賃貸「逃げられ部屋」をつくらない。繁忙期を前に、オーナーの心得
賃貸幸せラボラトリー
2025/01/07
貸し手優位が進む賃貸だが……
賃貸住宅の家賃が上がっている。たとえば、昨年末(12月27日)公表の消費者物価指数だ。東京都区部における2024年12月分の中旬速報値では、前年同月比0.9%のプラスとなっている(民営家賃)。11月の数値と変わらず高い水準が維持された。
不動産ポータルサイト「at home」を運営するアットホーム(株)が、12月19日にリリースした「全国主要都市の賃貸マンション・アパート募集家賃動向(2024年11月)」も見てみよう。2015年1月を100とした平均家賃の指数は、東京23区の場合こうなっている。
広さ | 賃貸マンション | アパート |
---|---|---|
30㎡以下 | 116.4 | 105.5(賃貸マンション・アパート合わせた最小) |
30~50㎡ | 130.7 | 117.5 |
50~70㎡ | 140.5(賃貸マンション・アパート合わせた最大) | 133.0 |
70 ㎡超 | 126.7 | ー |
見てのとおり、ほとんどの数字が大きく上昇している。だが、ちょっと注目しておこう。データ別には賃貸マンションの50~70㎡や30~50㎡、アパートの50~70㎡以下といったところの数字が目立つが、あまり振るわない(?)ものもある。
アパートの30㎡以下だ。上昇は他に比べてさほどではない。また、相当な上昇とはいえそうなものの、アパートの30~50㎡や賃貸マンションの30㎡以下も、見方によっては「そこそこ」だ。
すなわち、家賃の平均的上昇に表れている市場の「貸し手優位」化の波に乗れない物件も、当然ながらたくさんあるということだ。そして、それらはアパート=木造物件や、床面積の小さな物件に比較的多い傾向が見て取れる。
内見者に「逃げられる」物件をつくらない
間もなく、春の始まり。転勤、就職、進学といった人の異動が増えるのとともに、賃貸繁忙期といわれる季節も始まる。せっかく部屋を内見しに来てくれた入居希望者に、つまらないことが原因で逃げられてしまってはつまらない。
家賃上昇の追い風が吹く時代に、繁忙期を逃して空室を長引かせたり、それによって家賃を下げざるを得なくなったりを避けよう。賃貸オーナーは、自身の物件をこの時期マメに見に行くべきだ。
目的は、現場で「つまらないこと」が起きていないか? のチェックとなる。自ら動かず、管理会社任せにするのはお勧めできない。彼らも繁忙期は忙しいのだ。
エントランスは荒れていないか?
エントランス周りは物件の顔だ。
暗い照明や切れた照明、カビやホコリに黒ずんだ壁や天井、床に落ちたゴミや散らばったチラシ、誰かがこぼした飲み物の跡、植栽に投げ捨てられた空き缶やレジ袋、投函物で溢れ返った空室の郵便受け……キリがない。
これらは、どれひとつオーナーが手を下したものではない。しかし、これらが生む結果はオーナーにこそ厳しく返ってくる。
大事な物件の「顔」が汚れていないか、しっかり見にいこう。「こんな場所を毎日出入りしたくない」と、内見しに来た入居希望者に思わせてはいけないのだ。
なお、当然だが、以上は物件の階段や廊下など、共用部分すべてにおいて言えることとなる。
クサい物件になっていないか?
入居希望者に逃げられやすい物件の典型がこれだ。部屋の中がクサいのだ。内見云々以前に、そこに居続けること自体が苦痛になるほどひどいケースもある。
部屋がクサい原因でよくあるのは2つ。ひとつは排水口内部の乾燥だ。水まわりにある排水口の下のトラップの中の「封水」(通気を遮断するための水)が、空室が続いている間に乾き、無くなってしまうのだ。
それにより、排水口と下水道との間が空気で直結してしまう。汚水管のニオイが部屋に上がってくる。なお、同じことは、便器の水が乾き切った場合にももちろん起こる。
そして、もうひとつ。換気扇のニオイだ。ハウスクリーニング業者が仕事をサボっていたり、彼らが真面目に仕事をしても取れなかったニオイが、換気扇の奥にこびりついていたりすることが主な原因となる。場合によっては、大掛かりな対処が必要となってくる。
さらに、タバコ臭、ペット臭などが残っていないかにも注意したい。
「侵入者」が巣食っていないか?
これは、暑い季節に特に気をつけたいことだが、まだ気温の低い賃貸繁忙期でも気を抜くべきではない。
空室に虫が侵入していたり、巣を作ったりしていないか、注意しよう。
最も多いのはクモで、部屋の隅の低いところに巣を作られやすい。餌となった小バエの死骸などが床に溜まり、虫に弱い女性など、とても受け付けられない光景になったりする。
なお、先ほど、排水口の「封水」が乾くと部屋が臭くなることを述べたが、ニオイだけではない。排水管を伝って虫も上がって来やすくなる。クモは、それに感づいて餌を求め、部屋へ入ってくることが多いようだ。
特に嫌われる、水まわりとエアコンの汚れ
入居希望者にとって、物件室内の汚れはどれも歓迎できないものだ。とりわけ、水まわりが汚い部屋は、彼ら・彼女らに嫌われやすい。これらは、意識するしないにかかわらず、衛生・保健の観念を通じて、人の命に直結してくるイメージが強いものだからだろう。
特にトイレは要注意だ。黒ずみ汚れや黄ばみ汚れが染み付いていたり、輪染み―――いわゆる「サボったリング」があったりは、ぜひともナシにしたい。
さらには、エアコンだ。水まわりが人間にとって大事な「水」を司る場所だとすれば、こちらはもうひとつ大事な「空気」をコントロールするイメージのものとなる。カバーが割れて黄ばんでいたり、タバコのヤニがこびりついていたりなど、入居を敬遠される原因となる。
なお、現在はインターネットで、さまざまな情報やノウハウが誰にでも得られる時代だ。水まわりに限らず、部屋の汚れをハウスクリーニング業者が取り切れなかった場合、クレームを伝えて対処を待つよりも、オーナー自身が動いた方が早いこともある。そんな選択肢を得るためにも、物件を見に行くことはとても大事だ。
「ここはヤバい物件ですよ」とこちらから紹介してしまう愚
以下は、入居希望者の側からすると「余計なアドバイスはしないで」と、言いたくなる内容のはずだ。
内見が増える繁忙期は、自身の物件にある「掲示板」に、オーナーは特に注意を向けてほしい。
いまどき、多くの賃貸マンションやアパートで、エントランスに掲げられた掲示板にこんな注意書きが貼り出されている。
- 「夜間の大声に苦情が出ています」
- 「真夜中に人を集めて騒いでいる部屋がある旨クレームが上がっています」
- 「ゴミ収集日のルールを守って下さい。写真のとおりたびたび違反が起きています」
- 「大きな足音を立てないよう気をつけてください」
- 「野良猫に餌をあげないこと。糞や尿で周りが迷惑しています」
- 「エントランス内にタバコのポイ捨てがありました」
- 「ゴミ出しの際、廊下を生ゴミの汁で汚す方がいます。穴の開いた袋を使わないこと」
管理会社が、それぞれの「犯人」である入居者に対して呼びかけているものだ。迷惑を被っている他の入居者からの通報を受け、対応している結果となる。
だが、反面、こうした掲示は、部屋探しのために物件を訪れた入居希望者にとっては格好のマイナス情報となる。「ルール・マナーを守れない人物がここに住んでいる」との警告だ。真面目に暮らす人ほど、入居を避ける要因となる。
よって、本来、こうした掲示は、入居者募集中の部屋が存在する物件では行うべきではない。それが繁忙期となればますますのことだ。ところが、オーナーがぼんやりしていると、大事な時期でもこれらが堂々掲げられてしまう結果となる。
ちなみに、普段から仕事が丁寧な管理会社であれば、こうした方法はそもそも採らない。手間は多少増えても、注意書きを1戸ずつポスティングするなど、余計な影響を生まないやり方を選ぶものだ。
内見者や、仲介会社のスタッフが部屋を汚す例も
こんな驚きの事例もある。繁忙期はこうしたことが起こる機会も増えるので、ぜひ気をつけたい。
内見者が部屋を汚してしまうのだ。あるいは、彼ら・彼女らを連れて来た不動産仲介会社のスタッフが、その犯人だったりもする。
いくつか実例を挙げよう。
- 「内見者が物件のトイレを使い、汚してしまった(スタッフは事後のチェックをしなかった)」
- 「内見者が部屋の中で飲食し、ゴミを置いて来てしまった(スタッフが行為を制止せず、ゴミの回収も忘れた)」
- 「開けた窓を内見者が閉め忘れ、スタッフもそれを見逃し、雨が吹き込んだ」
- 「スタッフが室内まで内見に付き添わず、廊下でタバコを吸いながら待機。床に灰を落とした」
オーナーがマメに部屋を見に行く態勢があれば、こうしたことでの「被害」は最小限に抑えられる。
連絡の齟齬により、背筋も凍る(?)光景が
繁忙期のように、関係者誰もが忙しい時期には、以下のようなことも起こりやすくなる。管理会社内外での連絡齟齬により、ある物件で起きたハプニングの例だ。
なお、この物件、ファミリー向けのアパートで、間取りは3K。かなりだらしない家族が住んでいたため室内は汚れ放題。それでも、ハウスクリーニングが早めに終わったということで、いよいよ内見受け入れが始まった。
ところが―――、なんと、クリーニングは終わっていなかった。それどころか、始まってもいなかったのだ。室内には前入居者の残したゴミの山がまだ複数積み上がり、悪臭も漂っていた。
そんな状況の中、内見に訪れた入居希望者は皆びっくり。次々と退散。もちろん入居が決まるはずもない。
そこに、(スケジュールどおり?)消毒業者がやって来て、いわゆる「バルサン」を炊いた。すると、部屋の床は頭文字にGが付くあの虫の死骸だらけに。流し台周辺など、足の踏み場もない状態に……。
退去から募集までの段取りと、連絡体制が明らかに破綻していたこの物件(行き違いにはオーナーも絡んでいたらしい)、司令塔たるオーナーがしっかりしていないとこんなことも起こってしまうという、ひとつの例となる。
物件の近くに住むオーナーは有利
以上、「賃貸『逃げられ部屋』をつくらない―――」と題して、いくつかのアドバイスを掲げてみた。
なお、最後から2番目の「内見者が部屋を汚す」の例に象徴されるように、物件のそばに住んでいて、いつでも現場を見に行けるオーナーは、こうした面では一段も二段も有利となる。
「内見があった」―――「事後速やかにチェック」
そうした動きが可能であれば、汚物の散らばった便器も、雨の吹き込みも、次の内見が行われる前にすぐに発見できるだろう。恵まれた環境をぜひ生かしてほしい。
(文/賃貸幸せラボラトリー)
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この記事を書いた人
編集者・ライター
賃貸住宅に住む人、賃貸住宅を経営するオーナー、どちらの視点にも立ちながら、それぞれの幸せを考える研究室