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洋の東西を問わず行われてきた「上棟式」、宗教的な意味合いと歴史(2/2ページ)

正木 晃正木 晃

2020/05/25

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神社本庁が示す日本の「上棟式の基準」とは

鎮魂や飲食のプロセスは、日本の上棟式に通じる。ただし、日本の伝統的な上棟式はもっと複雑で、手がかかる。神道式については、神道界を統括する神社本庁から、上棟式の基準がしめされている。

祭神は屋船久久遅命(やふねくくのちのみこと)・屋船豊宇気姫命(やふねとようけひめのみこと)・手置帆負命(たおきほおいのみこと)・彦狭知命(ひこさしりのみこと)の四柱の神々にくわえ、当地の産土神(うぶすながみ)である。祭祀の順番は、他の祭祀と変わらない。神職による清めの儀礼として修祓(しゅばつ)→神々をお招きする降神→親善に供物をそなえる献饌→祝詞奏上が行われる。ついで、上棟式特有の儀礼として、棟木を曳き上げる曳綱の儀、棟木を棟に打ちつける槌打の儀、餅や銭貨を撒く散餅銭の儀がいとなまれ、最後に玉串拝礼→供物をさげる撤饌→神々にお帰りいただく昇神がいとなまれ、一同で神酒をいただき神饌を食べる直会(なおらい)で終わる。

もっとも、これらは現時点における基本形であり、古い時代は祭神も儀礼も異なっていた。祭神のランクは問題にならないほど高く、最初の神とされる天御中主(あめのみなかぬし)・大日孁貴(おおひるめのむち=天照大神)・月弓尊/月読尊(つくゆみのみこと/つきよみのみこと)というぐあいに、皇室祖神が祀られていた。仏寺の場合、江戸時代には、ヒノキの板で駒形をつくり、表側の中央に大元尊神(たいげんそんしん=天御中主)ならびに家門長久栄昌守護所と書き、その左右に火を鎮める水神の罔象女神(みつはのめのかみ)、雨の神の五帝龍神、木工の祖神の手置帆負命(たおきほおい)、計量や建築をつかさどる彦狭知神(ひこさちのかみ)などの神号を記していた。

上棟式に代表される建築儀礼は、上記の例のみならず、世界中に見られる。建築物を浄化したり祝福するために、動物が殺されて埋められていた事実は、この連載でも、「家」という漢字の成り立ちを記した際に、すでにふれた。屋根を意味する「宀」の下に描かれている「豕」は「犬」もしくは「豚」であり、古代中国では家を建てるにあたり、犬や豚を殺して神霊を祀り、儀礼をいとなんでいたのである。しかし、最も衝撃的な事例は、同じ目的で、人間を殺す習俗である。

たとえば、南太平洋のソロモン諸島ブーゲンビル島に居住するブイン族は、かつて酋長の会堂を新築するにあたり、人狩りをしていた。人狩りされた者は、殴り殺されたうえで解体され、頭と手足を柱壁に縛りつけられて、矢と槍の的にされた。死体は埋葬して10日後に掘り出され、その骨は部位ごとに、死者の霊魂をあらわす木像とともに、建物の特定の場所に祀られた。こうした処置により、殺された者が建物の守護霊になると信じられていたからだ。なんと野蛮で残虐と思うだろうが、日本でも城郭や橋の建設にあたり、いわゆる「人柱」を建てたという話が、虚実入り混じって伝えられているではないか。

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この記事を書いた人

宗教学者

1953年、神奈川県生まれ。筑波大学大学院博士課程修了。専門は宗教学(日本・チベット密教)。特に修行における心身変容や図像表現を研究。主著に『お坊さんのための「仏教入門」』『あなたの知らない「仏教」入門』『現代日本語訳 法華経』『現代日本語訳 日蓮の立正安国論』『再興! 日本仏教』『カラーリング・マンダラ』『現代日本語訳空海の秘蔵宝鑰』(いずれも春秋社)、『密教』(講談社)、『マンダラとは何か』(NHK出版)など多数。

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