なかなか普及しない「定期借家」の使いどころ
ウチコミ!タイムズ編集部
2019/11/09
イメージ/123RF
「定期借家という制度があるのは知っているけれど、まったく利用したことはない。縁がない」そうおっしゃるオーナーさんも、たくさんいらっしゃることでしょう。定期借家制度は、平成11年(1999)に借地借家法の一部改正により創設され、翌平成12年3月に施行された制度です。
定期借家のもとでの賃貸借契約では、
・契約で定められた期間の満了により
・更新されることなく契約が終了
します。
いわば、単純でスッキリした、わかりやすい制度です。対して、従来の賃貸借契約では、いわゆる正当事由がなければ、貸主側からの更新拒否ができません。
そこに加えて、
・正当事由として認めてもらえる要件の重さ
・それを補うために要求されやすい立退き料
と、いった事情から、現実には、「一度部屋を貸した相手に対して、意に反して出て行ってもらうことは困難」な制度になっています。
そこで、そうした従来のかたちに加わる新たな選択肢として始まった定期借家ですが、誕生から20年になる現在も、なかなか普及は進んでいません。
アットホーム株式会社が今年(2019年)の5月に公表した「首都圏の居住用賃貸物件における『定期借家物件』の成約状況(2018年度)」によれば、
・定期借家物件の成約数は6,529件。前年度比0.9%減
・居住用賃貸成約物件に占める定期借家の割合は3.0%
となっています。わずか3%です。
理由はいくつか挙げられますが、一番は、なんといっても強力な借主保護の考えに立った従来型の契約がそのまま存在していることでしょう。とはいえ、この定期借家制度、上手に利用しているオーナーさんも中にはいらっしゃいます。
「契約期間満了後、望まない入居者さんに居座られる心配がない」
「もちろん双方が望むならば、再契約して何の問題もない」
と、いった点をうまく活用し、賃貸経営の安定に結びつけているのです。
いくつか例をご紹介しましょう。
1.家賃の支払い継続が心配な人に利用してもらった
それまでは、家賃が滞ることへの不安から、収入の低い入居希望者さんは基本的にお断りしていたオーナーさんですが、ある機会以降、「まずは短期の定期借家で住んでみては」との提案を始めました。契約期間内に入金遅れが生じた場合は再契約しないとの約束のもと、その後は事故が起こることもなく、どの入居者さんとも再契約に至っているそうです。
2.外国人入居者さんに利用してもらった
あるオーナーさんの場合、文化や習慣の違いによるトラブルが心配な外国人入居者さんとの契約に、定期借家を活用しています。日本の集合住宅でのルールやマナーに馴染めず、どうしても周りに迷惑をかけてしまう方に対し、スムースな退去を促すためそうしています。
3.生活保護受給者の方に利用してもらった
生活保護を受けていらっしゃる方については、安定収入が確保されているともいえる一方、保護を打ち切られた際、再び生活の基盤を失うリスクも抱えています。これによるトラブル等に備えて、定期借家を活用するオーナーさんもいらっしゃいます。
4.事件・事故から立ち直るために定期借家を活用した
物件で自殺などによる「事故」が起きてしまい、その後安い賃料で募集せざるを得なくなったオーナーさんが、定期借家を活用することでピンチを脱した例もあります。低家賃で貸す期間を予定どおり確実に終わらせることで、ダメージが長引くことを避けたかたちです。
5.ペット可とともに定期借家も導入した
賃貸住宅をペット可で運営する場合、規約を守らない方や、ペットの躾(しつけ)を全うできずどうしてもルール違反してしまう方、周りに迷惑をかける方が、出てくることがあります。そうした場合のリスクヘッジとして、定期借家を活用するオーナーさんもいらっしゃいます。
6.女性専用マンションに定期借家を導入した
ペット可の場合と同様です。ルールが厳しいために、どうしてもこれを守れない入居者さんが出てきやすい環境での導入です。
以上、いかがでしょうか。
こうした活用事例ですが、お気づきのとおり、いずれにしても、契約期間の満了とともに入居者さんに必ず退去いただくことを予定しているものではありません。問題がなければ、ぜひまた再契約をしていただくことが前提となっています。
よく例に挙がる「転勤中の自宅貸し」「物件の建て替え予定に合わせて」といったかたちのほかにも、定期借家にはこうした活用方法もあるわけです。付け加えると、「定期借家で契約すると、なぜかトラブル自体が少なくなる」ともいわれています。
やや間接的な数字ですが、それを示すデータが、下記国土交通省の調査の中に出てきます。「平成30年度 住宅市場動向調査 報告書 平成31年3月」です。
221ページ「賃貸住宅に関して困った経験」をご覧ください。オーナー・管理会社などではなく、入居者さん側に対して「困った経験」を尋ねているものですが、定期借家では、例年割合が圧倒的に低くなっています。
定期借家という双方対等性の高い契約が、当事者間でのほどよい緊張感を生むことで、こうした結果が生まれているのではないかと分析する方もいらっしゃいます。
(文/朝倉継道)
この記事を書いた人
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