「家賃を値上げしたい」と言われたら? 基礎知識と対応のしかた
賃貸幸せラボラトリー
2023/09/28
家賃を上げさせてほしい
あなたがいま住んでいる賃貸住宅の「家賃を上げさせてほしい」と、貸主側から要求があったら、どうすればいいだろう?
ちなみに、貸主側とは、物件の貸主であるオーナー(大家さん)や、その意を受けた管理会社などのことだ。
そして、その要求は、もちろんあなたにとってうれしいものではない。
この記事ではそれに対する答えを示していこう。
面倒くさがらず、ちゃんと事前に知識を身に着けておくことで、降って湧いたようなピンチが訪れたときでも、冷静な対応が出来るようになる。
オーナーは家賃の増額を求めることができる
賃貸マンションやアパートなど、賃貸住宅の家賃といえば、最初に約束した(契約した)金額が必ずいつまでも続くと考えている入居者も、意外に多くいたりする。
だが、それは間違いだ。貸主=オーナーは、いつでも家賃の増額を請求することが出来る。(一定期間家賃の増額はしない旨の特約がある場合は別だが、あまり例は無いだろう)
借地借家法という法律に、それが記されている。
ただし、そのためには条件がある。以下の3つとなる。
- 建物や土地にかかる税金などが上がり、オーナーの負担が増したとき
たとえば、物件の所在する場所の近くに新駅が出来て、土地の評価額が大きく上がったとする。すると、固定資産税など租税負担が増すことになるので、オーナーはこれを手当てするため、家賃の増額も考えざるをえなくなる。 - 物価の上昇など、経済的変動が生じたとき
たとえば、物価上昇によって物件を維持・管理していくための費用の負担が増せば、オーナーとしてはその分賃貸住宅経営が苦しくなる。できれば家賃に転嫁させたいと思うのは当然のことだ。 - 周囲の似た物件と比較して、家賃が明らかに安いとき
賃貸住宅経営は経営だ。ボランティアではない。周辺に存在する類似する物件の多くが、より高い家賃で入居を獲得しているとすれば、それに合わせたいと思うのはオーナーとしてやはり当然のこととなる。
以上、条件は3つだ。
これらのうちの1つか、あるいは複数がととのった場合に、オーナーは借主=入居者に対して、「家賃を上げさせてほしい」と、請求できることになっている。
そのため、ほとんどの賃貸借契約書には、これを受けるかたちで、概ね以下のような条文が盛り込まれているはずだ。(甲はオーナー、乙は入居者)
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賃料
第〇条
甲及び乙は、次の各号の一に該当する場合には、協議の上、賃料を改定することができる。
一 土地又は建物に対する租税その他の負担の増減により賃料が不相当となった場合
二 土地又は建物の価格の上昇又は低下その他の経済事情の変動により賃料が不相当となった場合
三 近傍同種の建物の賃料に比較して賃料が不相当となった場合
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さらに、さきほどふれた借地借家法の規定を抜粋すると以下のとおりとなる。同法32条第1項にその旨が書かれている。
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(借地借家法第32条 第1項)
建物の借賃が、土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減により、土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって建物の借賃の額の増減を請求することができる。ただし、一定の期間建物の借賃を増額しない旨の特約がある場合には、その定めに従う。
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増額には「合意」が必要
さて、以上に挙げたような条件がととのったとして、オーナーがそれを根拠に、入居者に対して家賃の増額を請求したとしよう。
すると、これに従ってすぐに家賃が上がってしまうのかといえば、そうではない。実際に値上げするためには両者の協議による合意が必要だ。
すると、その際、入居者側に出来ることは何だろう? あるいは、すべきことは何だろうか?
以下に記していこう。
1.条件がととのっているかの確認
まずは、さきほど挙げた、オーナーが家賃の増額を請求するための「条件」がちゃんとととのっているかの確認だ。オーナーに対し、請求の根拠を尋ねよう。もちろん資料を求めてもよい。というよりも、求めた方がいい。
2.入居者自身も調べる
そのうえで、入居者自身も、オーナー側の請求がちゃんと法律に規定する条件を踏まえたものなのか、出来る限り調べたい。
すなわち、
- 「建物や土地にかかる税金などが上がり、オーナーの負担が増した」というのならば、それは事実なのか?
- 「物価の上昇など、経済的変動が生じた」ということであれば、やはりそれは事実なのか?
- 「周囲の似た物件と比較して、家賃が明らかに安い」という場合は、実際にそうなのか、不動産ポータルサイトなどを入居者自身も調べてみる――。
つまり、これは商談なのだ。
力のありそうな大家さんが言ってきたことだから――管理会社も向こうの味方のようだから――などと安易に退いてしまうことなく、自分自身の納得もしっかり得ることを大事にしよう。
そのうえで、提示された新たな家賃が高いと感じられるならば、
「家賃増額請求自体を一旦拒否するか?」
「増額は認めるが、金額を下げてもらうか?」
などを考えたうえで、紳士的かつ誠実に交渉したい。もちろん、その際は「入居者側もその根拠を示しつつ」と、いうことになる。
なお、不動産ポータルサイトを調べる程度のことはともかく、「税金や経済のことについてはあまり知識もない」「調べ方も分からない」と、いう人も少なくないはずだ。
その場合は、消費生活センターや、自治体の生活相談窓口にアクセスしてみるのもひとつの方法だろう。「借地借家法の規定までは理解しています」と、いうことであれば、相談もスムースに進むはずだ。
穏やかな交渉で利益をつかむ
なお、こうした交渉を行う際、大事なことは決して感情的にならないことだ。
そもそも、「家賃を上げたい」という要求が、多くの入居者にとって多大な負担感を伴うものであることは、オーナー自身もよく知っている。よって、ほとんどの場合、先方もかなりの緊張感をもって事に臨んでいる。
そのため、現実には、賃貸借契約期間中(主には2年間となる)のまさに降って湧いたような申し出は少なく、あるとすれば、契約更新のタイミングをつかまえての打診が多いはずだ。
ともあれ、そんなピリピリとした場面に、双方ピリピリとした態度で臨んでは、場が余計にピリピリするだけだ。
まずは、「お話はしっかりお聞きします」の広い態度で、柔らかく、穏やかに交渉に臨むことを心がけよう。
そのうえで、オーナー側の請求に入居者自身も納得できるのであれば、このたびは素直にこれを受け容れざるをえないことになる。それが、社会的に正しい態度といえるだろう。
とはいえ、家賃の増額というのは、入居者にとって相当に大きな負担となるものだ。なにしろ、事は一時(いっとき)では済まない。金額が増えた分は、以降そこに住み続ける限り、毎月積み重なっていく永遠の重荷となる。
そこで、入居者側としてはなんとか少しでもダメージを減らしたいところだが、たとえば、さきほど挙げた「増額は受け容れるが、額を下げてもらう」――のほか、以下のような条件を打診してみるのもアリだろう。
「増額の開始時期を少し遅らせてもらえないか」
「次の更新料を免除してもらえないか。あるいは値引きしてもらえないか」
「この機会に設備を更新してもらえないか――たとえば、省エネ性能の高いエアコンへの取り換え、寒い一枚窓を二重サッシに改装、など」
あるいは、こんなケースもなかにはあるだろう。
「実は、半年後に退去予定なんです。それまでいまの家賃を続けさせてもらえませんか?」
いずれにせよ、こうした交渉は、穏やかで落ち着いた話し合いの中でこそ前に進むと心得ておくべきだ。
家賃増額の合意が得られない場合
以上のような家賃の増額交渉に関して、入居者側とオーナー側双方の合意が得られない場合、最終的には司法の判断を仰ぐことになる。
つまり、裁判所で決着ということだ。具体的には、調停の申し立てから始めることになるだろう。
すると、両者がそのように司法の場に立っている間、家賃はどうなるのか?
答えは、やはり借地借家法が示してくれている。
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(第32条第2項・前半部分)
建物の借賃の増額について当事者間に協議が調わないときは、その請求を受けた者は、増額を正当とする裁判が確定するまでは、相当と認める額の建物の借賃を支払うことをもって足りる。
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ここで、「請求を受けた者が――相当と認める額」とされている家賃とは、すなわちいま支払っている「現在の家賃」と解釈していい。
つまり、裁判所での判決や調停の成立によって、新たな家賃が正式に決まるまでは、入居者側は、オーナーが求める値上げ後の家賃を払う必要はないのだ。
いま支払っている「現家賃」を払い続けていれば、問題は生じないということだ。
(もっと正確にいえば、「いま払っている金額以上で、かつ、オーナーが求めている金額未満の、入居者が相当だと思う額」を払っていればよい)
ただし、上記、借地借家法の条文には続きがある。よく覚えておきたい。
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(第32条第2項・後半部分)
ただし、その裁判が確定した場合において、既に支払った額に不足があるときは、その不足額に年一割の割合による支払期後の利息を付してこれを支払わなければならない。
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新たに正式な家賃が決まるまでの間、入居者が現家賃と同じ額の家賃を払っていたとしよう。そのうえで、新家賃が確定し、それが現家賃を上回るときは、入居者は両者の差額をさかのぼって支払う必要があるということだ。
なおかつ、そこに利息も付けてやる必要があるというわけだ。
ダラダラ先延ばしに争うのはNG
ところで、いま述べたとおり、借地借家法は、家賃増額交渉がととのわず司法の場に持ち込まれた場合のことを丁寧に規定してくれている。が、そうでない場合はどうなるのか?
すなわち、裁判等に至らぬままに、入居者・オーナー間の話し合いがこじれ、長引いてしまうケースだ。
すると、たとえばそうこうしている間に、オーナーが求めている家賃値上げの開始時期が先に来てしまうといった事態も想定されてくる。
こうした場合、入居者はいくらの家賃を払えばいいのか?
答えは、さきほどと同じだ。
借地借家法の本旨にのっとって、いま支払っている「現家賃」をきちんと払い続けていれば、基本、問題はないだろう。
ただし、気をつけたいこともある。
それは、その家賃増額請求が、オーナー側として、請求を行うための条件をきちんと踏まえた、理にかなったものである場合だ。
その場合、「家賃を上げようなんて気に入らない」「オレは現在の額の家賃だけを払い続ける」――といった態度で、入居者側がかたくなな対応を進めていると、オーナーが「信頼関係の破壊」を訴えて来る可能性がある。
そうなると、話は家賃云々を超えてしまい、賃貸借契約自体の存続を争う一段深刻なレベルに陥ったりしかねない。
対立が余計に深まり、入居者が住む家を失う可能性も生じてくるのが嫌ならば、「かたくなな態度やダラダラとした対応は禁物。話し合いは明朗、真摯に」――をしっかりと心得ておくべきだろう。
オーナーが家賃を受け取ってくれない場合
一方、こんなケースもある。
家賃増額の合意や、裁判や調停による決定がない段階であるのに、「こちらが要求する値上げ後の家賃でなければ受け取らない」と、オーナー側がかたくなな態度に出るケースだ。
この場合、「だったら、こちらも決着がつくまで家賃の支払いは停止します」などと、入居者側も同じ土俵にのるのは絶対にNGだ。
なぜなら、その行為は、すなわち家賃の不払いにほかならない。現在有効な契約に対し、真っ向から違反する行為になるからだ。
そこで、こうした場合、入居者は「供託」という方法をとることになる。オーナーの代わりに国の機関である法務局に家賃を預かってもらう。
その場合の金額は、もちろんさきほど示した「請求を受けた者が――相当と認める額」となる。要は「現家賃」でよい。
家賃値上げの材料が揃ってきている現在(いま)
以上、「家賃を値上げしたいと言われたら? 基礎知識と対応のしかた」と題して、そのあらましを記してきた。
なお、途中に示したように、賃貸住宅オーナーが入居者に対して家賃の値上げを請求するには、法律に決められた条件をふまえることが必要だ。
しかし、そこでいうと、近年この条件は整いやすくなりそうな傾向にある。主に大都市部で著しい地価の上昇と、直近の世界経済等の影響を受けた物価の上昇がそれだ。
よって、当記事に記した内容は、数年前までならば多くの賃貸住宅の入居者にとってさほど身に迫るものではなかった。
だが、現在は違ってきている。重要な知識のひとつである度合いが、より増しているといっていいだろう。
(文/賃貸幸せラボラトリー)
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この記事を書いた人
編集者・ライター
賃貸住宅に住む人、賃貸住宅を経営するオーナー、どちらの視点にも立ちながら、それぞれの幸せを考える研究室