入居者・オーナー・管理会社――心のすれ違い5つの事例
2024/03/13

賃貸住宅を取り巻くプレーヤー
賃貸住宅を取り巻く中心プレーヤーといえば、入居者・オーナー・管理会社の3者となる。
ところが、この3者の間では心のすれ違いが起こりやすい。いくつか実例を挙げてみよう。これらのエピソードは、3者の真ん中に立つ存在となるオーナーにとって、特に参考となるかもしれないものだ。
えっ…… 踏みつけて終わりですか!
ある賃貸マンションでの出来事。エントランスフロアやその周りの共用部分に、よく「虫」が出るようになったという。虫とは、みんなが恐れるあの虫だ。頭文字に「G」が付く、黒光りするあの害虫だ。
そこで、ある女性入居者が怖さにたまりかね、同じ建物内に住むオーナーに「なんとかしてほしい」と申し立てたそうだ。
すると、高齢のオーナー、
「それは大変。出どころは多分玄関前のゴミ収集庫だと思います」
そう言って、早速翌日から庫内をチェックするようになったのはいいものの、このオーナー、殺虫剤に追われて出てきた虫をその場で踏みつけ、次々ペシャンコに。
死骸をそのままエントランス周辺に放置し、やがて乾いて飛散、消え去るのを待つという「荒技」に出たそうだ。
「死骸であってもその姿は絶対見たくない」――若い世代を中心とする多くの人に対し、高齢者などに時々見られる「死んだGなら怖くない」タイプの人……このオーナーも、まさにそんな人物だったとの顛末だ。
生きたGの次は死んだGに悩まされ、すっかり気が滅入った入居者。次の夏(Gの出やすい季節)を迎える前に、この物件を出て行った。
大事なものなので、そこには停めたくないんです
あるアパートの2階に暮らす入居者。自転車を買った。ところが、駐輪場には停めず、いつも重たそうに持ち上げて外階段をのぼり、自身の部屋の前まで運び込んでいたそうだ。
一方、それを見ていたオーナー、アパートの隣の一戸建てに住んでいる。
「なぜわざわざ面倒なことを」と、疑問に思いつつ、やがて「腹も立って来ちゃって」……
ある日のこと、
「せっかく駐輪場があるんだから利用してくださいよ。あなたの部屋の前はたしかに外廊下の突き当たりだから、他人の通行の邪魔にはならないけれど、そこはあくまで共用部分なわけですし」
キツい口調で声をかけてしまったという。
その後、入居者は数カ月も経たず退去。自転車はついに駐輪場に停められることはなかった。が、それからしばらくして、オーナーは管理会社から2つのことを指摘された。
ひとつは、入居者の乗っていた自転車だ。やや高価なモデルだったらしい。
さらには、駐輪場。面積は狭く、自転車はいつも1、2台がはみ出してしまう状態。しかも、申し訳程度の小さな屋根しか付いておらず、事実上雨ざらしといえる造りだった。
「盗難が怖い、自転車を汚したくない……あの入居者さんの気持ちを今は理解できます。失敗したなぁと、とても後悔しています」
政治的な主張は自由だけれど……
春の繁忙期だというのに、アパートの空室がなかなか埋まらないオーナー。「以前はこんなに苦戦しなかったのに、おたく、がんばってくれてるの?」と、管理会社のスタッフに軽くグチったそうだ。
すると……
「オーナーさんには本当に言いにくいのですが、スムーズな募集のために、あれは控えた方がいいかもしれません」
指摘されたのが、ポスターだった。
政党の党首の顔写真や、政治的な主張が書かれた大判のもので、アパートのフェンスの道路側や、外階段に沿った壁など、目立つ箇所に6枚ほど貼られている。もちろん、これらはオーナー自身が貼り付けたものだ。
「選挙への協力依頼や、政治活動への勧誘を予想して、後ずさりしてしまう入居希望者もいるかもしれませんよ」
そうアドバイスしたスタッフの見方は、多分正解だろう。
政治的なスタンスの表明は、誰にあっても自由だ。しかし、場所と手段はやはり考えた方がいい。
その後、オーナーがポスターを全て撤去したあと、空室は順次埋まったそうだ。「貼るのは自宅の塀だけにしました」とのこと。
こんな物件じゃ、みんな住みたくない……
こちらも、ある年の繁忙期、募集に苦しんでいた賃貸マンションのオーナーのエピソード。
「一斉に5部屋も出た空室がまったく埋まらない……」
悩みつつ、久しぶりに自らの物件を見に行ったという。そこで目にしたのは……
「夜中から朝まで宴会をし、騒いでいる人がいるのでやめてくれとの注意書き、真夜中に奇声を上げないでほしいとの呼びかけ、共用部分や駐車場での喫煙やタバコのポイ捨てへの注意、ゴミの分別違反への警告、さらには、照明設備が誰かに壊された旨の報告……なんと、A4版、写真・イラスト付き、しかもオールカラーの5枚にわたる貼り紙で、掲示板が埋まっている状態でした」
つまり、管理会社は管理会社なりに、目立つ方法を一生懸命考え、物件内でのマナー違反防止を必死でアピールしている様子。とはいえ……
「こんな状況を目にして、ここに住みたいと思う人がいるでしょうか」
そこで、オーナー、早速スタッフに連絡し、
「熱心な呼び掛けはありがたいが、今後は掲示板ではなく、各部屋への直接のレター配布で」
申し付けたそうだ。
「何もかも管理会社に任せっきりで、オーナーなのにろくに物件を見に行かずにいた私がよくなかった。反省している」
それってもうウチの仕事じゃないの!
あるアパートでの話。
「最近引っ越してきた隣の部屋の住人が、夜中に人を呼んで騒ぐ。困っている」
オーナーの自宅に入居者から電話があったそうだ。
一方、受話器を取ったのはオーナーの妻。
「ああ、それね、もうウチの仕事じゃないの。この前から管理会社が入ったの知ってるでしょ? ウチは関係ないの。そっちにかけてください」
たしかに、オーナーはその数カ月前に、それまで続けてきた自主管理をやめ、管理会社と管理委託契約を結んでいた。さらにはその旨、管理会社も各入居者あてに挨拶状を配ってもいたのだが……
オーナー曰く、
「妻には本当にマズい対応をさせてしまいました。管理会社が入るようになったとはいえ、入居者さんと契約し、家賃をいただいている当事者は私です。なので、入居者さんが困っていることをわれわれが先に知ったならば、われわれこそがそれを管理会社に伝え、対応するよう指示するのが当たり前の流れです。それをつっけんどんに『ウチは関係ない』では……」
ちなみに、件(くだん)の入居者の部屋では、過去に給湯器などの設備故障が連続して発生していた。その際、オーナーは素早く親身に対応。大変喜ばれていたという。
「おそらく、あの入居者さんは、そんな過去もあるため、私を頼りに電話をかけてきたと思うのです」
ところが、今回は上記のような結果に。そのせいなのか、入居者はその後半年も経たずして理由を語らず退去。
入居者とオーナーの間に不幸なすれ違いが生じただけでなく、オーナー夫婦にも意識のすれ違いが起きていた、残念な一件となる。
(文/賃貸幸せラボラトリー)
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この記事を書いた人
編集者・ライター
賃貸住宅に住む人、賃貸住宅を経営するオーナー、どちらの視点にも立ちながら、それぞれの幸せを考える研究室