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【家族信託活用事例】共有名義の財産(不動産)――迅速な意思決定と節税も可能になる

谷口 亨谷口 亨

2020/02/21

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イメージ/©︎123RF

親から受け継いだ土地や収益物件を兄弟で共同相続しているケースは、よくあります。ある時期までは問題がなくても、共有している兄弟の年齢も上がり、将来認知症になるリスクも高くなります。このようなケースでトラブルになるのは、

①将来土地や収益物件を売却、または修繕や建て替えなどの必要が出てきた際に兄弟間の意見がまとまらないこと。

②共有者がいるケースで、その中に認知症になってしった人がいる場合――こうなると土地や物件は塩漬けになってしまいます。

不動産の共有化は、相続が発生すると共有の名義は相続人の数だけ増えていきます。そして、その数だけトラブルの種も広がるので、早めに対策を取ることをおすすめします。

共有状態の家を家族信託にして、売却手続きのわずらわしさを回避した事例をご紹介します。

相談者=姉/高橋道子さん(仮名)66歳(福岡県在住)
弟63歳(神奈川県在住)との共有名義の不動産がある。

<相談内容>
高橋:福岡市内に実家があります。一昨年、父が亡くなり現在は空き家になりました。相続人は私と弟だったので、名義は私と弟の共有です。

谷口:お父様がお亡くなりになったときの相続で、共有になったのですね。

高橋:ええ。あまり深く考えずにそうしました。私も弟も育った家なのですぐに処分するのも嫌だなと思ったのです。でも、空き家のままだと物騒だし、隣近所さんに迷惑をかけてもいけないと考えるようになりました。

谷口:売却をお考えになったわけですね。

高橋:はい。売却代金は弟に使いたいのです。

谷口:弟さんのために? 共有名義になっている弟さんですね。

高橋:私は空き家になっている実家の近く、福岡市内に住んでいますが、弟は神奈川にいます。重度の身体障がいがあり、施設で暮らしています。弟の将来を考えると、少しでもお金はあったほうがいいと思っています。

谷口:福岡と神奈川ではずいぶん遠いですね。

高橋:ええ、でも弟はもう福岡には戻りません。

谷口:そうですか。家を売却するにも、共有者の弟さんの承認とハンコもいりますし、離れているだけに手続きも大変でしょうね。

高橋:はい。弟も家の売却には賛成で、私に一切を任せると言っています。なので、私が地元の不動産屋さんとやりとりしています。私が神奈川に何度も足を運ぶのも時間もお金もかかって大変なので、弟も心配しています。何かいい方法はないでしょうか。

<相談の要点>
・姉と弟の共有名義になっている実家(空き家)を売却して、障がいのある弟のために使いたい。
・姉(福岡)と弟(神奈川)が離れて暮らしており、手続きに時間もお金もかかるので、姉の単独名義にして、姉が手続きを進めたい。

<提案>

・委託者の弟が、自分の持分を姉に信託し、受益者を自分(弟)にする。
・信託後は、姉の意思で自宅を管理処分することができる。

<提案のポイント>
・弟の持分を姉の持分にする単純な名義変更は贈与になり、贈与税が発生します。同じ名義変更ですが、信託の名義変更は税金がかかりません。
・共有を解消して信託にすれば、家の売却に関しても、姉ひとりで判断、実行できます。
・不動産業者、司法書士、税理士も姉との話し合いで進めることができるため、神奈川まで来て弟の意向を確認する必要はありません。
・売却代金も姉が管理するよう契約書に明記。弟の症状が重くなり、寝たきりになった場合などで介護費用がかさんだ場合は、売却代金を弟のために使います。

<相続で共有名義になるということ>
1軒の空き家の名義が数人の共有から、さらに相続が発生して次の世代へと持分が細分化されると、共有名義が10人、20人と膨れ上がってしまうケースがあります。固定資産税などの税金負担も考慮しなければなりませんし、空き家で何か問題があった場合は、全員の責任になります。

また、空き家の修繕・管理、建て替え、売却などの必要が出てきたときも、共有者全員の合意が必要となるので、すぐに決断することもできなくなります。

ただし、名義を1本化するには、共有持分を購入するための対価が必要ですし、生前贈与であれば贈与税、遺言であれば相続税もかかります。家族信託を使って、ひとりの人に信託し管理処分の権限を預けることができれば、いざというときも一人の決断で済むので物事が素早く進みます。もし受託者になり手がいない場合は信託で単独名義にしてから、専門家(不動産業者、弁護士など)に任せるのがいいでしょう。

以前は、相続が発生した場合に、「共有にすれば、共有する人数分の控除が受けられるので共有にしましょう」といわれていました。しかし、共有不動産はのちのちトラブルの元になると思います。それを解決するツールとして家族信託は有効です。

 

 

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この記事を書いた人

弁護士

一橋大学法学部卒。1985年に弁護士資格取得。現在は新麹町法律事務所のパートナー弁護士として、家族問題、認知症、相続問題など幅広い分野を担当。2015年12月からNPO終活支援センター千葉の理事として活動を始めるとともに「家族信託」についての案件を多数手がけている。

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