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迫る改正民法の施行

賃貸住宅の「原状回復」について、誤解はありませんか?

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イメージ/123RF

改正民法の施行日が近づいています。令和2年(2020)4月1日です(一部の規定を除く)。今回の改正では、賃貸経営にかかわりの深い部分も少なくないことが、以前より話題となっていました。そのうち、心配されているオーナーさんも多い「原状回復」について、いま一度おさらいをしておきましょう。


まず3つの結論です。


-1-

Q:改正民法の施行後、オーナーは、貸した部屋にどんな傷や汚れを残されても、入居者へ修繕費用を請求できなくなる?


A:そんなことはありません。改正民法では、賃借人の責めに帰すべき事由がある損傷については、賃借人に原状回復義務が生じる旨定めています。


-2-

Q:すると、たとえば入居者が冷蔵庫を置いたことによる壁の黒ずみはどうなるの?原状回復費用を請求できる?


A:できません。なぜなら冷蔵庫は誰もが部屋に置くものです。その結果生じる黒ずみはさきほどの1でいう損傷ではなく、部屋の通常使用によって生じた損耗となるからです。通常使用による損耗や経年変化については、賃借人に原状回復義務はありません。


-3-

Q:通常使用による損耗かどうかなど判断がつきにくいので、一定額のクリーニング費用を退去時に入居者さんからもらう旨、特約として契約に盛り込んでいる。これってダメなの?


A:ダメではありません。有効です。ただし、賃借人が一方的に不利になる内容だと、争いとなった際、その特約は無効とされる可能性があります。


説明しましょう。まず1についてです。


今回の民法改正による賃貸物件の原状回復に関する規定をひと言でいうと、それは「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を法律で明文化したものである、ということになります。同ガイドラインは、国土交通省が平成10年(1998)に取りまとめたものです。原状回復を判断する基準として、その後長く浸透してきました。そこで、このガイドラインを踏まえると、たとえばタバコのヤニによる壁紙の変色は、通常使用による損耗を超えるものであるとされています。改正民法でいう賃借人の責めに帰すべき損傷です。修繕費用を入居者さんに負担してもらうことについては原則問題ないといっていいでしょう。


次に2についてです。


たとえば「次の入居者募集のためエアコンをクリーニングする。なので、これまでそのエアコンを使用していた入居者さんに費用の負担を求める」といった場合はどうでしょうか。上記ガイドラインを踏まえると、こちらはNGです。入居者さんがエアコンを故意に汚したわけでもなく、通常に使用していた以上は、その結果に対して原状回復費用の負担を求めることはできません。ただし、「エアコン内部にタバコの臭いが付着しているので掃除が必要」といった場合は別です。さきほどの壁紙の変色と同様の判断となってくるでしょう。


3についてです。大きなポイントとなります。


ここで語られているのは、いわゆる「クリーニング特約」です。上記ガイドラインが浸透していくとともに増えた契約のかたちです。通常使用による損耗か、賃借人の責めに帰すべき損傷かなど、争いのもととなる判断自体を避けるため、あらかじめ特約を結んでおくのです。


「退去時はクリーニング代として〇万円をいただきます」などと、賃貸借契約書に初めから盛り込んでおくやり方です。入居時の初期費用として設定する場合もありますが、ケースとしては退去時の方が多いでしょう。その場合、支払いは敷金からの差し引きとなるのが普通です。入居者さん側としては、次の引っ越しを前にしての負担感が多少は薄れることでしょう。


なお、改正民法の施行後もクリーニング特約は有効と見られています。改正民法による原状回復についての規定は、強行規定ではなく任意規定であると、一般には理解されているからです。任意規定とは、たとえ法律上の規定には従わない内容となっていても、別にちゃんと約束(契約)があれば、そちらを優先させてもよいとする考え方です。従って、クリーニング特約さえ結べば、通常損耗や経年変化だけで何ら部屋を汚していない入居者さんからも、有無を言わさず約束の費用をいただいてしまえるということになるわけです。

ただし、どんな特約でも盛り込んでおけば必ず有効になるというものでもありません。さきほども触れたとおり、入居者が一方的に不利な内容になっている場合は、争えば、消費者契約法による判断によって無効とされる可能性が高くなります。また状況によっては、民法の主旨に沿っていないという直接の理由をもとに、特約の有効性が否定されるケースもありうるでしょう。


そこで指針となるのが国交省のガイドラインです。クリーニング特約を成立させるための3つの要件が示されています。改正民法の運用場面においても、これに倣った判断がされると思っていてほぼ間違いないでしょう。


以下、その要件です。


(賃借人に特別の負担を課す特約の要件)


1.特約の必要性があり、かつ、暴利的でないなどの客観的、合理的理由が存在すること

2.賃借人が、特約によって通常の原状回復義務を超えた修繕等の義務を負うことについて認識していること

3.賃借人が、特約による義務負担の意思表示をしていること


このうち1については、「暴利的でない」と見られるための基準が気になるところですね。金額としては「賃料1ヶ月分までが目安だろう」という意見もあります。また、実際のクリーニング特約では、賃料の半分程度を設定するケースがよく見られます。さらには、負担の対象となる範囲にも注意が必要です。アレの修繕も、コレの取り替えもと、範囲が広すぎるとそれは暴利とみなされやすいでしょう。


2、3については、1の金額・負担の範囲ともに契約書面に明記しておくことはもちろん、入居者さんへ口頭で説明し、理解を得ることも当然大事になってきます。「聞いてないよ」「契約書に書いてあるでしょ」では、ケンカを避けたいという、特約そもそもの意味がなくなってしまいます。仲介会社・管理会社へ、そのあたりの徹底についてしっかりと申し付けておくことが大切ですね。繰り返しますが、クリーニング特約は、部屋をきれいに使ってくれる真面目な入居者さんほど割に合わない、やや理不尽な仕組みともなっているわけですから。


改正民法の条文の抜粋です。


(賃借人の原状回復義務)
第621条
賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く。以下この条において同じ。)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う。ただし、その損傷が賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない 。


さらに、国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」について、同省ではそのポイントをこのように記しています。


「原状回復を『賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること』と定義し、その費用は賃借人負担としました。そして、いわゆる経年変化、通常の使用による損耗等の修繕費用は、賃料に含まれるものとしました」


(文/朝倉継道 画像/123RF)

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この記事を書いた人

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