マンショントラブルにどう向き合うか
井上裕貴
2018/09/21
イメージ/123RF
国土交通省では、5年ごとに「マンション総合調査」という統計データを公表している。この調査はマンション管理に関し、これまでに講じられてきた施策の効果の検証、必要となる施策の提示を行うための基礎的な資料として、マンションの管理状況、マンション居住者の管理に対する意識などをまとめたものだ。
この調査の「平成25年度マンション総合調査結果」によれば、マンション居住者の世帯主の年齢は、「平成11年度から平成25年度の変化をみると、60歳代、70歳代以上の割合が増加、50歳代以下の割合が減少しており、居住者の高齢化の進展がうかがわれる。平成25年度は60歳代以上が50.1%、40歳代以下が26.8%となっている」とある。
また、マンション老朽化問題については、老朽化対策について議論を行っている管理組合は35.9%で、そのうち「建替えの方向で具体的な検討をした」が2.6%、「修繕・改修の方向で具体的な検討をした」が62.0%、「議論はしたが、具体的な検討をするに至っていない」が30.5%となっている。
このように日本の高齢化が進むなかで、マンション居住者も高齢化も確実に進行し、マンションの老朽化とも相まって、何らかの対策を採る必要のあるマンションは増えてきている実態がわかる。
また、この調査結果によれば、65.6%のマンションが何らかのトラブルを抱えており、そのトラブルの内容は、居住者間のマナーをめぐるトラブルが55.9%と最も多く、次いで建物の不具合が31.0%、費用負担の問題が28.0%となっている。
マナーをめぐるトラブルとしては、違法駐車、生活音、共有部分への私物の放置、ペット飼育、バルコニーの使用、専有部分のリフォームなどのトラブルがあり、管理費等の滞納については、3か月分以上の管理費の滞納者がいるマンションの割合は37%にも上っている。
このように多くのマンションでは、日常生活においてもトラブルを抱え続けており、その解決に手間取っているという現実がある。
ここでは、マンションの老朽化及び管理費等の滞納に対する対策について触れることとする。
マンションの老朽化への対策としては、①大規模修繕工事を行う、②建て替える、③マンション及びその敷地を売却する、という3つの方法がある。
① 大規模修繕工事について
まず、大規模修繕工事を選択する場合、大規模修繕工事は、一般に「共用部分の変更」に該当するところ、大規模修繕工事で「形状又は効用の著しい変更を伴わないもの」であれば普通決議によって行うことができる。しかし、それ以外のものは特別決議となり、区分所有者及び議決権の各4分の3以上の多数による決議が必要となる(区分所有法17条1項)。
この「形状又は効用の著しい変更」というのは、変更を加える場所、範囲、態様、程度などを総合的に勘案して個別に判断する必要があるため、専門家によるアドバイスを求めた方が良いと思われる。この大規模修繕工事に関しては、国土交通省から、「改修によるマンション再生手法に関するマニュアル」が公表されている。
② 建替えについて
次に、建替えを選択する場合、説明会を実施し、区分所有者及び議決権の各5分の4以上の多数による建替え決議が必要となる(区分所有法62条1項。)建替える場合、様々な手続を決めなければならないため、マンションの建替え等の円滑化に関する法律を活用し、法人格を有する建替組合による円滑な建替えの遂行を目指す必要がある。この建替えに関しては、国土交通省から、「マンション建替え実務マニュアル」が公表されている。
③ マンション及びその敷地の売却について
そして、3つめのマンション及びその敷地の売却を選択する場合、従来、区分所有者の全員の合意を取り付けなければ売却をすることができなかった。しかし、平成26年6月に「マンションの建替え等の円滑化に関する法律」が改正され、マンション及びその敷地を売却するための特例が創設された。この特例によって、特定行政庁からマンションを除去する必要があるという認定を受けることで、区分所有者数、議決権及び敷地利用権の持分の価格の各5分の4以上の賛成によって、マンション及びその敷地を売却することが可能となった。この売却に関しては、国土交通省から、「耐震性不足のマンションに係るマンション敷地売却ガイドライン」が公表されている。
いずれにしても、以上の3つの方法のどれを選択するかについて、大規模修繕工事、もしくは建替えにかかる費用、容積率の余剰の有無、修繕積立金の額などを考慮し、検討することになる。
一方、冒頭でご紹介したように、居住者の高齢化が進み、区分所有者全員が多額の費用を負担することが困難なマンションが増え、マンション及びその敷地を売却し、売却代金の分配を受けることを望む高齢者も増えていくものと思える。
最後に日常のマンション管理で生じる管理費等に対する対策について説明しておこう。
実は管理費等を滞納している居住者を放置しておくと、5年間で消滅時効が成立してしまう。そのため日常の管理を管理会社に委託しておらず、債権回収に不慣れな管理組合の場合は、早期に弁護士に依頼するなどして交渉を開始し、訴訟を提起し、強制執行をする必要がある。また、その際、滞納者の区分所有権の剥奪のため、区分所有法59条の競売請求をする方法も採り得る。
なお、弁護士費用については、管理規約に条項を入れておくことで、滞納者に負担させることが可能となっている。
以上のように、マンションには居住者の高齢化及びマンション自体の老朽化が進む一方、日常生活のなかでも大小のトラブルを抱えている。これは様々な価値観を有する人間が一棟の建物に居住するというマンションの性質上やむを得ないことといえる。トラブルが深刻化する前に、早期に弁護士などの専門家を交えて解決を図ることが重要であり、今後はこうしたマンションに纏わる問題は増えていくことが予想される。
この記事を書いた人
弁護士
弁護士。1976年生まれ、東京都出身。 明治高校、明治大学、獨協法科大学院 卒業/都内法律事務所を経て、佐久間法律事務所所属。取り扱い案件は、保険法関係、知的財産関係、介護相続関係など。モットーは「トラブルの火種は放置せずに事前対策と早期対応」