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空き家の相続放棄に関する問題

森田雅也森田雅也

2024/06/20

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近年では、進学や就職を機に生まれ育った土地を離れる方が多くいらっしゃると思います。また、近年では少子高齢化も進み地方でも兄弟のいない一人っ子が多くいらっしゃいます。そのような状況でたびたび問題となるのは、地方在住の両親が亡くなった場合に従前は賃貸物件として使用していたが、近年は空き家となっていた物件をどのように処理するかというものです。そのような土地や建物は、買い手が付く見込みも低く、相続放棄を検討する方が多いのが現状です。今回は、一人っ子であり他に相続人が存在せず、両親が所有していた地方の土地の相続放棄をした場合に空き家の管理義務を負うか、相続放棄をする場合の留意点についてご説明します。

1.空き家の所有権放棄について

まず、相続放棄とは別に、相続した空き家を一方的に所有権放棄するという手段を取ることができるかという問題があります。民法上は、「所有者のない不動産は、国庫に帰属する。」(民法239条2項)と規定していますので、所有権を放棄することを想定しているようにも思えます。しかし、一般的には、建物と共に敷地所有権の放棄は認められないと考えられています。そのため、空き家の所有権を放棄するという手段は、現実的な手段とは言えません。

また、仮に空き家の所有権を放棄できた場合、所有権放棄が検討される空き家は、取り壊しを要する状態の空き家が多いのが現状です。そうだとすれば、空き家が倒壊したことで被害を被った者が損害賠償請求をしてきた場合には、所有権放棄をしたことをもって責任を逃れることは、権利濫用や信義則に照らして認められない可能性もあります。

したがって、空き家を相続したが、継続的な管理を行うことが不可能な場合には、所有権の放棄ではなく、空き家の相続放棄をするという手法を取るべきだと考えられます。

2.相続放棄後の相続人の義務

まず、相続放棄とは、被相続人の資産や負債の相続権を放棄し、相続人ではなくなるという手続きです。民法上は、「相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。」と規定しているので(民法939条)、相続放棄をした者は、相続財産に関する権限を有しないことになります。そのため、空き家を所有していると、毎年固定資産税を支払う必要がありますが、相続放棄により空き家に関する権限を有しなくなるため固定資産税の納付義務がなくなります。

もっとも、固定資産税は、毎年1月1日の時点で登記簿上の不動産所有者となっている者に支払い義務が生じることになります。そのため、1月1日の時点で登記簿上の不動産所有者となっている場合にはその後に相続放棄をしても固定資産税の納付義務を免れることはできなくなるため、注意が必要です。

では、相続放棄をした場合に相続人は何か義務を負うのでしょうか。

これまでの民法では、次順位の相続人が存在しない場合や相続放棄をした者が相続財産を占有していない場合において、相続放棄をした者が財産の管理をする義務があるかは定かではありませんでした。

それを受けて、令和3年民法改正により、相続放棄をした相続人の義務についての条文である民法940条1項は、「相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は第952条第1項の相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない。」とされました。これにより、相続放棄をした方に義務が発生するのはどのような場合か、義務が発生した場合にその義務の内容は何かが明確になりました。

ここでいう「「現に占有」とは、相続放棄をしようとする者が被相続人の占有を観念的にのみ承継している場合を、本文の義務から除外する趣旨であ」(民法・不動産登記法部会資料45・5頁)るとされています。

そのため、他に相続人が存在せず、かつ都会に住みながら地方の空き家を相続放棄した場合には、「現に占有」したとは言えないため、相続放棄をした方は、民法940条1項の管理義務を負わないことになります。

また、本条における管理義務は、次順位の相続人や相続財産法人に対するものであると考えられています(民法・不動産登記法部会資料45・5頁)(しかし、上記の考えは、法制審議会の見解であるため、一般的に定まった法解釈ではない点に注意が必要です。)。そのため、仮に民法940条1項により管理義務を負うとした場合でも、次順位の相続人及び相続財産法人以外の第三者は、他に相続人がいない相続放棄をした方に対して、民法940条1項違反による責任を追及することができないということになります。

3.空家特措法に基づく空き家の管理責任

空家等対策の推進に関する特別措置法(以下「空家特措法」といいます。)上、空き家の所有者又は管理者は、周辺の生活環境に悪影響を及ぼさないよう、空き家の適切な管理に努めなければならないと規定されています(空家特措法3条)。そのため、「特定空家等」に該当すると市役所が判断した場合、当該空家等の除却、修繕、立木竹の伐採及び周辺の生活環境の保存を図るために必要措置を行うように助言指導を受けることになります。

しかし、上記のとおり、他に相続人が存在せず、相続放棄をした方は、民法940条1項の要件を満たさず、管理義務を負わないため、空き家の管理者とならず、市役所が求める必要な措置を講ずべき法的義務は存在しないと言えます。

4.法定単純承認に対する注意

もっとも、相続放棄をしようと考えている場合でも、良かれと思って行った行為が原因で相続放棄ができなくなってしまう場合があります。法定単純承認に該当する行為を行ってしまった場合がこれに該当します。

法定単純承認とは、単純承認の意思表示をしていない場合であっても、一定の行為を行った場合に、単純承認が選択されたとみなす制度です。民法921条1号本文により、「相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき」は、「単純承認をしたものとみな」されるところ、相続放棄をするまでの間に空き家を取り壊す行為は、「相続財産の全部又は一部を処分」する行為に当たるため、法定単純承認事由となり、相続放棄をすることができなくなります。そのため、相続放棄を検討している場合には、空き家に倒壊のおそれがあるからといって空き家を取り壊す等の処分行為となり得ることは行わない方がよいでしょう。もっとも、同条同号ただし書は、「保存行為…は、この限りではない。」と規定しているため、屋根や外壁の補修等の保存行為に留まる行為であれば、法定単純承認事由に該当しないため、相続放棄ができなくなるということはありません。

したがって、相続放棄を検討しており、手続きを完了するまでの間に空き家のメンテナンスが必要な場合に保存行為の範囲でのメンテナンスに留めるべきです。

5.まとめ

以上のとおり、土地や建物は、買い手が付く見込みも低く、相続放棄を検討する場合には、法定単純承認に該当しない範囲で管理をする必要があります。また、「現に占有」をしていない場合には、空き家の保存義務は負わないことになりますが、民法940条1項は法改正されてから間もなく、義務の相手方について定まった法解釈がないため、今後の裁判例にも注目していく必要があります。

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この記事を書いた人

弁護士

弁護士法人Authense法律事務所 弁護士(東京弁護士会所属)。 上智大学法科大学院卒業後、中央総合法律事務所を経て、弁護士法人法律事務所オーセンスに入所。入所後は不動産法務部門の立ち上げに尽力し、不動産オーナーの弁護士として、主に様々な不動産問題を取り扱い、年間解決実績1,500件超と業界トップクラスの実績を残す。不動産業界の顧問も多く抱えている。一方、近年では不動産と関係が強い相続部門を立ち上げ、年1,000件を超える相続問題を取り扱い、多数のトラブル事案を解決。 不動産×相続という多面的法律視点で、相続・遺言セミナー、執筆活動なども多数行っている。 [著書]「自分でできる家賃滞納対策 自主管理型一般家主の賃貸経営バイブル」(中央経済社)。 [担当]契約書作成 森田雅也は個人間直接売買において契約書の作成を行います。

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