去る人に理由を聞こう。賃貸・退去時アンケートのススメ
賃貸幸せラボラトリー
2025/01/16
した方がよい――が、実行は少ない
賃貸経営では、「オーナーはこれをした方がいい」と、繰り返し過去より言われながら、実行例が増えないものがいくつかある。
退去時アンケートもそうだ。退去していく入居者に、退去の理由や、物件の住み心地がどうだったかを尋ねる。
「住んでいる間困ったこと」「気に入っていたこと」「部屋にあったらよかったもの」「不要だった設備」「満足」「不満」―――。
もちろん、積極的な答えが返って来る場合もあれば、そうでない場合もある。
そのうえで、前者が得られた場合は、今後の経営のための有為なヒントが、ほぼ間違いなく手に入る。
コストも手間もさほどかからない。やって得はあっても損はない代表といえるひとつだ。
ちなみに、本年も年が明け、間もなく「賃貸繁忙期」が始まる。入退去が増える。
退去時アンケートの参考例を一例、下記に示してみよう。
「退去時アンケート」の一例
いかがだろうか?
上記は、あるオーナーの制作による退去時アンケートの一例だ。ポイントがいくつかある。順に挙げていこう。
まず、このアンケートは「謝礼付」となっている。読んでのとおり、回答のお礼としてクオカードのプレゼントが予定されている。これは、純粋な謝意とともに「あなたの声をぜひ聴きたい」とする、オーナーの熱意を表すものだ。
回答内容については「オーナーのみが目を通し、管理会社には見せない」旨、このアンケートの場合、宣言されている。これは、もちろんのこと「管理会社の管理に対する不満」が回答から漏れないようにするためだ。
Q1では、退去の理由が尋ねられている。その退去が、仕事や学校の都合、あるいは結婚など、オーナーにとって不可抗力な理由によるものなのか、あるいはそうでないのかを知ることは、言うまでもないが、賃貸経営上重要な要素となる。
Q2とQ3では、この例の場合、選択肢を細かく用意していない。自由記述欄のみを置く方法を採っている。そのため、アンケート全体に文字や記号が少ない。見かけがすっきりしていて、回答作業に取り組みやすいイメージが生まれている。もっとも、この辺りを実際どうするかは、アンケートを行う側の考え方次第となる。物件の置かれた状況や、入居者のプロフィール等も考慮の上、選択肢を並べる方がよいと思うならばそうするとよい。
そしてQ4だ。ここは、通常「ご自由に意見をお書きください」などと案内される欄だが、このオーナーは、ひとこと言葉を添えて、回答を手引きしている。「アドバイスがあればぜひ聞かせて」とのお願いだ。Q2、Q3では拾いきれなかった声をさらに拾い上げられるかもしれない。
以上、ひとつの例だ。よろしければご参考に。
なお、上記のような設問に加え、近年新たに導入した設備が存在する場合など、ピンポイントでその使い勝手を尋ねておくのもよいだろう。たとえば、「宅配ボックスの利用頻度は」「使用にご不満はありませんでしたか」―――。複数の物件を持つオーナーなど、事業展開上よい参考となるはずだ。
アンケートで気になる内容が出てきたら
アンケートに気になる回答があったら―――。
じっくり対応しなければならないものはそれとして、すぐに動けるものについてはもちろんすぐに動くべきだ。
なぜなら、この時点というのは、タイミング的に恵まれていることが多い。
たとえば、問題を指摘された箇所が住戸内にあった場合、そこは目下空室になっていて、オーナー以下、関係者が遠慮なく立ち入れる。「アンケートに室内設備での不満が書かれている」ケースなど、すぐに現場を見に行こう。
ある物件での実例だ。
退去時アンケートを行った結果、気になる回答が出てきた。「バスルームの換気扇がいつもゴーゴーとうるさくて、かなりのストレスだった」旨、書かれている。
オーナーが早速出向くと、たしかにその部屋ではバスルームの換気扇がやたらとうるさい。音が大きいだけでなく、唸るような風音が規則的に鳴ったり、止んだりもする。
原因に想像がつかないオーナーは、すぐに管理会社の担当者へ連絡した。すると、翌日、関連会社のスタッフが、車にさまざまな工具を積んで、部屋までやって来た。
十数分後、スタッフ曰く、
「換気扇をまず調べました。ですが、これは機械の問題ではないかも……」
部屋の内外をしばらく見て回り、最終的に彼が言うには―――
「原因は多分、排気ガラリの詰まりです」
ベランダに脚立を立て、身体には命綱を結んで、清掃作業を開始したそうだ。
排気ガラリ、とは?
換気扇からつながるダクトの先端など、住戸外側の通気口部分にあるブラインド状の金属部品のことだ。
この「排気ガラリ」の内部が、この部屋の場合、長年溜まったホコリやカビですっかり詰まった状態になっていた。
そのため、根元にある換気扇は、実際にはほとんどバスルーム内の空気を吸い上げられていない状態に。
それでも無理をして羽根が回ることで、ダクト内部に空気が充満し、逆流も生じて音が鳴り響いていたという顛末だ。おそらくは湿気も溜まりがちだったことだろう。
排気ガラリをきれいに掃除したことによって、換気扇はすっかり静かになった。
結果として、オーナーは、同じストレスを次の入居者に味わわせるのを避けられたという一例だ。
なお、オーナーは、管理会社を通じて他の入居者にもこの件を伝えた。そのうえで、
「換気扇の音が大きい、以前より大きくなったなど、異常をお感じの方はお知らせください。点検、清掃いたします」
呼びかけたそうだ。
退去時アンケートは、オーナーも退去者も気が楽
賃貸住宅の入居者に対して、住み心地などを尋ねるアンケートとしては、退去時のほか契約更新時も、実施がよく選ばれるタイミングとなる。
ただ、後者の場合、若干微妙なことが起こったりもする。
アンケートに書かれた入居者からのリクエストに対して、諸事情から応えられない状態のまま、先方の入居が続くケースだ。オーナーとしてちょっと気まずい。
それに比べると、退去時でのアンケートは、オーナーも、退去する側も、ある意味気楽に対応できる。
退去者は、いわば文句を「言い捨て」にして行くことができるし、オーナー側も、すぐに動けない場合、気まずい思いや気ぜわしい思いをしなくてよい。
退去時アンケートは、そんな意味からもおススメのマーケティング手法だ。
(文/賃貸幸せラボラトリー)
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この記事を書いた人
編集者・ライター
賃貸住宅に住む人、賃貸住宅を経営するオーナー、どちらの視点にも立ちながら、それぞれの幸せを考える研究室