アパート・マンション 孤独死のあとに残されたペットをどう保護するか
2020/11/27

イメージ写真提供/NPO法人東京キャットガーディアン
高齢者ばかりではない 増える孤独死の現状
一人暮らしの人が増える中で、賃貸マンションやアパートでの孤独死が増えています。
実際、単身世帯は増加しており、こうした単身世帯で、誰にも知られず亡くなってしまう方が増えていくことは間違いないでしょう。グラフは65歳以上の孤独死の方の推移ですが、孤独死は何も高齢の方ばかりとは限りません。いずれも東京都監察医務院で取り扱った単身世帯の統計データですが、これを見ると分かるように、男性では40歳を超えると孤独死が急激に増えています。
出典/東京都監察医務院
孤独死については賃貸マンションやアパートのオーナーさんにとって、あまり考えたくないお話かと思います。でも、単身で暮らす入居者さんが病気やアクシデントで亡くなられることは、どんな賃貸住宅でもあり得ることで、実際に入居者が亡くなったあとに、ご相談をいただくことが年に何回かあります。
もちろんのことですが、私たち猫の保護団体に連絡が来るのですから、ご相談の内容はそこで飼育されていた猫たちたちについてです。私たちの団体に実際にあったあるご相談のお話をご紹介します。
部屋に残された猫 レスキューを求める電話
お電話がかかってきたのは、よく晴れた秋の日でした。
「アパートの部屋の中に猫たちがいるようなので、引き取ってもらうことはできるでしょうか」という内容のお問い合わせでした。これだけでは状況が分からないことから、
「猫がいるようなので……とは?」と私。
「はい、息子の借りている部屋で」
「何頭くらいでしょうか?」
「わかりません、動物を飼っていることも聞いてなかったので」
「息子さんとは、連絡が取れてないのですか?」
「実は……あの、亡くなっているようだと管理の方から電話があって、私たちもこれから向かうところでして」
それを聞いたときには、一瞬言葉が出ませんでした。慌ててお悔やみを申し上げ、「できる限りのことをします」とお伝えして、息子さんがお住まいの住所や、落ち合う目印の確認などをして、電話を切りました。
電話の話では保護に向かうための情報が少なすぎるので、とりあえず、ありったけの猫のレスキュー用品を車に積んで向かうことにしました。レスキュー用品というのは、猫の捕獲機(トラップ)とキャリーケージ、美味しい缶詰とおやつ・ブドウ糖・補液セット・タオル大小・ペットシーツ・手袋とビニール袋、それに輪ゴムなどなど。
健康体の猫たちなら捕獲するのは大変なはずですし、弱っている場合はその場でできる限りのケアをして命をつなぐ必要があります。それに対応するために必要なものが、このレスキュー用品です。また、こういうケースでは室内が荒れている可能性もあり、それに備えた準備も必要になります。
猫は気配を消せる動物 探すのには工夫が必要
現地アパート前で落ち合った、お電話をいたたいたご相談の方はご夫婦でいらっしゃっていました。お二人ともに高齢という感じではなく、亡くなった息子さんはかなり若い方なのだと思いました。
管理人さんが鍵を持って案内してくれたお部屋は2LDKにロフト付きという間取りで、単身者にしては広めのお部屋です。ただ、築年数は古いようなアパート。それだけに押し入れや収納も奥行きがあって昔ながらの大きいタイプ物件でした。
現場でうかがったご両親と管理人さんのお話では、息子さんのご遺体は搬出済みであること。ご遺体の状態から、息子さんは多分2週間以上前に、ベッドの上で亡くなられていたらしいこと。室内に猫がいることは、猫たちが大きな声で鳴くので、隣人が知らせてきたことで分かったことなど、大まかな状況をうかがいます。
部屋に入ってみると、玄関はキレイ。
リビング手前のドアを開けたら、ビニール袋に入ったゴミの山が見えました。床はかなり汚れています。ここで管理人さんに許可をいただき、全員靴の上からビニール袋を被せて履いて輪ゴムで留め、そのまま室内に入ります。
涼しくなってきた時期でしたが、室内の臭いは相当なものです。
それぞれの部屋に入ってみると猫の姿はありません。猫はその気になれば完全に気配を消せる動物なので、事前にいると知らなければ、絶対に気がつかないほど見事に隠れています。そこで持ってきた缶詰や猫用オヤツを出して設置していると、匂いにつられたのか、大きなアメショ(アメリカン・ショートヘア)柄の子がヒョコっと顔を出しました。
その様子から、警戒心よりもお腹が空いているほうが勝っている感じで、キャリーケージに誘い込んでまずは1頭を保護。それから30分ほどの間に次々と同じアメショ柄の猫たちが現れて、みんなご飯につられてキャリーケージに入ってくれました。
20個持ってきたキャリーは残り2個。ゴミの山の間や押し入れの隅から現れる猫たちは、みんなアメショ柄です。
「これはひょっとしたら個人ブリーダーさんだったのかも……」
そんな思いが浮かびます。というのも、猫たちの大きさも、大・中・小・極小(子猫)といろいろいます。ソファを動かしたり冷蔵庫の裏を覗き込んだりしながら、ほかにいないかと猫たちを探します。部屋中のあちこちを探し回り、この日はもうこれ以上探しても見つからないという状態になりました。
とはいえ、これまでの経験からまだ隠れている子がいる可能性を捨て切れなかったので、置き餌をしてもう1日待っていただけるようにご両親と管理人さんに頼みます。了解をいただき、LDKとほかの2部屋、そしてロフト部分のそれぞれにご飯を置きます。この日は一度引き上げて、ご飯が減っている部屋があったら、改めて猫たち探すことにしました。
数日の猶予で助け出せる可能性は、かなり上がる
飼い主が亡くなったあとも、猫たちが生き続けられたのは、キッチンのシンクに水が溜まっていたこと。ほぼ空になった大きなドライフードの袋があったことから、それらで飢えや渇きをしのいで、猫たちはなんとか命を繋いでいられたようでした。
捕獲して保護した猫たちは、車に運びその場の車内でブドウ糖を飲ませたり、脱水の酷い子猫に補液をしたりして、とりあえずの応急処置を済ませ、シェルターに帰ります。
まだ、猫たちが残っているのではないかと一晩中心配しながら待って翌日。午前中にお部屋を再訪しました。捕獲機も数台仕掛けていったのですが、これにはかかっていません。ですが、各部屋の扉をそれぞれ閉めた3つの部屋とロフトにあった全てのお皿の餌が減っています。各部屋にはまだまだ見つかってない子がいるということです。
それから2日間、お部屋に通って保護しました。知らない人が怖くて隠れていた猫たちは全部で6頭いました。見つかった場所は、スレンダー(というか痩せている)アメショ柄の4カ月齢くらいと思われる子たちが、洗濯物が入ったカゴの底や、エアコンと天井の隙間、紙製の靴箱の中にみっちり2匹、押し入れの畳んだ布団の中など、さまざまな隙間から出てきました。
すべての猫を保護したあと、お部屋は清掃(いわゆる特殊清掃)をして、フルリフォームされたそうです。こうした清掃やリフォームの費用は借りていた方のご両親が費用を支払われました。大家さんと管理会社さんも「原状回復ができればいいので」とのことで、穏やかに対応されていました。
物件を賃貸しているオーナーさんにとってこのような事態は大変な出来事です。お部屋にダメージがあるだけでも大変なのに、さらに動物がいた場合には、その対応もしなくてはならず、その負担はさらに増えます。
それでも1頭や2頭であればいいのですが、このケースのようにたくさんの猫がいると、すべて保護することは難しくなります。しかし、数日の猶予をいただければ助け出せる確率がかなり上がります。
空室の期間が長くなるのはオーナーさんにとっても負担になりますが、こうした時間をとっていただければと思います。昔はこうした状況になると、頼るところも方法もなく「保健所に!」という一択が多かったのですが、今は猫だけに限らず犬も保護してくれるNPOなども増えています。まずはそうしたところにご相談ください。
私たち「東京キャットガーディアン」ではいろいろなケースに出合いながら猫のレスキューを続けています。オーナーさんも運営上、大変なことが多いと思いますが、ほんの少しの時間と空間を貸していただけるだけで、人と一緒に住んでいる動物達を助けることができます。
さて、保護したたくさんのアメショさんたちは、体力の回復にだいぶ時間がかかりましたが、全員新しいご家庭に繋げることができました。
この記事を書いた人
NPO法人東京キャットガーディアン 代表
東京都生まれ。2008年猫カフェスペースを設けた開放型シェルター(保護猫カフェ)を立ち上げ、2019年末までに7000頭以上の猫を里親に譲渡。住民が猫の預かりボランティアをする「猫付きマンション」「猫付きシェアハウス」を考案。「足りないのは愛情ではなくシステム」をモットーに保護猫活動を行っている。