それでも家賃の安い部屋には住まない?大学生
ウチコミ!タイムズ編集部
2019/09/29
イメージ/123RF
ある「謎」を含んだ面白いレポートです。賃貸住宅業界をウォッチしている関係者に、毎年注目されています。「私立大学新入生の家計負担調査」と、いいます。現在見られる最新版は、今年(2019)の春にまとめられた2018年度版です。
公表しているのは東京私大教連という団体です。正式名称は「東京地区私立大学教職員組合連合」といいます。
「東京、神奈川、埼玉、千葉、茨城、群馬、栃木、長野、新潟、山梨の1都9県の私立大学・私立短大・私立高専の教職員組合を組織対象とする組合法人」
「67組合75大学・短大・高専(59大学15短大1高専)1万人」
と、いうのがそのプロフィールです。私立大学等の教職員の皆さんによる労働組合の連合体です。
調査目的は「(前略)首都圏の私立大学に入学した新入生の家計負担の状況について明らかにすること」と、なっています。
・最初の調査は1983年度
・1985年度から調査の対象を新入生の家庭に限定
なお、2018年度版の有効回答数は、4,181件とのこと。
調査の対象となった大学は、1都5県(東京、神奈川、埼玉、千葉、茨城、栃木)の14大学ということで、以下のとおりとなっています。
東 京(8校)
工学院大学 中央大学 東京経済大学 東京家政学院大学 武蔵野美術大学 明治大学 明治薬科大学 早稲田大学
神奈川(1校) 麻布大学
埼 玉(1校) 獨協大学
干 葉(2校) 国際武道大学 東邦大学
茨 城(1校) 筑波学院大学
栃 木(1校) 作新学院大学
はじめに、最も注目の数字です。親御さん(あるいは学生さん)が支払っている毎月の家賃の平均額です。以下のような推移が掲げられています。
1986年度 34,700円
1990 〃 48,300円
1995 〃 55,300円
2000 〃 59,600円
2005 〃 58,700円
2010 〃 61,100円
2014 〃 61,600円
2015 〃 61,200円
2016 〃 62,000円
2017 〃 61,600円
2018 〃 62,800円
いかがでしょう。特に86年度、3万円台の数字には懐かしさを覚える方も多いのでは。
なにしろ、この時代といえば、まだまだ風呂無しの4畳半・6畳間といったアパートや下宿が多かった時代です。3万円台というのは、東京近辺の学生が支払う定番ともいえる家賃だった…そんな感じです。
ところが、これが近年になると毎年6万円台がキープされ続けています。ご覧のとおり2018年度の数字は、1986年度の約1.8倍です。
と、なると…
「最近の大学生の子どもをもつ家庭というのは、過去よりもかなり裕福になっているのか」
そんな印象も抱かれてしまいそうですが、実際そうではありません。
報道などでも皆さんご存知のとおり、いまの大学生の親御さんは、多くが四苦八苦しながら子どもさんを大学に通わせています。
それを示す数字が以下です。月平均の仕送り額の推移です。なおこの額は、入学直後諸々の費用がかさむため一時的に数字が上がる5月分を除く、6月以降の月の平均値となっています。
1986年度 103,000円
1994 〃 124,900円(過去最高)
2000 〃 119,300円
2002 〃 112,200円
2004 〃 105,000円
2006 〃 99,200円
2008 〃 95,700円
2010 〃 91,600円
2012 〃 89,500円
2014 〃 88,500円
2016 〃 85,700円
2018 〃 83,100円(過去最低)
以上のとおりです。かなりの右肩下がりといってよいでしょう。
すなわち、「仕送りは下がる、家賃は上がっていく」ということで、「仕送り額に占める家賃の割合は75.6%で過去最高」というのが、今回の調査結果です。
そこで、単純計算してみましょう。
2018年度の平均仕送り額83,100円 - 同平均家賃62,800円 = 20,300円
と、なります。
なんと、わずか2万円ほどしか学生さん本人の手元には残らない計算です。これではかなりの長時間をアルバイトに費やさなければ、なかなかやってはいけません。
ここで、冒頭に示した「謎」です。
特に、築古物件をお持ちのオーナーさんは思うにちがいありません。「なぜ学生さん、もっと安い部屋に住まないの?」と。
「建物が古かったり、駅から遠かったりするけれど、昔みたいな3万円台や4万円そこそこのお部屋、探せば結構ありますよ」と。
まったくです。この疑問、つい5~6年ほど前まで、仲介会社のスタッフなど、現場の働き手の間でもよく話題とされていました。
そのため、
「大学に近い築古物件を買った。安く買えたので思い切り家賃を下げた。もちろん学生をねらったつもりだった。ところが入居してくれたのはほとんどお勤めの方。しかも、ご年配が多かった」
そんな経験をされているオーナーさんも、実際少なくないといいます。
そこで、いまはこんな答えを唱える人がいます。おそらくほぼ正解でしょう。
それは、住環境の変化です。
たとえば、2010年以降の学生さんといえば、ほとんどが1990年以降の生まれです。90年代以降の平均的な住環境で育ってきた彼らにとって、現在3~4万円そこそこの家賃で暮らせる部屋というのは、品質面での落差があまりにも大きいのです。
たとえば、都心近くの「〇〇荘・風呂無し・和式トイレ・35,000円」クラスはもちろんのこと、郊外鉄道沿線に建つ「コーポ〇〇・3点ユニット・室外洗濯機置場・35,000円」でも、彼らの多くは耐えられません。
と同時に、親御さんの方も、「実家とあまりにかけ離れた環境では娘や息子が勉強に集中できない」ということで、たとえ苦しくとも、この面での妥協は避けるケースが多いという指摘です。
ちなみに、多くのオーナーさんはこう思っているはずです。
「できることなら、私の新しいきれいな物件にだって、頑張っている学生さんをもっと安い家賃で住まわせてあげたいよ」
ですが、こちらはこちらで、なかなかそうもいきません。
先行投資が巨額、かつ、収益の天井が明確な(部屋数以上には儲からない)賃貸経営という事業は、いわば「余裕をかますと命取り」のプロジェクトです。オーナーさんのボランティア精神の発露をそう簡単に許してはくれません。
以上、いかがでしょうか。
大変難しい問題を毎年長年にわたって世の中に突きつけている、東京私大教連さんのレポートのご紹介でした。
なお、さきほどふれた「3~4万円そこそこの家賃で暮らせる」物件ですが、これらについては、ご承知のとおり「旧耐震」の物件が数多く含まれています。(1981年5月以前に施行されていた基準により建築された耐震性能の著しく劣る物件)
その面からは、未来のある若者をこれらに住まわせないことは、彼らのわがままでもなく、親御さんの甘やかしでもなく、きわめて賢明な判断です。
(文/朝倉継道 画像/123RF)
この記事を書いた人
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