か、再投資かということについては、どちらが正解で、どちらが間違いというものはありません。それぞれの考え方があり、そのときどきの社会情勢によっても違ってきます。これこそがまさに投資判断になります。
ただ、前にもいったように、なんのために大家になったのかという目的を明確にして、それに照らし合わせてみること。そして、自分なりの資産バランスの基準を作っておくこと――の2点に照らし合わせて考えることで、その答えが見えてくると思います。
この記事を書いた人
ファイナンシャル・プランナー(CFP)
FPオフィス ケセラセラ横浜代表 百貨店在職中にファイナンシャル・プランナーの資格を取得。税理士事務所、経営コンサルティング会社などを経て、FPオフィス ケセラセラ横浜を開設、代表を務める。 マイホーム購入・売却相談のほか、不動産投資のサポートも行なっている。株式投資やFXなど一通りの投資を実践した後、2007年より不動産投資をスタート。現在は、自らの資産運用はほとんど中古マンション投資に絞って取り組んでいる。