「両手取引」「囲い込み」などが横行するなか、住宅を売却・購入する個人は誰の言葉を信じればいいのか?
大友健右
2016/09/12
不動産業界で当たり前になっている「悪しき慣習」
2012年に私は著書『不動産屋は笑顔のウラで何を考えているのか?』(幻冬舎)を上梓しました。今年の9月でちょうど4年が経とうとしています。
実はこの本は、「両手取引」や「担当者ボーナス(担ボー)」などの業界用語で語られる悪しき慣習について、初めて書籍で明らかにしたことで出版当初、業界内外で注目を集めたようです。
念のために説明しておくと、「両手取引」とは不動産仲介会社が買い主と売り主の両方から手数料を取る取引形態のことです)。
「高く売りたい」売り主と、「安く買いたい」買い主では、当然、利益が相反します。そのため、両手取引はアメリカの不動産業界では禁止されていますが、日本の不動産業界では、近年、問題視されるようになってきたとはいえ、いまだに横行しています。
もうひとつの「担ボー」とは不動産仲介会社の営業マンが、売り主からもらうキックバックのようなお金です。最近はだいぶ減っているようですが、営業マンにとっては「担ボー」つきの物件はおいしいので、顧客の希望とは少々違っていても強引に売ってしまうということも起きてしまいます。
本のなかでは、日本の不動産業界で、こうした「悪しき慣習」が当たり前のように行なわれていることをつぶさに記しています。
不動産業界からは何の反論もなかった
周囲には「あんなこと書いて、大友さんは不動産業界が差し向けた刺客に襲われるんじゃないか」などと心配してくれる人もいましたが、幸いなことに、そんな恐ろしい反響はありませんでした。
また、「大友が本に書いたことは、みんなウソだ。間違っている」と反論をしてきた人も、残念ながら(というべきか)、ありませんでした。
結局、「よくここまで書いたな」といった意味で注目はされたものの、業界内部から反論されることはなく、私が本で指摘した不動産業界の儲け優先主義を彼らは沈黙によって認める形になってしまったのです。
少しずつ知られてきた不動産業界の実情
さて、それから4年がたち、不動産業界では何が起きているのでしょうか?
いま、書店の不動産関係の棚に行くと、「儲かる不動産投資」といった投資家(と投資家予備軍)向けの煽り本が数多く並んでいます。さすがに、私の知る限りでは、丸ごと1冊、不動産業界の裏側を書いた本は出ていないようですが、不動産会社の営業マンがちょっとした裏話を明かしている本や、両手取引の話に触れている中古住宅・中古マンションの買い方・売り方の本などを、何冊か見かけるようになりました。
また、経済雑誌や経済新聞、全国紙にも「おとり物件」(関連記事 : http://sumai-u.com/?p=6661 )や「囲い込み」(関連記事 : http://sumai-u.com/?p=2649 )といった文字を見るようになっており、「なんとなく胡散臭い」と思われていた不動産業界で、実際は何が行なわれているのか、少しずつ知られるようになってきています。
私は、不動産業界が自浄作用で内部から変わっていくとは思えず、業界が健全化するには外からの批判にさらされたり、消費者が業界内の悪しき慣習を知って賢くなったりすることが必要不可欠だと考えています。ですから、このトレンドは、歓迎すべき流れだと思っています。
とはいえ、不動産業界が変わったわけではありません。しかも、不動産は非常に高い買い物なのに、セカンドオピニオンやサードオピニオンが取りにくいのです。たとえば、不動産を購入する際、営業マンは「いま決めないと売れてしまいますよ」と煽ってきます。一般消費者(家を購入したり、賃貸したりする人)は、いったい誰の言葉を信じればいいのでしょうか。
「改革」を声高に叫ぶ人ほどあやしい
業界を糾弾する声が少しずつ増えていくにつれ、一方で、マユツバものの業界論が見られるようになったことは非常に残念なことです。
彼らは一見、威勢よく業界の問題を追及しているように見えますが、ひと皮むいてみれば不動産業界の悪しき慣習にどっぷり浸かっている人たちなのです。
そんな問題あるエセ論者をふたつのタイプに分けて解説してみます。これを読んでいるみなさんは、よく注意してください。
(1)ニセ改革論者
「不動産業界はけしからん!」 という声をあげ、「改革」を声高に叫んでいる人のなかには、実は改革を最も望んでいない人が存在します。信じられないことかもしれませんが、政治の世界にも政治家や評論家のなかにそういう人がたくさんいるのはご存知の通りです。
その改革論者がニセモノか、そうでないかを見分ける簡単な方法があります。それは、その人がどこに軸足を置いているかを見ること。「改革だ、改革だ」と叫んでみても、不動産業界の内部に軸足を置いている人は巧みにミスリードを誘って論点をぼかそうとしている人が少なくありません。
つまり、業界の外に軸足を置いている人、すなわち業界内の利権で儲けたりしていない人の言うことは信用できるという結論になるわけですが、自分が「第三者的な立場」であることを強調しすぎている人にも注意が必要です。よく見てみると、そういう人に限って不動産業界の利権から無縁でない人だったりするものです。
(2)コピペ評論家
ネット上の記事のなかには、本や新聞報道などの情報をツギハギしてつくったあやしい記事をよく見かけますが、住宅ジャーナリストとか、建築評論家と名乗る人のなかにも、借り物の知識をコピペしているだけの人もいます。
もっとも、ニセ改革論者から比べると害は少ないですが、情報の信憑性がとぼしく、デマを拡散させかねないという意味では危ない存在です。
大友健右の言うことは信じられるのか?
さて、こんなことを書いている間に、「では大友の言うことは信用できるのか!?」という声が聞こえてきそうです。ここで断言しておきましょう。
大丈夫です。信用してください、と。
かつて私は、不動産業界内ではそこそこ名の知れた営業マンでしたが、2011年に勤めていた会社を退社してからは、業界の利権構造のなかで金儲けをしたことはありません。
現在の私のメインのビジネスは、外壁専門のリフォーム会社の経営です。ですから、完全に業界と手を切ったわけではありませんが、軸足は業界の外にあります。2012年に、大家さんと部屋を借りたい人とを直接つなぐマッチングサイト『ウチコミ!』をスタートさせることができたのも、そういうニュートラルな立場にいるからです。
もし、反論できる人がいれば、どうぞしてください。
私は4年前に本を出版してからというもの、ずっとその声を待ち構えているのです。
今回の結論
・不動産業界では実際に何が行なわれているのか、その実態が知られるようになっており、改革を叫ぶ声もあがるようになってきた
・でもご用心。なかには問題をはぐらかす「ニセ改革論者」や間違った情報を拡散しかねない「コピペ評論家」がいる
・誰を信用していいかは、その論者の軸足を見るといい。業界の利権にぶら下がっている者の意見を鵜呑みにしてはいけない
★★★こちらも併せてお読みください★★★
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この記事を書いた人
株式会社ウチコミ 代表取締役 株式会社総研ホールディングス 代表取締役 株式会社プロタイムズ総合研究所 代表取締役 1972年生まれ。大手マンション会社で営業手法のノウハウを学んだのち、大手不動産建設会社に転職。東京エリアにおける統括部門長として多くの不動産関連会社と取引、不動産流通のオモテとウラを深く知る。 現在、株式会社プロタイムズ総合研究所 代表取締役として、住宅リフォームを中心に事業を展開。また、株式会社ウチコミ 代表取締役として、賃貸情報サイト「ウチコミ!」を運営。入居の際の初期費用を削減できることから消費者の支持を集める。テレビ・新聞・雑誌などメディア出演も多数。