「家賃がもったいないから家を買う」に、たまには反論してみませんか?
ウチコミ!タイムズ編集部
2019/11/20
イメージ/123RF
不動産情報サイト「不動産のいろは」を運営する株式会社スタークラフトが、「家を建てるって実際どんなかんじ? 実際に家を建てた【先輩100人】生の声をまとめました」と題したアンケート結果を公表しています。
調査対象が100名と、やや少ない人数からの声ですが、家を建てた人の気持ちがなかなかしっかりとひろえています。いくつかひもといてみましょう。まずは「家を建てた理由・きっかけ」です。こんな結果となっています。
子どもの進学・成長・誕生 …41人
家賃がもったいないから …14人
結婚 …9人
同居 …7人
もともとの夢だった …7人
土地があった/みつけた …7人
建て替え …5人
実家からの独立 …4人
消費税増税 …3人
社宅のリミット …3人
その他 …5人
賃貸オーナーが苦虫を噛み潰すいつもの結果が出ていますね!(笑)「家賃がもったいないから」が、人数はそれほど多くありませんが、ご覧のとおり2位に輝いています。さらにイヤな(?)話を続けます。
「家を建てたあとの月々の支払額は? 増えた? 減った?」との質問に対する答えです。ちなみに、何に対して増えた・減ったのかは明記されていませんが、多くの場合それは家賃ということになるでしょう。
結果はこのとおりです。
増えた …58人
あまり変わらない …28人
減った …14人
ご覧のとおり「あまり変わらない」と「減った」が合わせて42人です。母数が100人ということで、割合はそのまま42%です。
マンションデベロッパーなど、分譲事業者の誘い文句、「家賃を払うよりトクですよ」が事実となっているケースが数字で示される、賃貸オーナーにとってはとても悔しいいつものパターンです。
さて、では以上を見てきた上で…たまには、賃貸側から反論してみましょう。主なターゲットは、さきほど出てきた「家賃がもったいないから家を買う」です。いつも賃貸をいじめてくれる辛辣な言葉です。そのために、あるロジックを考えてみます。
そのロジックとは…「家をローンで買う。それすなわち、家賃で家を借りることと同じである」です。つまりこういうことです。家を毎月支払うローンで買うという仕組みは、分解すると、
・自分という入居者が
・自分という大家さんに
・毎月家賃を支払ってその家に住むのとほとんど意味が変わらない
のです。
なぜなら、どちらも同様、月々の住居費を払い続けられなければ、そこには住んでいられなくなるのですから。これ、実はヘリクツでもなく、「帰属家賃」という、学問的な理論に概ね沿った考え方です。GDP(国内総生産)や、消費者物価指数の計算に使われます。
帰属家賃の考え方では、持ち家に住んでいる人と、家賃を払って家を借りている人をより分けしません。持ち家に住んでいる人も、その物件に相応する家賃を払っている(価値~言い換えれば消費が継続的に生じ、そのための対価が支払われている)とみなすのです。
そうしなければ、住宅を建てる・買うという多大な投資の結果、持ち家が生産することとなった価値がゼロになってしまうのです。すなわち、GDP等に積み上げることができません。さらには、そうしておかなければ、持ち家から賃貸へ住み替えた場合、いきなりゼロから脈絡もなく、価値が生じてしまうことにもなります。
「だったらその人は何の生産による価値をそれまで享受・消費していたの?」と、いうことになり、計算上具合がよくありません。そんな風に考えると、月々の住宅ローンの支払いというのは、ますます家賃と本質が同じです。
なので、「家賃がもったいないから家を買う」は、ローンを支払っている間は、実は成立しないといってよい言葉です。(と、筆者は考えます)
ではなぜ、賃貸は「もったいない」のかといえば、持ち家の場合、ローンの支払いが終わったあと、建物と土地(マンションの場合は持分)が手元に残ります。賃貸にはこれがありません。
先ほどのように分解すると、
・大家である自分が(自分から貰う家賃を元手に)ローンを完済することで
・入居者である自分は、以降、家賃ゼロでそこに住み続けられるようになる
のです。
これが、基本的な持ち家のメリットです。加えて過去は、土地価格が上がるか、もしくは維持されることによる資産性というボーナスがここに付随してもいました。
ですが、考えてみてください。いまやこのボーナスは、基本として期待できないものとなっています。限られた一部の場所を除いては。
さらには、たとえば30歳で住宅ローンを払い始め、60歳で完済したとすれば、大家・オーナーである自分は、
・平均寿命まであと20年以上
・「タダでその家に住む入居者」としての自分のために
一生懸命に家をメンテナンスし続けなければいけないわけです。すると、入居者(自分)が90歳、100歳まで生きたとしたら…?
しかも、ローンの返済期間の後半は、入居者としての自分は、築15年超、20年超の古い物件に対し、ひょっとしたら、見合わない高い「家賃」を払うことになるのかもしれません。住み替えを我慢しながらです。
その間、折り合いの悪い隣人が近所に現れる可能性もありますし、家や土地が災害に襲われるリスクもあるというわけです。
そうしたことからいえば、「家賃がもったいないから家を買う」や「賃貸では老後が安心できない」に対し、われわれ賃貸オーナーの側は、そうですねと安易にしょんぼりする必要はなくなります。意外に論理的な反論も、実は出来てくるわけです。
以上は、実際に口に出して主張しても仕方がないことではありますが、ひとつの理屈として、賃貸オーナーさんが胸に秘めていてよいことかもしれません。なお、この反論によりパワーを持たせたいとすれば、鍵となるのは住宅の質です。売買物件に負けない品質を賃貸住宅も持つようになることが大事です。
さらに、賃貸住宅への高齢者の入居に対するオーナー側の意識の変革や、それをサポートする制度等の充実です。そんな課題も、以上の「反論」を通して見えてくるというわけです。
(文/朝倉継道 参照元/株式会社スタークラフトプレスリリース)
この記事を書いた人
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