自然災害補償付き住宅ローン 補償範囲と補償内容の基本
平野 敦之
2020/04/03
住宅ローンの獲得競争が激しさを増す中で住宅ローンに付帯する補償(保障、以下補償で統一)が充実しているものが増えています。
例えば生命医療については八大疾病などで所定の状態になったら、生存中でも住宅ローンの支払いを免除したり、就業不能などに対応するものがでてきています。そうした状況の中で2016年末くらいから自然災害の補償を付帯した住宅ローンもでてきています。
多額な住宅ローンの返済に災害で被災した場合、返済を支援する補償について解説します。
■自然災害補償の付いた住宅ローン発売の背景
住宅ローンの補償というと病気で死亡した場合の団体信用生命保険や住宅ローンの返済期間に合わせて火災保険に加入することが過去には一般的でした。
保険や金融商品などと同様に住宅ローンも各社凌ぎを削っており、他社との違いが金利や使い勝手だけでは見えにくい部分もあります。
医療技術の進歩などにより病気になっても必ずしも死に直結するものではなくなっています。また阪神淡路大震災以降続く地震災害や2011年以降は台風などによる風災や水害、雪災による被害も拡大しています。
人生の長い時間をかけて返済する住宅ローンを取り巻く状況も変わってきており、そこに求められるニーズや対応する商品も変わってきたのです。
■自然災害補償付き住宅ローンとは?
自然災害補償の付いている住宅ローンはどの金融機関でも取り扱いをしているわけではありません。また金融機関によって内容に違いがある部分にも注意してください。
一般的に自然災害補償のついている住宅ローンの補償内容には2つのパターンがあります。
一つは住宅ローンの返済を一定期間一部免除するタイプです。もう一つが地震や噴火、津波など限定して建物が全損認定を受けた際にその時点の住宅ローン残高の50%を免除するタイプです。
一般的に前者タイプの取り扱いが多いのですが、なかにはこれら2つから選べるタイプの住宅ローンもあります。主な例として内容をみてみましょう。
・住宅ローン返済の一部免除タイプ
対象災害 |
台風(風災)、豪雨、洪水、雪災、落雷、地震、噴火、津波 |
補償内容 |
全壊:住宅ローン24回分免除 大規模半壊:住宅ローン12回分免除 半壊:住宅ローン6回分免除 |
・住宅ローン残高の50%を免除するタイプ
対象災害 |
地震、噴火、津波 |
補償内容 |
全壊認定の場合、罹災時点の住宅ローン残高の50%を免除 |
このようにタイプによって対象となる自然災害や補償される内容に違いがあります。いずれの場合にも被災状況によって支払いの有無や基準が変わることがポイントです。
上のタイプでみると地震や噴火、津波以外は火災保険でもカバーされる部分があるので被災した際にローンの返済が一部免除されるため生活再建に役立つでしょう。
下のタイプは地震や噴火、津波だけに特化、且つ全損の場合だけに限定しています。これは地震保険が火災保険の契約金額の50%までしか補償されないことについてそれをカバーするものと考えるといいでしょう。地震保険と組み合わせることで住宅ローン返済中に地震などで住まいが全壊になっても、その後二重ローンになることを防ぐことができます。
■自然災害補償付き住宅ローンと火災保険・地震保険の違い
生命医療についても住宅ローンの上乗せ補償があることはお話しましたが、こうしたことを聞くとこれがあれば火災保険の必要性が下がるのではないかと考える人がいます。
基本的な考え方として補償される範囲と補償される期間が違うと考えると分かりやすいでしょう。一般的な火災保険や地震保険は、被災した際にその住まいを元の状態に戻す(火災保険)あるいは被災後の生活再建のために加入するものです(地震保険)。
また火災保険は自然災害以外にも火災やガス爆発、水濡れ(漏水事故など)、盗難、その他偶然な事故による破損汚損などまで幅広くカバーします。
これに対して自然災害補償付きの住宅ローンは、返済に困ったときにその返済を支援するのが主旨です。ローンの返済が免除されることで家計は助かりますし、その分の住まいの修復などに充当することはできますが、住宅の再築や修理などの金額が補填されるわけではありません。
また住宅ローンの返済を支援する主旨ですから、補償される期間は住宅ローンの返済までとなります。住まいは売却しない限り一生涯使い続けるものですから、それ以降はこの部分だけでは補償がなくなってしまいます。
あくまで火災保険や地震保険のプラスアルファという位置づけで考えてください。
■自然災害補償付きの住宅ローンのポイント
新たに住宅を購入、新築する人などが対象となりますが、知っておきたいポイントがあります。一般的にこの補償を付帯するには上乗せ金利がかかることです。
金融機関によりますが、0.1~0.5%程度の金利が上乗せされます。通常は地震などに特化して50%免除されるタイプの方が、上乗せ金利は高く設定されています。また金利に上乗せされるため住宅ローンの返済中はずっと支払いが続く点にも注意が必要です。
住まいのリスクは、物件の場所は構造などによって色々変わります。場所によっては水害のリスクが高い、低いあるいは地盤が強い、弱いなどさまざまなことに注意することが大切です。その上で補償を手厚くする方法の一つとして自然災害補償付きの住宅ローンなどもあると考えてください。
(文/平野敦之 画像/123RF)
この記事を書いた人
平野FP事務所 代表 CFP ®認定者、1級FP技能士、宅地建物取引士、住宅ローンアドバイザー
東京都出身。証券会社、損害保険会社を経て実務経験を積んだ後に1998年から独立して活動をはじめてFP歴20年以上。また相談業務を受けながら、中小企業の支援にも力を入れている。行政機関や大学での非常勤講師、企業研修などセミナーや講演も多数。メディアでの執筆記事も多く、WEBに公開されているマネー記事は550本以上。2016年にお金の情報メディア「Mylife Money Online」の運営を開始。主な著書に「いまから始める確定拠出年金投資(自由国民社)」がある。誰もが自分らしい人生を安心して豊かに過ごすため、「お金の当たり前を、当たり前に。」をモットーに活動中。「Mylife Money Online」のURLはコチラ→ http://mylifemoney.jp